カテゴリーアーカイブ:社会の見方

旅行収支の黒字

2017年2月18日   岡本全勝

2月8日に財務省が発表した2016年の国際収支。経常収支が過去2番目の黒字になり、大震災以来赤字が続いていた貿易収支も黒字になりました。ここで紹介するのは、その中でも、「旅行収支」です。
旅行収支は、訪日外国人が日本で使ったお金と、日本の海外旅行者が国外で使ったお金の差し引きです。これが、2015年に半世紀ぶりに黒字になり、2016年もさらに大きくなりました。1兆3千億円の黒字です。もちろん、訪日外国人が2千万人を超え過去最高になったことと、「爆買い」によるものでしょう。
インターネットで検索すると、過去の変化をグラフにしているものがありました。それを見ると、旅行収支が急速に良くなっているとともに、出国日本人数が1990年頃までに増加し、その後訪日外国人数が激増しています。日本が経済成長し海外旅行に行くようになったこと、近年そしてアジア各国が経済成長して日本を訪れるようになったことが、よくわかります。

世界の観光客にとって、日本はまだまだ魅力ある国だと思います。そして、アジアには10億を超える民がいて、これから経済発展するのです。期待できますね。

政治が支える経済の仕組み

2017年2月12日   岡本全勝

先日「アメリカ資本主義の行き着くところ」という記事(2月7日)で、ロバート・ライシュ著『最後の資本主義』(邦訳2016年、東洋経済新報社)を紹介しました。実は、この本を読んだのは、そのような「アメリカ式強欲資本主義」を知りたかったからではありません。資本主義、自由市場を支えているのは、政治によってであることを主張しているからです。

経済学では、市場経済における政府の役割は、次の3つと教えます。資源配分機能、所得再分配機能、経済安定化機能です。しかし、これは財政の役割であっても、政府の役割のすべてではありません。例えば、所有権が保障されること、会社に法人格を与え株主には無限の責任が及ばないこと、取引でもめ事が起きたら裁判で決着をつけること、契約が履行されないときは政府の力で強制されること、証券取引所で株が売買されることなど。日常の経済活動が成り立つように、政府が法律をつくり、紛争処理や執行を行わないと、自由市場、自由主義経済は成り立たないのです。決して「自由」な経済ではありません。政府が整えた仕組み、関係者が守る制度や慣習の上で、自由に振る舞うということです。

この本では、資本主義が成り立つ要素を、詳しく分析しています。ライシュ教授によれば、次の5つです。
所有権、所有できるものは何か
独占、どの程度の市場支配力が許容されるか
契約、売買可能なのは何で、それはどんな条件か
破産、買い手が代金を支払えないときはどうなるのか
執行、これらのルールを欺くことがないようにするにはどうするか
そして、現在のアメリカの経営者たちは、このルールの抜け道を使って巨万の富を得ているというのが、教授の主張です。そして教授は、これまでは市場に対して政府の大きさが問題になっていたが、大きさではなくルールの作り方が問題だと主張します。
納得しました。まだまだ、紹介したいことはあるのですが、ご関心ある方は本をお読みください。翻訳もこなれていて、読みやすいです。

社会をよくするために、政治と行政は何をしなければならないか。それが私の研究テーマです。「政府の役割」と言って良いでしょう。その際に、市場と国家の関係は大きな課題の一つです。
行政の分類」で「国家の役割と機能の分類」を試みました(連載「行政構造改革」2008年9月号に載せました。私のホームページでは、表は読めなくなっています。うまく移植できなかったのでしょうね)。整理して、大学の授業で解説しようと考えています。

アメリカ資本主義の行き着くところ

2017年2月7日   岡本全勝

ロバート・ライシュ著『最後の資本主義』(邦訳2016年、東洋経済新報社)が勉強になります。アメリカの資本主義が、この30年間でどれだけすごい格差を生んだか。一部の経営者がとんでもない報酬を得て、他方で一般の労働者の給料は下がっています。その実態を、経営者については実名と報酬額を挙げて、説明しています。自由市場の名の下に、金持ちがルールを変える、その中には法律をも自分たちの都合の良いように変えたことで達成されたのです。
次のような記述もあります。「はじめに」
・・・今後の米国における最大の政治的分断は、共和党と民主党の間では起こらないだろう。起こるとしたら、大企業やウォール街の銀行や、政治や経済の仕組みを自分を利するように変えてきた超富裕層と、その結果、自らが苦境に立たされていることに気づいた大多数の人々の間においてであろう・・・
この本は、2015年に書かれた本ですが、トランプ大統領の出現を予言していたのですね。

詳しくは本書を読んでいただくとして、一部の超大金持ちとその他大勢、そしてその他大勢の犠牲の上に超大金持ちが成り立っている図式は、日本にいては実感がわきません。こんなあくどいことをして、数千億円、数兆円の資産をため込むのか。リーマン・ショックで多額の公金を投入してもらいながら、経営者たちは責任を取らず、高額の報酬をもらって逃げます。AIGのCEOであったマーティン・サリバンは、在任中に株価が98%下落し、同社を救うために1800億ドルを税金で支援しました。彼は退職する歳に、4700万ドルの解雇手当をもらいました(p137)。こんな例が、次々と示されています。

このような構図は永続するはずがありません。商品を買うはずの中間層がいなくなるのですから、いずれ、商品を売っている会社は業績が下がります。しかし、これらの経営者は会社の発展より、いかにして株価を上げ、報酬を得るかという短期的視野での行動をしています。
アメリカという国が資本主義の権化であり、経済界が国や政治を抱え込んでいることがわかります。
この項続く。

水島治郎著『ポピュリズムとは何か』

2017年1月30日   岡本全勝

水島治郎著『ポピュリズムとは何か』(2016年、中公新書)がお勧めです。ヨーロッパでの極右政党の伸張、イギリスでのEU離脱国民投票、アメリカでのトランプ大統領選出と、ポピュリズムが世界を揺さぶっています。
この本は、それらを含め、先進諸国のポピュリズムを分析しています。ラテンアメリカ、ヨーロッパ(フランス、オーストリア、ベルギー、デンマーク、オランダ、スイス、イギリス)、アメリカ。
国によって、社会的・政治的背景が異なり、その意味するところが異なります。ラテンアメリカでは、極端な貧富の差や支配層と国民との格差を埋める「解放の論理」と位置づけられます。ヨーロッパでの極右政党は、排外につながる「抑圧の論理」と位置づけられます。理想の国と思っていた、ベルギーやスイスで極右政党が支持を伸ばし、国民投票がその手段となっていることなど。学校や本では習わなかったことが、近年の先進諸国で起きていたのですね。
詳しくは本を読んでもらうとして、次のか所だけ紹介します。1990年代以降、ヨーロッパのデモクラシーが、なぜポピュリズム躍進の舞台となったのか(p61以下)です。
1 グローバル化やヨーロッパ統合の進展、冷戦終結といった変化の中で、それまで各国で左右を代表してきた既成政党の持っていた求心力が弱まり、政党間の政策距離が狭まったこと。
左右の政党の違いが見えなくなり、既成政党への不満が高まったことを背景に、既成政党批判を掲げポピュリズム政党がその不満を引き受けた。
2 政党を含む既成の組織・団体の弱体化と無党派層の増大。
20世紀の有権者は、それぞれ労働組合、農民団体、中小企業団体、医師など専門職団体などに属し、それぞれが支持する政党に投票した。これら組織の弱体化、宗教組織の弱体化により、これら支持団体に支えられていた既成政党が支持者の減少に直面した。他方で、組織に属さない無党派層は、エリートや団体指導者を「我々の代表者」と見なさず、「彼らの利益の代表者」と位置づける。
3 グローバル化に伴う社会経済的な変容、とりわけ格差の拡大。
それによって、失業者やパートタイマーという新たな下層階級が生まれている。

マンホール

2017年1月26日   岡本全勝

マンホール、あの道路にある穴と蓋です。下水道などの点検の際に、作業員が出入りするように作られています。
その語源が、人(man)の(通る)穴(hole)だと、知っていましたか。あるとこで教えてもらい、ウイキペディアを見たら、確かにそう書いてあります。なるほどと思いつつ、安直な命名ですね。
その連想で思い出しました。東大寺大仏殿の中の柱に、穴が空いているものがあります。大仏さんの右後ろ(大仏さんからは、左後ろ)の柱です。くぐると御利益があるとのことです。私も、子供の時にはくぐりましたが、大人になってからは引っかかりそうで、試したことがありません。大きな柱とはいえ、柱に穴を空けるのは、危険なことと思うのですが。あれも、マンホールかな。