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行政-官僚論

読売新聞社説「国家公務員離れ 政治の劣化が招く「官」の負担」

2月16日の読売新聞社説は「国家公務員離れ 政治の劣化が招く「官」の負担」でした。詳しくは原文を読んでいただくとして。連載「公共を創る」で書いているように、政治主導への転換の過渡期としての混乱でしょうか。政治家が政治家の役割を果たし、官僚が官僚の役割を発揮できるようにしてほしいです。

・・・国の針路に携わる官僚が誇りを失えば、政策立案能力は低下しよう。与野党は質問通告や「官」との接触のあり方を改める必要がある。
内閣人事局は、昨秋の臨時国会で中央省庁が答弁の作成にかけた時間を調査した。答弁は全864件で、作成に着手した平均時刻は、委員会前日の午後8時前、答弁を作り終えた平均時刻は当日の午前3時近くだった・・・

・・・官僚が答弁に労力を割くのは、国会が本来の政策論争の場になっていないことが背景にある。
野党は、首相や閣僚のスキャンダルの追及や、発言の揚げ足取りに終始しがちだ。答弁を準備する官僚は、枝葉の部分にまで気を配らねばならず、負担は大きい。
国会を政策の狙いや意義を問う議論の場に改めていくことが不可欠だ。そうした取り組みが、官僚の働き方改革につながろう。
政治主導をはき違え、野党が「ヒアリング」と称した会合で、官僚を高圧的な態度で問い詰めるケースも少なくない。「官僚いじめ」のような場面が報道された結果、国家公務員の仕事に魅力を感じなくなった人も多いはずだ。
不尽な手法を改めなければ、若者の「国家公務員離れ」に歯止めはかかるまい・・・

・・・官僚の意欲を高めるには、処遇の改善も課題となる。
大卒の総合職の初任給は18万9700円で、大企業に比べれば見劣りする。国家公務員が海外に出張する際の宿泊費は、1984年の規定が今も適用されており、自腹で差額を 補填せざるを得ない状態だという。改善は急務だ。
行政改革の結果、国家公務員数は現在、30万人まで減少し、今も定員削減計画の最中にある。一人にかかる負担は増していよう。
日本の国家公務員数は人口比では欧米各国より少ない。官僚の採用増も検討すべきではないか・・・

追悼、石原信雄さん

石原信雄・元官房副長官が、お亡くなりになりました。

石原さんは、自治省の大先輩。石原さんは昭和27年採用、私は53年採用。これだけ離れていると、一緒に仕事をすることは少ないのですが。
私が財政局財政課で係長職(主査)を勤めているとき(27歳、28歳)の、財政局長でした。扉で続いている局長室に呼ばれ、話される内容を筆記するなどしました。私の雑な殴り書きは、読めなかったと思います。

官房副長官として、不安定な内閣を長年にわたって支えるという、重要な役割を勤められました。大変なご苦労だったと推測します。
官房副長官室には何度か行ったのですが、何の案件だったかは覚えていません。その頃は総理官邸に行くこと自体が珍しく、緊張しました。建て替える前の、小さな暗い官邸です。それにもびっくりしましたが。

省庁改革の際は顧問会議の一員となられ、参事官の私は、事務局長と一緒に何度も説明に行きました。
その後も、お呼びがあったり、私の方から報告や相談に上がりました。いつも、にこにこ聞いてくださいました。12月にも、お目にかかったばかりでした。
ご冥福をお祈りします。

国会対応残業調査

1月20日に、内閣人事局が「国会対応業務に関する実態調査結果」を公表したことが、報道されていました。

資料の表は読みにくいので、朝日新聞の報道(1月21日)を紹介します。
「官僚が、答弁作成に着手可能となった平均時刻は、質疑がある委員会前日の午後7時54分で、答弁を作り終えた平均時刻は、委員会当日の午前2時56分。答弁作成にかかった平均時間は7時間2分だった。
国会議員からの質問通告は、与野党間で「(委員会)2日前の正午まで」と申し合わせているが、調査では、通告の約37%は前日の正午から午後6時に集中し、それ以降にずれ込むケースも約6%あった。申し合わせ通り通告されたケースは、全体の約19%にとどまった」

別の取り方では、答弁を作り終えた平均時刻は朝の4時です。これは平均ですから、もっと遅いのもあるということです。作り始めるのが、平均で前日夜の8時からですから。答弁案を作るだけでは終わらず、これを国会の会議が始まる前に、大臣や副大臣に説明しなければなりません。

これが、働き方改革を掲げている日本政府の働き方の実態です。質問通告は国会議員がするので、官僚たちは自分たちでは働き方を改善することができません。官僚たちが空しくなるのは、わかります。
緊急を要する質疑なら仕方ありませんが、1日早く質問内容がわかれば、残業をする必要はありません。あるいは官僚を巻き込まずに、政治家同士で議論をすれば、こんなことは起きません。

執筆者たちが語る『現代官僚制の解剖』

先に紹介した『現代官僚制の解剖』について、執筆者が座談会で語っておられます。
鹿毛利枝子・北村亘・青木栄一・砂原庸介「『現代官僚制の解剖』刊行に寄せて――官僚について何がわかり何がわからなかったのか」(有斐閣「書斎の窓」9月号、4ページから28ページ)。

執筆者たちが何を意図したか、何に苦労したか、何ができなかったか、今後の課題は何かを語っておられます。また、鹿毛利枝子・東大教授が執筆者でない立場で、意見を述べておられます。
調査に協力した立場として、不十分だった点については忸怩たる思いがあります。今後、内閣人事局が参画するなりして、改善して欲しいです。

25ページにわたる長文です。ご関心ある方は、お読みください。インターネットで読むことができるのは、便利です。

官僚捜査案件の見送り

6月25日の朝日新聞夕刊「惜別」、元編集委員・村山治さんによる、熊崎勝彦・元東京地検特捜部長の追悼記事から。

・・・ 1980年代から90年代にかけて東京地検特捜部に通算11年余り在籍した。副部長として金丸信・元自民党副総裁の脱税事件やゼネコン汚職事件を手がけ、特捜部長として旧大蔵省(現・財務省)の接待汚職事件を摘発した。事件の根っこには戦後日本を支えた護送船団システムの劣化があった。そこに切り込んだ特捜検察は、国民の支持を受け、輝いていた・・・

・・・「許せないことがある。10年たったら明らかにする」。熊さんが一度だけ、ぶぜんとした表情で私に語ったことがある。
大物大蔵キャリア官僚が捜査対象に上ったとき、法務・検察の幹部は「官僚システムが壊れる。立件すべきでない」と、現場に圧力をかけた。摘発は見送られ、熊さんはまもなく富山地検検事正に「栄転」した。
不祥事情報をちらつかせて捜査をつぶしたのか、と見当をつけたが、熊さんは何も語らず世を去った。「まあ、いいじゃないか」。梅雨空から熊さんの明るい声が聞こえた気がした・・・