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行政-行政機構

生活保護基準額決定過程を明らかにしなかった

1月24日の朝日新聞に「生活保護減の決定過程、説明責任は 名古屋高裁判決、「ブラックボックス」と国を批判」が載っていました。

・・・生活保護の基準額を2013年から段階的に引き下げた国の決定を違法とした昨年11月の名古屋高裁判決は、異例の手法をとった国の決定過程を「ブラックボックス」と批判した・・・
・・・まず一つ目は、一般の低所得者世帯との均衡を図る「ゆがみ調整」だ。この調整は、専門家らが入る厚生労働省審議会の検証結果を踏まえたものだが、同省は独断で調整幅を一律に半分のみとする処理をした。この結果、基準を上げるべき世帯も十分に上がらず、全体で90億円分の保護費が削減された。さらに、こうした対応をしたことを、同省は国民や審議会の委員にも知らせていなかった。
判決は半分にすること自体は「厚労相の裁量権に属する」と認めた一方、専門家の検証結果を変更することは「非常に重要な政策判断」で、「明らかにして是非を問うことが必要不可欠」だったとする。
16年に北海道新聞が報じるまで3年以上、2分の1調整の事実が伏されていたことを「ブラックボックス」と表現し、「国民に知らされず、専門家も検証できなくされていた」と指摘。情報公開に後ろ向きな姿勢に対し、「国民や専門家からの批判を避けようとした可能性も十分に考えられる」とまで言及した。

二つ目の「説明不足」に挙げたのが、厚労省が独自指数をもとに、08~11年の物価下落分を反映させた「デフレ調整」(580億円分)。テレビやパソコンなど保護世帯では支出が低い品目も、同省は専門家に諮ることなく、一般世帯の消費支出をもとに下落率を算出。07~08年には物価が上昇していたが、そこは考慮せず、08年以降の物価下落だけを反映させていた。
判決は専門家の検証を経ないだけでは「過誤、欠落があると言えない」としつつ、その場合は「全体が具体的に説明されなければならない」と指摘。国は妥当性を主張したが、「判断の過程の全体が具体的に説明されているとは言えない」と認定した。
当時の厚労省担当者は口頭弁論で、役所の意思形成過程に関わるとして多くの証言を拒否した。判決は「ブラックボックスにしておいて、専門技術的知見があるから検討の結果を信用するよう主張することは許されない」と強調した・・・

客観的、公正性が、官僚の矜持だったのですが。これは、どうしたことでしょうか。役所の中のどの段階で、このような作業と非公表が決められたのでしょうか。

目標の設定されていない予算

11月29日の朝日新聞「膨張予算」は、「ずさんな目標「民間なら通らない」 水ぶくれの基金、見直し迫られる国」でした。

・・・水ぶくれする国の基金で、約190の事業のうち少なくとも43事業で、成果の数値目標がない実態が明らかになった。目標が明確でなければ、事業が失敗しても、見直されずに無駄遣いが続くことになる。有識者から改善を求める声が相次いでおり、国も見直しを迫られている。

10月のデジタル行財政改革会議で、家計簿アプリを運営するマネーフォワードグループの瀧俊雄執行役員は苦言を呈した。「民間であれば経営会議を通らない。血税をあてはめていいのか」
瀧氏が問題視したのは、「失敗を許容する」として、文部科学省が「ムーンショット型研究開発プログラム」の目標を設定していないことだ。ほかにも、不合理な理由を並べて、目標を設定しない事業が相次いでいる。
目立つのが「グリーンイノベーション基金」や「中小企業イノベーション創出推進基金」など、コロナ禍以降に新設されたもの。担当する経済産業省は「支援対象の採択が完了していないため」などとし、支援する案件を決めてから目標を設定する構えだ。
ただ、先に事業で何を目指すかを決め、達成するのに必要な予算を確保するのが本来あるべき順序だ・・・

予算を編成する担当者からすると、基金は予算規模を膨らますには、都合のよい手法です。そしてそれが使われないと、後に不用額となって歳入として使えます。これも、都合はよいのですが。必要なところに、必要なときに、必要な予算を配分するという原則とは異なる思想です。

政府予算、基金の問題。民間に丸投げ

朝日新聞が「膨張予算」という連載で、政府の基金を検証しています。さまざまな対策で基金が創られますが、使われずにいるものも多いのです。10月20日は「巨額の基金、企業が仕切る 官から運営委託、補助金審査も」で、もう一つの問題を分析してしいました。
役所が仕事を企業に丸投げすることで、能力が低下する問題についてはコメントライナー「役所にも人工知能がやってくる」で解説しました。

・・・経済対策の補助金などに使う国の基金が急増している問題で、主要な業務の大半を民間企業に委ねる基金事業が相次いでいることが分かった。公的機関だけで執行を担えないほど基金の規模が急拡大したためだ。補助金をどこに配るのかという政策的な判断が必要な業務も企業に委ねられ、中立性や公平性が問われる事業もある。

一度の補正予算としては過去最大の8・9兆円を基金に投じた2022年度の第2次補正の事業について、朝日新聞がお金の流れを各省庁の資料から分析した。その結果、予算計上された基金50事業計8・9兆円のうち、民間企業に補助金を配る事務局を委ねているものは8事業計3・9兆円分あった。
基金の多くは、独立行政法人や公益社団法人など公的機関が運営を担っている。一方で、8事業では、一般社団法人などがいったん基金の設置を引き受けたうえで、補助金の支給先を決める審査を含む業務の大半を、広告大手や民間シンクタンク、人材派遣会社に委ねていた・・・

・・・やむを得ず、この基金の実施を担う農林水産省以外の4省庁は、一般社団法人、低炭素投資促進機構に資金の管理を担当させ、審査の支援など業務の大半を野村総研などに外注することにした。機構の関係者はこう解説する。「うちには一切ベンチャー育成のノウハウが無い。だから、専門知識がある企業に実務をお願いせざるをえない」
経産省関係者によると、2020年度補正で新設した「中小企業等事業再構築促進基金」も、独立行政法人、中小企業基盤整備機構に運営を依頼したが、他の事業を新たに引き受けているとして断られた。結局、実務をパソナにほぼ「丸投げ」することで、機構が基金の設置に応じたという・・・

指定管理者制度20年

日経新聞文化面が10月23日から3回連載で「指定管理者制度20年の功罪」を載せていました。

・・・公共施設の管理・運営に民間の参入を認める指定管理者制度が導入されて今年で20年。美術館やホール、図書館といった文化施設では開館時間の延長など利便性が増す一方で、経営効率化による専門人材の大量離職などひずみも生じ、地域の文化芸術を振興する施設の使命が揺らいでいる。制度の弱点をどう乗り越えるのか。最前線を追った・・・

入場者数は増えたが、働く人の待遇の悪さ、学芸員が定着しないこと、定期的に事業者を選定し直すことで長期的視点が欠如することなどが挙げられています。
かつての経験から、直営だから良いとは言えません。他方で「経費削減」という視点でなく、どのように機能を活かすかという視点が必要なようです。「丸投げ」はよくないです。
報道機関だけでなく、行政でも、この仕組みの功罪を検証すべきですね。

新型コロナ対策、国と地方の連携経験の記録

大村慎一・前総務省新型コロナ対策等地方連携総括官兼地域力創造審議官の執筆による「新型コロナウイルス感染症対策に関する地方連携推進の取組」が、月刊『地方自治』10月号に載りました。
大村君は肩書きにあるように、新型コロナウイルス感染対策で、初期に国と地方の連携がうまくいかず混乱した際に、自治体との連携を強化して混乱を乗り切った責任者です。その功績は大きいです。私はコメントライナー8月10日号「マイナカード問題と組織管理」でそれを述べました。

当初、国からは次々と連絡が発せられたのですが、受ける側の自治体は混乱しました。他方で、現場での課題が政府本部に伝わらず、その面でも混乱しました。
患者の隔離と受け入れ、治療などは、厚生労働省と医師会の世界ですが、住民や患者との関係で第一線に立つのは自治体です。その点では、東日本大震災での被災者支援と同じ構図になります。
現場での課題を吸い上げ、整理し、政府本部・関係部局で対応策を検討し、自治体に打ち返します。また、政府が決めたこと、今後の見通しを、現場に伝える必要があります。通達や通知を送りつけるだけでは、仕事は進みません。現場の状況を想像しつつ、指示を出す必要があります。

新型コロナ対策での政府の危機管理については、本部とその事務局がどのように運用されたか、いくつも記録と検証をする視点があります「新型コロナ対策の検証、行政の課題」。携わった官僚が書いてくれることを期待しているのですが。まず、大きな問題だった自治体との連携を、大村君が書いてくれました。
47ページの力作です。参考になります。関心ある方は、ご一読ください。