カテゴリー別アーカイブ: 行政機構

行政-行政機構

「公文書を守れ」

月刊誌『文藝春秋』8月号に、「公文書を守れ 高市捏造発言、森友事件を叱る」という座談会が載っています。福田康夫・元首相、上川陽子・元公文書担当大臣、老川祥一・読売新聞会長、鎌田薫・国立公文書館長(前早稲田大学総長)、加藤丈夫・前国立国会図書館長(元富士電機会長)による座談会です。

福田総理が法案作成の決断をした理由、担当大臣に上川大臣を任命した理由などを話されているのも興味を引きますが、本年春の元総務大臣の「捏造」発言や重要裁判記録の廃棄問題、森友学園に関わる文書改ざんなどの近年の問題から、原爆開発や金大中事件、トランプ問題まで、実に幅広く文書に関する話題が取り上げられていて、充実した内容です。
そして、公文書は、国家がいまこうなっていることを説明するための資料だということ、これを作成・管理するのは公務員ですが、それを勝手に改ざんしたり捨てたりすることは言語道断であるとお叱りがあります。
詳細は原文をお読みいただかなければいけませんが、まずはこんな肩書や経歴の人たちが公文書についてこんなに心配していることに、驚きです。確かに国家や社会の仕組みを知り尽くした人たちの視点からみると、公文書の重要性がよく理解されるものなのでしょう。

二点、気のついたことを書きます。
一つは、アーキビストという専門職についての期待です。「自分たちの文書は自分たちが責任を持つ」というのが日本の官僚の基本的な姿勢でしょう。外部の専門家をうまく業務の中に取り込んでいけるのか、現状の風土では難しいと思います。とはいえ、公文書の改ざんや廃棄という問題が続くと、「公務員たち自身に任せておけない」との意見が強くなるでしょう。

もう一つは、これだけのメンバーがいながら、官僚出身者が一人もいません。この分野での役人の発言権が無いこと、発言しようとする者もいないことが、さびしいかぎりです。この対談の中に、実務の面から見た提案や将来像が入っていれば、充実していたと思います。関連した公文書管理の経験者などの発言を期待します。
情報公開法の制定や内閣法の改正、公文書管理法などによって、役人の仕事ぶりがどう変わったか変えられなかったなど実務者としての正直な経験を話したり、あるいは国民との共有の仕方についての提案をしてほしいのです。本来、文書を作り保管している役人こそが、発言と提案をしていくべき分野です。そういう提案ができるような雰囲気を少しづつでも作っていきたいと、わたし自身の問題として思いました。
なお、これに関連したことを、コメントライナー「行政文書は正確か」に書きました。

文化庁の京都移転

5月22日の朝日新聞文化欄「文化庁の京都移転を考える

井上章一・国際日本文化研究センター所長の発言から。
・・・私個人としては、文化庁の方々に、ややお気の毒だなという印象です。移転は地方創生事業の一環ですが、文化庁は様々な文化、芸術を担っており、東京のほうがメリットが大きいと言い続けました。移転が決まり、職員が何を思っているか。「なんで自分たちだけが都落ちしなければならないのか」という魂の叫び声が聞こえてきます。
京都側も抵抗したことがあります。京都は地方ではない。地方という言い方を変えてくれと。そういう京都側と、地方創生目的で移転した文化庁が、うまく折り合いをつけられるとは思えませんが、来てしまったので前向きに考えなければなりません。

霞が関の役人は、すべてを書類で判断します。京都では、文化が営まれている現場を目にして頂きたい。その楽しさ、おもしろさに目覚めてほしい。そうすれば、書類だけで動く霞が関文化が変えられるかもしれません。外交的な場での武器にもなるはずです・・・

河島伸子・同志社大学教授の発言から。
・・・文化庁の京都移転が「関西の活性化にどうつながりますか」とよく聞かれますが、京都の応援や関西の活性化のために文化庁が来たわけではありません。一番大事なのは、地方の視点を持つということです。
公演や展覧会といった文化のイベントや施設は、東京に集中しています。それぞれの地方に豊かにある文化への目配りが、今まではどうしても薄かったと思います。京都に移ることで、文化庁の職員も「地方都市とはこういうことか」と実感を持ってわかるのではないでしょうか・・・

長屋聡執筆「第二次臨調以降の行政改革施策」2

長屋聡・前総務省総務審議官が「第二次臨調以降の行政改革施策を振り返って(その1)」に続き、季刊『行政管理研究』3月号に、その2を書いています。

今回は、規制緩和・規制改革を扱っています。行政による社会経済への介入を削減することです。過度な介入を減らし、民間活動を活発にして、経済発展と国民生活の利益を上げようというものです。
主な規制改革の事例が、1990年代、2000年代、2010年代に分けて、表になっています。若い人は知らないでしょうから、よい資料になると思います。

行政改革が、かつてのような行政組織の改革から、それが行う作用の改革、社会への介入の改革に移っていることがわかります。

学校現場への文書半減の試み

4月20日の専門情報誌「官庁速報」が、「学校現場への文書半減=山梨県教委」を伝えていました。県の教育委員会から学校に、1年間で1500枚もの文書が送られているとのことです。
新型コロナウイルス感染症に関して、各省から自治体に膨大な数の文書が送られたことを、かつて紹介しました。役所で仕事をしているとき、送りつけられる大量の文書を「紙爆弾」と揶揄していました。あまりにたくさん来ると、処理できずに放置され「不発弾」のままで埋もれてしまいます。受け取る方の事情を知らずに、自分の方の都合だけで仕事をすると、こんなことが起きます。

・・・山梨県教育委員会は今年度から、市町村教委や学校現場へ送る文書を半減させる取り組みを始めた。国や各種団体からの通知を県教委が精査し、「送付しない」「市町村教委に留め置く」などと分類。共有の必要があるもののみ、要点をまとめた文面と共にグループウエアや校務支援システムで学校現場に送信する。
県教委によると、学校現場に送付される文書は年間1500枚以上に上る。事務負担を軽減し、教育の質向上を図る。教員の担い手確保にもつなげたい考えだ。

今後、国が行う調査やアンケートは、学校基本調査など法律に基づくものや、いじめ調査など児童生徒の命に関わるもの以外、県や市町村教委が分かる範囲で回答し、教員が対応する文書の数を減らす。
県による調査やアンケートは、必要性や方法を見直し、政策立案が目的の場合は必要最低限で実施。可能なものは標本抽出で行う。毎年定例的に行っている調査などは、2~3年に1回などに頻度を下げる・・・

自治体での昇任試験

コメントライナー第9回「人事評価、職場と職員を変える手法」にも書いたのですが、職員の昇任試験が行われている自治体があります。その数は、5都府県、369市区町村です。昇任試験の実施状況については、総務省が調査しています。「地方公共団体の勤務条件等に関する調査」の17。

昇任試験は優秀な職員の選抜のためですが、機能はそれだけではありません。合格しなかった職員に、その後の処遇を納得させる機能も果たしています。人事評価だけでは、「上司と人事課は、私の能力を正当に評価してくれない」と不満がたまりますが、客観的な試験に落ちれば、その点について本人は納得せざるを得ないでしょう。

他方で、情実人事を防ぐ役割も果たしています。
かつて聞いた話ですが、役場幹部や議員から「特定の職員を昇任させるように」との圧力がかかる場合があります。きっぱりと断ることができればよいのですが、なかなかそうもいかない場合もあるようです。
その場合に昇任試験があると、「彼は試験に受かっていないので昇任させることができません」と断ることができるのです。その目的のために、試験を導入した自治体もあったようです。