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行政-行政機構

ダム建設、有識者意見と国の結論

12日の日経新聞は、「淀川4ダム整備、不透明に。有識者会議がノー」を解説していました。国土交通省が計画する淀川水系の4つのダムについて、国交省の外部有識者会議が、見直しを求める意見書を出したのです。記事にもあるように、国がつくる有識者会議は通常、国の方針を追認することが多いのですが、これは極めて珍しいケースです。
実は2003年にも、この4ダムを含む5つのダムについて、委員会は建設抑制を提言しました。しかし、国は2007年夏に、建設案をつくったのです。元委員長は、「形式的な手続を踏むために、委員会を開いただけ」と批判しています。詳しくは、原文をお読みください。

その3 財政改革・行政改革・地域の経営

拙稿「地方財政の将来」(神野直彦編著『三位一体改革と地方行財政』(2006年、学陽書房)所収)に、今後の地域の行財政運営のあり方について書きました。
そこでは、財政運営だけでなく、市役所の経営や地域の経営にまで視野を広げて、議論しました。財政改革は必要ですが、財政は市役所運営の財政的裏付けでしかありません。市役所を経営体と考えれば、より広く行政改革が必要であり、さらには組織統治が必要なのです。ここで言う行政改革は、より小さなコストでよりよいサービスを目指すことです。組織統治(広義)は、民間企業での経営と対比したもので、事業の品質管理(クオリティー・アシュアランス)、法令順守(コンプライアンス)、企業統治(狭義、コーポレート・ガバナンス)の3つです。
さらに視野を広げれば、市役所もまた、よりよい地域を作るための道具でしかありません。すると、地域の経営、すなわちよりよい地域を作るにはどうしたらよいかを、考えなければなりません。そこでは、何が市役所の目標であるかを考え直すことと、行政の守備範囲(行政以外の公共サービスを提供する主体との連携)を考える必要があります。

その2 政府のパフォーマンスへの疑問

このように、マネージメントは組織(会社、政府)の内部に着目したものです。一方、ガバナンスは、その組織を作った者との関係まで視野を広げます。すなわち、組織を株主や国民から委託された代理人と見なして、どれだけ委託者(株主、国民)の意向を反映しているかを見るのです。
このような議論が始まったのは、次のような背景があります。企業にあっては、会社は株主のもの(アメリカ的考え)か、経営者と従業員などのもの(日本的考え)か、という議論がありました。所有と経営が分離された段階で、所有者(株主)と経営者(会社)との関係が、問題になったのです。オーナー社長の場合は、これが問題になりません。
政府にあっては、国王が国家・国民・政府の所有者である場合は、オーナー社長です。しかし、民主主義になって、国家と政府の所有者が国民になると、委託者である国民と受託者である政府の関係が問題になります。
政府にあってガバナンス論が大きくなったのは、政府の機能不全があります。1970年代まで、日本を筆頭に西欧先進諸国では、政府・経済・社会が蜜月時代にありました。好調な経済成長に支えられ、政府は行政サービスを拡大し、また国民から信頼されていました。しかし、その後、経済成長の低下とともに、財政赤字の拡大、政府の非効率が目立ち、政府のパフォーマンスに疑問が持たれるようになったのです。
行政改革、新自由主義的改革、NPMなど、いくつものアイデアが持ち込まれました。そして、行政機構内部の改革(スリム化・効率化)から出発して、政府の生産物(政策や行政サービス)を問うところまで議論が広がりました。スリム化は、現在のサービスを前提として、効率化を目指します。生産物を問う場合は、そもそも政策が国民の期待に応えているかが、問われます。顧客重視です。続く。

ガバナンス、マネージメント、アドミニストレーション

以前から、ガバナンスとマネージメントについて考えています。大連載では第4章で書く予定です。関係する書物を読んで、少しずつ考えが整理できつつあるので、書き留めておきます。
(ガバナンス論の民と官)
ガバナンスが取り上げられるようになったのは、1990年代、コーポレート・ガバナンス(企業統治)からのようです。それに触発されて、パブリック・ガバナンスの議論が盛んになっています。
まず、ガバナンスとマネージメントと、どこが違うか。ガバナンスは統治・支配であり、マネージメントは管理・経営です。前者は、株主が経営者を選び、経営を委任し、その執行を監視することです。会社の目的を決定することも含まれます。株主は会社の所有者です。
後者は、経営者が会社を経営することです。さらに、マネージメントには、狭義のマネージメントとアドミニストレーションがあります。狭義のマネージメントは経営であり、経営者が目的に沿って事業戦略を立て、組織・人員・予算、さらには経営システムを決定します。アドミニストレーションは、より下位の監督で、事務の執行管理です。経営者でなく、各部門の責任者(課長など)が行います。
これを政府に当てはめてみましょう。政府が会社であり、株主は国民です。国民が政府の所有者です。国会を通して内閣に行政を委任します。国民が政府を支配することが、ガバナンスです。かつて、統治といえば、政府が国民を統治しました。主体は政府であり、統治客体は国民でした。被治者とも呼ばれます。しかし、新しいガバナンス概念では、統治(支配)の主体は国民であり、統治されるのは政府です。続く。