カテゴリー別アーカイブ: 地方行政

地方行財政-地方行政

教育委員会の閉鎖体質

3月30日の朝日新聞夕刊「どうなる寄宿舎4」「廃止の決定 当事者抜きで」から。

・・・2022年5月20日、栃木県立那須特別支援学校(那須塩原市)の体育館に保護者が集まった。県教育委員会は21年11月、那須、栃木(栃木市)両特別支援学校の寄宿舎を23年3月末で廃止する、と全校の保護者に通知した。通知から4カ月後の22年3月に1回目、この日が2回目の保護者への説明会だった。

約7年かけて廃止を検討してきた、と県教委の特別支援教育室長が説明すると、父親の1人が質問した。「検討の過程でなぜ、寄宿舎生とその親の意見を聞かなかったのですか」
室長が「検討の場には保護者の代表にも入っていただきました」と返すと、体育館はどよめいた。「聞いていない!」。母親の1人が立ち上がり、「ここ15年間のPTA会長がこの場に来ています。誰も聞いていません」と言った。

朝日新聞が開示請求で入手した県教委の会議録によると、21年5月、非公開の有識者会議が1度限りで開かれていた。特別支援学校の保護者1人が参加していたが、子どもは寄宿舎を利用していなかった。
県教委は、当事者の意見を聞かずに廃止を決めた過程をどう総括するのか。阿久沢真理教育長に取材を申し込んだが、「どの社の取材も受けていない。お断りします」(総務課)との返答だった・・・

「どの社の取材も受けていない。お断りします」が、取材を受けない理由になるのですかね。
議会はどのような議論をしたのでしょうか。知事や市町村長が責任を持たない教育委員制度は、問題が多いです。

(追記)
と書いたら、31日の夕刊に「5 密室の審議、存続の願いは」で、県議会の審議が書かれていました。委員会審議は、すべて非公開だそうです。会議録の開示も、ほとんどが塗りつぶされていたそうです。なぜこの議題が、秘密にしなければならないのでしょうか。

住民組織が土地利用も議論

3月16日の日経新聞、斉藤徹弥・編集委員の「滝桜の三春、持続する自治 住民組織が土地利用も議論」から。

・・・人口減少で使われなくなった土地をどう管理していくのか。国が今夏に策定する国土計画は、地域の土地利用を住民が話し合って決める「国土の管理構想」という考え方を取り入れる。それを40年ほど前から実践している町があると聞き、福島県三春町を訪ねた・・・
・・・街づくりの中核は独自の住民自治組織「まちづくり協会」が担う。若い商業者らに街づくりの機運が高まっていた1982年、当時の伊藤寛町長が合併前の町村単位の7地区に設けた。
住民は同町出身の建築家、大高正人氏ら専門家を交えて三春らしい街づくりを考えた。「住民にとって何が必要か考え、住民との共同思考を重視する。そこで培われた住民自治の力が事業の成否を決める」。伊藤氏は退任後、日本建築学会でこう振り返っている。
住民自治は様々な分野で事業を前進させた。建築では三春住宅研究会や学校建築研究会といった公民連携に発展し、町に優れた建築を生んだ。
土地利用では農地や宅地などのゾーニングを協会が担った。住民は説明会やワークショップで土地の歴史や人口動向も踏まえた議論を重ね、土地利用計画をまとめた。会合は7地区で延べ205回に上ったという・・・

・・・国は国土の管理構想を市町村主体に進める方針で、三春の取り組みは一つの理想だ。そこでは首長の熱意や住民自治組織の力量が問われる。ただ住民自治組織は60〜70代が中心で、企業の定年延長もあり、人材確保は三春でも課題だ。
郡山市に隣接する岩江地区は子育て世代の流入が多い。新しい住民と関係を築くため、伊丹さんは通学や給食で子どもを見守る活動に力を入れ、健康づくりのサロン活動も始めた。地域に育てられた記憶が子どもに残れば、将来戻ってくるきっかけにもなる。
伊藤元町長は「住民がこだわりを持って造ったものには愛着が湧き、町を愛する心が生まれる」とも語っていた。住民自治の街づくりは人づくりでもある。時間と手間を要するが、地道に取り組み続けること自体が地域の持続につながる・・・

「平成の地方制度改正をひもとく」2

山﨑重孝・元自治行政局長を中心とした座談会「平成の地方制度改正をひもとく」(月刊『地方自治』)、2023年2月号は職務執行命令訴訟の改正についてです。(1月号

2000年に行われた分権改革以前は、機関委任事務という分類がありました。地方公共団体が処理するのですが、首長(知事、市町村長)が法令に基いて国から委任され、「国の機関」として処理する事務です。
機関委任事務について国は包括的な指揮監督権を有し、知事が機関委任事務の管理執行について違法や怠慢があった場合に職務執行命令訴訟を経て主務大臣による代執行を行うことができるうえ、総理大臣による知事の罷免が可能でした。公選による知事の身分を奪うことはおかしいので、知事罷免制度は1991年の地方自治法改正により廃止されました。

なぜ機関委任事務や職務執行命令訴訟という仕組みがあったのか、そしてなぜ廃止されたのか。この座談会を読むと、よく分かります。

「平成の地方制度改正をひもとく」

月刊『地方自治』2023年1月号から、山﨑重孝・元自治行政局長を中心とした座談会「平成の地方制度改正をひもとく」が始まっています。
戦後改革で地方自治が制度化されました。その後、安定した時代に入り、地方自治法は大きな改変がありませんでした。それが、平成に入って、さまざまな改正が試みられ、その延長線に分権改革が行われました。

私は若い頃、自治省財政局で交付税法の改正を毎年やっていたので、行政局が法律改正をしないことを「批判」していました。一方で、地方自治法の逐条解説はどんどん立派になるので、「法改正でなく、逐条解説ですませているのではないか」とです。
もっとも交付税法改正も、制度を大きく変えるのではなく、数字の更新と小さな改正でした。自治法にしろ交付税法にしろ、よくできていた法律なので、基本的な改正は不要だったともいえます。

どのようにして、動かない法制度を変えていったか。関係者の思いと苦労が書かれています。これは、勉強になります。

砂原庸介・神戸大教授「領域を超えない民主主義の未来」

東京大学出版会の宣伝誌『UP』2月号に、砂原庸介・神戸大教授が「領域を超えない民主主義の未来」を書いておられます。

昨秋に出版された『領域を超えない民主主義』を踏まえて、地方自治における民主主義の課題を簡潔に述べたものです。『領域を超えない民主主義』では、都市圏と一致しない自治体の区域が、地域課題を適切に解決できない問題を取り上げていました。そしてその終章で、多くの問題の基底に自治体における政党の不在があることを指摘していました。

この本に限らず、砂原教授の基本的視角は地方行政における政党の不在です。『UP』の小論では、その点が明快に説明されています。一読をお勧めします。