カテゴリーアーカイブ:行政

児童福祉司の増員

2022年3月31日   岡本全勝

3月19日の日経新聞が「島根、児童福祉司増やしケア拡充 一般職の資格取得支援」を伝えていました。
これまであまり注目されなかった児童福祉司が、脚光を浴びています。そして行革続きの中、思い切った人員増ができなかった行政で、このような増員ができるようになりました。

・・・児童虐待の相談件数が約20万件(2020年度)と過去最多を更新する中、子どもや保護者に対するケアの拡充が急務となっている。対応にあたるのは主に児童相談所に勤務する児童福祉司。国は22年度までに人口3万人に対し1人を配置するよう定めるが、人材不足もあり現時点で基準に達するのは36道府県(推計)にとどまる。トップクラスの島根県や神奈川県では採用手法の多様化が効果を生み出しつつある。

児童福祉司は保護者の育児相談に応じたり、虐待されるなどした子どもを保護したりする公務員。大学で教育学などを学んだ人や福祉施設で実務経験がある人などが就く。21年4月時点の従事者は全国4844人。相談が増え続けている現状を踏まえ、5年で1.6倍になった。
国はさらなる増員が不可欠として19年に「児相管轄地域の人口4万人に1人以上配置」としていた基準を改正。「22年度までに同3万人に1人以上」とした。ただ、なり手は限られ「自治体間で取り合いになっている」(立正大の鈴木浩之准教授)・・・

・・・増員はケア拡充に向け一定の成果を上げている。20年度の神奈川県の1人あたり相談受付件数(政令市などを除く)は、16年度比約5件減の44.8件となった。県福祉子どもみらい局は「一人ひとりに細かな対応が可能になった」と強調する。島根県青少年家庭課も「夜間など緊急案件への対応力が増した」と話す。
ただ、国内の児童福祉司数は現時点で英国(3万人)の6分の1程度。虐待問題などを研究する子どもの虹情報研修センターは「専門職が圧倒的に足りない」と指摘する。幅広い支援に向けNPO法人などと連携を図る自治体も増えてきた。埼玉県は「児童虐待防止サポーター」制度を17年度に開始。虐待抑止や早期発見につなげる狙いで、21年度は600人を募集した・・・

「お笑い大蔵省極秘情報」

2022年3月29日   岡本全勝

3月23日の朝日新聞夕刊「時代の栞」は、テリー伊藤著『お笑い大蔵省極秘情報』(1996年)を取り上げた「競争社会極めた人間の業」でした。

・・・霞が関の競争社会の頂点にいるとされた大蔵官僚。全員がそうではないだろうが、出世のためには人を欺くことさえ厭わない彼らのゆがんだ本音がこの本からうかがえる。
「大蔵省から見たら、尻尾が見えていない日本人はいないんですよ」
「われわれにとっては大蔵大臣はどんなアホでも同じなんですよ」
たしかに東大法学部出身者は多い。仕事に誇りと自信を持つのはいいが、人を見下すような発言はいただけない。「京大や早慶は刺し身のツマ。(官僚トップの)事務次官なり主計局長になったりすることは皆無です」。そんな発言も載っている・・・

・・・テリーさんが一番驚いたのは彼らに迷いがないことだったという。「『間違ったことを俺はひとつもしていない』と言うのです」。脈々と続く官僚システムに忠実に従っている限り、自分は安泰だと思っていたのだろうか。
本が出版された90年代は、バブル崩壊後の景気低迷や金融危機の時代だった。巨額の不良債権を抱えた住宅金融専門会社(住専)の処理や金融機関の破綻処理のため、公的資金を投入することにも国民から不満の声が上がった。その裏で次々と明らかになったのが、大蔵幹部が受けていた過剰接待。逮捕者が出たり、蔵相や事務次官が辞任に追い込まれたりした・・・

ところが、懲りずに、その後も破廉恥な行為を繰り返します。1998年には「ノーパンしゃぶしゃぶ」料理店での接待問題が表面化します。何を勘違いしたのでしょうね。私はこの本を読んでいません。とはいえ、私も同業者です。

記事には、1990年代から最近までの大蔵省(現財務省)をめぐる不祥事が列記されています。転載しておきます。この年表には書かれていませんが、1998年の接待汚職事件を受けて、1999年に国家公務員倫理法が制定されました。

1995年3月 信用組合理事長からの過剰接待が発覚。大蔵省幹部2人を訓告処分
12月 元東京税関長が過剰接待問題で辞職
1998年1月 四つの都市銀行の担当者からの高額接待が明るみに。大蔵検査官2人を収賄容疑で逮捕
3月 大手証券からの収賄容疑で課長補佐ら2人を逮捕。主計局長、官房長らを処分
4月 民間金融機関からの過剰接待問題で職員112人を処分
6月 金融監督庁発足で大蔵省から金融検査・監督部門が分離
(2001年1月 中央省庁が「1府12省庁体制」に再編成される。大蔵省は財務省に)
2008年6月 タクシー事業者からの利益供与「居酒屋タクシー」問題で職員600人の金品受領が発覚
2018年4月 テレビ朝日女性記者へのセクハラ発言を報じられた福田淳一事務次官が辞任

砂原庸介ほか著 『公共政策』

2022年3月28日   岡本全勝

砂原庸介、 手塚洋輔著『公共政策』(2022年、放送大学教育振興会)を紹介します。これは、新年度から始まる放送大学大学院の教科書です。詳しい内容は、リンクを張った授業のページを見てください。
個別分野の行政を説明するのではなく、「公共政策が社会の中でどのように形成され、社会に対してどのような影響を与えているかを描き出す」(講義概要)もので、少し高度な内容になっています。
砂原教授の説明

これまでこの科目と教科書は、御厨貴先生が編者で、砂原教授たちが分担執筆していました、代替わりしということですね。
二人は、新進気鋭の行政学者です。もう、新進とは言えない年齢ですかね。

新年度(4月1日)から始まります。インターネット配信もあります。聞かなくても、本を読むだけでも勉強になります。
「行政や公共政策をもう一度勉強してみよう」と考えておられる方に、お勧めです。

小西砂千夫著『地方財政学』

2022年3月20日   岡本全勝

小西砂千夫先生が『地方財政学: 機能・制度・歴史』(2022年、有斐閣)を出版されました。500ページ近い大著です。これまでも先生はたくさんの地方財政の本を出版されていますが、それら研究成果の集大成でしょうか。

歳入と歳出の概要、国と地方の財政関係、財政調整制度の仕組みなど、日本の地方財政制度と実態を説明するだけでなく、次のような項目もあります。
 序章「統治」の学としての地方財政学
 第1部 地方財政をめぐる枠組み
  第1章 地方財政制度の起点
  第2章 地方財政をめぐる法的な枠組み
すなわち、制度の沿革にさかのぼり、なぜこのような制度ができているのか、政策制度の意図まで書かれています。学者による分析だけでなく、制度を設計した政府の側に立っての説明もあるのです。
これだけのことを書ける人は、なかなかいません。この本が定番になるでしょう。

冒頭のはしがきに、先生が、地方財政の制度運営(自治省)と研究(学界)との狭間を埋めることを任務とされた、いきさつが書かれています。私との対談(2004年)だそうです。光栄なことです。対談「地方交付税制度50年:三位一体改革とその先の分権へ」(月刊『地方財務』2005年1月号。対談の写真
先生は、総務省地方財政審議会会長に就任されました。

道化師政治家

2022年3月20日   岡本全勝

3月5日の朝日新聞オピニオン欄、フランスの作家クリスチャン・サルモンさんへのインタビュー「幅利かす道化師政治家」から。
・・・トランプ前米大統領やジョンソン英首相ら、政策を語るよりも騒ぎを繰り返す政治指導者が、なぜか人気を集める。沈滞した既存の政治を転覆させる道化師のような政治家を人々が求めているからだと、フランスの作家クリスチャン・サルモンさんはみる。その道化師を、情報技術を駆使するエンジニアが操る時代なのだという・・・

――扇動や挑発を繰り返す政治家が、今の世にはばかります。なぜこうなったのでしょうか。
「多くの政治家が新型コロナ対策で右往左往しているだけに、トランプ氏やジョンソン氏、ブラジルのボルソナーロ大統領といった傍若無人な首脳の言動は、確かに目立ちます。トランプ氏はツイートをばらまき、ジョンソン氏はジョークを連発し、ボルソナーロ氏は勝手な予言を繰り返す。大げさで、人々をからかい、ののしる姿は、まるで道化師(ピエロ)が政権を握ったかのようです」
「ナチス・ドイツはイデオロギーで人々を扇動しましたが、トランプ氏らの扇動には理念の一貫性などありません。流動的な世界を巧みに渡り歩き、デジタル空間に散らばって浮遊する人々の意識を、自ら騒ぐことによって結集する。『偉大な米国』『英国の主権』といった幻想を利用して、集団をまとめようと狙うのです」
「世の中のインテリやリベラルは、あんな道化師のどこがいいのかと批判しますが、全然わかっていない。道化師であることこそが、今や政治家の成功の秘訣となったのですから」

――まじめに政策を議論する政治は、お呼びでないと。
「例えば、フランスのマクロン大統領のような政治家は、将来に希望を持てる肯定的な世界観を築こうとしていますが、あまりうまくいってません。これに対し、道化師政治家はこれまでの政治を徹底的に否定して、政治不信を高めることに成功しました。左右両派の政治に失望し、既存の政治を否定する極端な主張や陰謀論に流れた一部の有権者の意識を引きつけたのです。現代の政治運動は、民主的な議論からではなく、このような不信感から生まれます」
「支持者らは、道化師政治家を『真実を語る』などと礼賛します。でも『政治家は信頼できない』という政治家が信頼を得るのは、大いなる逆説ですね」

「ただ、道化師政治家だけだと注目を集めることはできても、大衆を動員することはできません。道化師の背後には必ず、アルゴリズムを駆使して戦略を立てるエンジニアが控え、デジタル空間での支持拡大をもくろんでいます。大量のデータを分析し、例えば政策をテーマにしたオンラインゲームを開催して若者の関心を引きつけるなどします」

――2008年にあなたにインタビューをした際、戦後の政治指導者を3段階に分類されたのが印象に残っています。国家の枠組みをつくったチャーチル英首相やドゴール仏大統領ら「国父の時代」が第1世代、石油危機以降の経済を支えたシュミット西独首相ら第2世代の「専門家の時代」、自らの軽薄な成功物語を語ることで人気を集めるサルコジ仏大統領やブレア英首相ら第3世代の「ストーリーテラーの時代」です。今は第4世代ですか。
「むしろ第5世代でしょう。ストーリーテラーの時代は、2008年から本格化した金融危機とともに去り、その被害を査定するオランド仏大統領ら『会計士の時代』に移りました。その後に到来したのが『道化師の時代』です」
「そこにはもう、民主的な手法で政策論争をしたり、首尾一貫した統治を政府が進めたりする姿はありません。かつて政治を語り合ったアゴラ(広場)はアルゴリズムに、政党はポピュリズム運動に、取って代わられました。理念が入り乱れ、イタリアでは右翼と左翼が政権をつくった例もある。もはや『政治』とは呼べない『ポスト政治』の時代。政治家は有権者に選ばれたはずなのに、全く正統性を持ち得なくなりました」
「私たちは、あらゆる政治の指標をブラックホールに投げ込んだあげく、自らもそこに吸い込まれてしまったのです。政治不信の渦は、渦自体ものみ込みました」