「官僚論」カテゴリーアーカイブ

行政-官僚論

最低賃金を下回る国家公務員給与

7月29日の朝日新聞に「国家公務員の給与、207機関で最賃下回る 高卒一般職の初任給、8都府県で」が載っていました。

・・・国家公務員の給与が、最低賃金を下回っている地域があることがわかった。高卒一般職の初任給を時給に換算すると、地域の最賃を下回るのは少なくとも8都府県で200機関を超える。公務員は最賃制度の適用は除外されているが、人事院は最賃を下回らないように対応を検討している。

現在、国家公務員の高卒一般職の初任給は16万6600円。国家公務員の給与を定める「給与法」では、超過勤務手当を算出するための「勤務1時間あたりの給与額」の計算方法が示されている。これに基づいて計算すると高卒初任給の時給は約992~約1191円になる。時給に幅があるのは、勤務先がある市町村ごとに0~20%が加算される「地域手当」があるためだ。
日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)が、厚生労働省、国土交通省、法務省、国税庁の出先機関と裁判所について調べたところ、8都府県の計60市町村にある207機関で高卒初任給が最賃を下回ったという。
最も多いのは最賃が1001円の兵庫県で、ハローワークが10カ所、税務署が8カ所など43機関だった。神奈川県の34機関、京都府が29機関と続く。東京都は12機関だった。
公務員は毎年1月で昇給する。現在の水準でみると、地域手当ゼロの地域では高卒で就職して最初の1月で時給が約992円から約1012円へと上がる。それでも千葉県など6都府県は最賃の方が上回っている。東京都と神奈川県の地域手当がゼロの場所で勤めると、高卒5年目まで最賃より低い水準が続く計算だ・・・

官僚の活躍

7月26日の朝日新聞「けいざい+ 発着枠争奪戦:4」は「コロナ禍の余波、中立悩んだ官僚」でした。
・・・羽田空港の発着枠の配分を決める検討委員会。これを取り仕切る国土交通省航空局の航空事業課は、省内のエースが集う部署だ。検討委が続いていた6月時点で課員は22人。平時から航空各社とのやり取りをしている。
重田裕彦航空事業課長(現物流・自動車局旅客課長)は発着枠の議論について、「全社の意見は採用できないため、中立の立場で論理的に対外的な説明ができるかどうかを重要視した」と話す。

羽田の発着枠を決める舞台は、航空事業課での勤務経験者によると、「かなり気を使う」。この期間中は、特定の社に肩入れしていると見られないよう、ネクタイの色まで気にする官僚もいるという。
同課には日頃から航空各社が出入りしており、付き合いも深い。
「どの社にもそれなりに納得してもらわないといけない。一方の不満が残りすぎて永田町に駆け込まれたら役人人生も終わり」(国交省関係者)というシビアな世界だ・・・

重田課長は、復興庁発足当初に、組織人事担当として苦労をかけました。平岡・航空局長とは省庁改革本部で一緒でした。

公務員離れ「国家衰退レベル」

5月31日の日経新聞夕刊に「公務員離れ「国家衰退レベル」 世界に学ぶジョブ型とは」が載っていました。しかしこれを訴えたのは、人事院です。記事に次のように紹介されています。「国家公務員の人事制度を協議する人事院の「人事行政諮問会議」は5月に公表した中間報告でジョブ型の必要性を訴えた。現状が続けば質・量ともに人材が不足し「国民の安全な生活に支障を来し、国家の衰退にもつながりかねない」と強調した」。詳しくは記事を読んでいただくとして。

・・・若年層が国家公務員を志望しなかったり早期に離職したりする傾向に歯止めがかからない。職務内容を明確にして成果で処遇する「ジョブ型」の働き方が打開のカギを握る。外国の例に学ぶ。
「大半が主体性のない仕事に感じた。やりたいことをするのに10年はかかる」。2021年度に総合職で経済官庁に入った20代男性は1年足らずで退職した。実力本位で仕事ができる金融系スタートアップに転職し働きがいを実感する。
人事院によると「キャリア官僚」と呼ばれる国家公務員総合職の採用試験の志願者は23年度に1万8386人と12年度に比べて27%減少した。採用10年未満の退職者も18年度から3年連続で100人を超えた。14年度は66人だった・・・

・・・ジョブ型の浸透には報酬の体系の見直しも欠かせない。23年度に採用した国家公務員の8割以上が仕事の魅力を高める対策に「給与水準の引き上げ」を挙げた。
シンガポールは省庁事務方トップの事務次官など幹部候補の養成コースに選抜した人の給与を閣僚や民間の高額所得者の水準に合わせる。政府資料から事務次官の年収は100万シンガポールドル(約1億1500万円)超と推計できる。
同国の国家公務員は30代後半から40代で月5000米ドル(約80万円)以上の手取りを受け取り得る。職務を明確に規定し優れた業績を残すと昇給やボーナスで報いてもらえる。資源が乏しく人材立国を掲げ、国策として公務員の人手を確保する・・・

・・・公務員制度に詳しい荒木尚志東大院教授は「学生は社会貢献への意欲を失っていない」と指摘する。公務員と民間の仕事の垣根がなくなりつつあり、社会貢献の仕事もできる外資系コンサルティングやスタートアップに人材が流れているという。
仕事の魅力や処遇を民間並みに高めれば、中央官庁に人材を呼び込める可能性はある。荒木氏は公務にジョブ型を浸透させ、若者をひきつけるキーワードに「納得感」を挙げる。
日本では若いうちは様々な部署を移り変える「ジョブローテーション」が主流だ。幅広い分野の知見や経験を積める利点がある一方、専門性を身に付け、いかす実感は持ちにくい。荒木氏は「若い世代はこの分野で自分が第一人者になりたいという思いが強い。ローテーションを過度に押しつけては人材が離れる」と話す。全般をこなすゼネラリストが出世しやすい人事は見直しの余地がある。

ジョブ型や民間との交流を拡大する以前の問題として、世界でも特異な日本の国家公務員の働き方を早急に改める必要がある。
人事院によると、22年度に部署ごとに定めた勤務時間を超過した職員は、業務を自己完結できない部署全体の16%、1万2000人ほどだった。閣僚の国会答弁をつくるため議員の質問案を待ち、時に未明まで作業する悪弊は一向になくならない・・・

官僚の不満は、やりがいと給与に集約できるでしょう。企業に勤めた大学時代の友人と比べると、やりがいは主観的なものが入りますが、(企業に勤めた人が全員ではありませんが)給与の差は歴然としています。

これまでは、日本の労働市場では転職は難しかったのです。官僚たちは不満を持っていても、我慢して、「自分たちは国家に貢献しているのだ」と自分を納得させてきました。しかし、転職が可能な社会になると、我慢する必要はなく、自らの技能で転職できるのです。そして、経験年数を基本とした昇進と給与体系は機能しなくなりつつあります。人事院が提言したジョブ型への転換は、一括採用、経験年数による昇進、それに応じた給与体系を壊します。
役所側が働く内容と処遇を変えないと、できる官僚は逃げていきます。いよいよ働き方改革が本格化するでしょう。転職自由社会が与える衝撃です。

官僚で身につく技能

5月23日の朝日新聞「霞が関にこだわらない?3」「社会課題解決、ロビー活動でもう一度」から。

・・・民泊参入の「壁」が昨年7月、見直された。仕掛けたのは、「ロビー活動」を支援する会社「ポリフレクト」を経営する宮田洋輔さん(41)だ・・・
・・・企業が政府や議員に働きかける「ロビー活動」は欧米ではさかんだ。米企業がロビー活動に投じる費用は年間6千億円超とされ、「ロビイスト」も1万人を超える。「市場ルールをゆがめる」との批判があるが、ルール形成に当事者の企業が関わるのは当然でもある。
役所任せの日本企業の姿勢を目の当たりにし、「ならば、自分がやる」と思いが膨らみ、13年12月、IT企業に転職した。

転職して気づいたのは、官僚経験の「価値」だった。仕事の日程や進め方を事前に作り込む「ロジ業務」は、官僚時代は「無駄が多い」とうんざりしていたが、民間では「効率的な仕事の進め方」と評された。業界や政治家など様々な関係者の利害を調整する「根回し」も、典型的な官僚の手法だ。しかし、この作業を通じて、物事を様々な立場から考える視座が身についていた。「自分がいかに成長していたか、霞が関の外に出て初めてわかった」

民間企業に5年弱在籍し、より幅広い社会課題に関わりたいとの思いが強まり、18年7月に独立し「ポリフレクト」を立ち上げた。政府側が「一企業の利益」と判断しがちな要望も、広い視座で捉えれば社会課題の解決につながる。手がけるのは、そんな案件だ。
企業だけでなく古巣の経産省関係者からも「政策の意見を聞きたい」と声がかかる。ロビー活動は、企業と官僚の間の「垣根」を下げることができる。今はそんな思いで、霞が関を奔走している・・・

霞が関官僚のやりがい

5月22日の朝日新聞「霞が関にこだわらない?2」「幸福運ぶミツバチ、地域のために」で井上貴至さん(38)が取り上げられていました。
井上君は総務省官僚で、現在は山形市の副市長です。鹿児島県長島町の副町長のとき、様々な企画を打ち出し、スーパー公務員とも呼ばれています。

・・・井上さんは「これだけの挑戦ができるのは、自分が霞が関の官僚だからこそ」と言う。「長島の副町長になったのが29歳。いま38歳で、中核市である山形市の副市長をやらせてもらえる。官僚でなければ、こんなポストは任せてもらえない」
長時間勤務が原因で離職する人がいるなど、霞が関が直面する課題も理解している。
それでも、霞が関に希望はある、と思う。国の看板を背負って、誰とでも会える。そこで受けた刺激を仕事に生かせば、日本の将来を良い方向に変えられると信じる。

「企業はまず従業員や株主の利益を考えるが、行政はすべての住民がステークホルダー(利害関係者)。全員の幸福を考えながら青臭く理想を論じられることが、官僚の最大の魅力です」
やれることはまだまだある。だから、霞が関を諦めない。そう決めている・・・