カテゴリーアーカイブ:社会の見方

水町先生の労働法入門

2017年3月23日   岡本全勝

水町勇一郎著『労働法入門』(2011年、岩波新書)が、すばらしいです。出版されたときは、「法律の入門書、しかも労働法を新書で書いて、面白いのかなあ」と思って、読みませんでした。2月12日の日経新聞読書欄で、川本裕子・早稲田大学教授が紹介しておられたので、読みました。読んでみると、新書という読みやすさと、新書とは思えない内容の濃さです。

1 具体事例から入るので、わかりやすいです。海外旅行の予定を立てていたのに、上司から仕事のために時期を変えて欲しいと指示された場合。定年間近になって、後輩に職を譲るために自宅で休養を命じられた場合。
2 国や時代によって労働に対する考え方が違い、労働法はその社会の考えを反映していること。また、法律を変えることで、働き方を変えることができること。
3 西洋の市民革命で、領主や同業組合に縛られていた人々を解放し、自由で独立した存在としました。しかし、自由に働くことができる反面、それまであった共同体の保護を失うことになりました。そして、労働者は過酷な条件の下で、働かざるを得なくなりました。そこで、契約の自由と言う原則を変え、労働契約は法律で一定の規制をかけることにしました。そして、集団としての労働者を守ることも、導入しました。
4 ところが、20世紀の後半から、従来の労働法が前提としていた状況が変わってきました。工場で集団で働くといった標準的な労働者が減って、より自由な裁量で働くホワイトカラーや専門技術者が増え、またパートタイム労働者や派遣労働者も増えました。すると、従来の労働法では、社会の変化について行けなくなったのです。そのために、各国は1980年代以降、労働法のあり方に修正を加える改革を進めています。
私は、1970年代に大学で労働法を学びましたが、その後の社会の変化とそれに対応するための労働法の改革の動きが、とても勉強になりました。労働組合が機能不全になっているのも、この社会の変化によるのでしょう。
5 日本の労働関係の特殊性も解説されています。終身雇用、よほどのことがない限り解雇しないことを前提とした雇用システムです。メンバーシップ型労働社会であり、職に就く就職でなく、会社に入る就社です。それによって、法律や判例が諸外国と異なるのです。
6 労働法には、労働基準法のような規制の法律とともに、雇用政策の法律があること。働けなくなったときに生活を保障する失業手当です。このような消極的労働市場政策だけでなく、より積極的な労働市場政策もあります。雇用調整助成金や職業訓練助成です。
7 社会の変化に応じて、労働政策を変えていく、そして労働法制を変えていく。それが、国家や会社、社会に求められています。

法律というと、無味乾燥な世界と思われるでしょうが、こんなに面白いのです。そして、社会や国家の役割が大きいことがわかります。勉強になりました。

上手な事故対応を学ぶ

2017年3月21日   岡本全勝

3月7日の読売新聞に、辻伸弘さんの「サイバー攻撃 事後対応で評価」が載っていました。
・・・サイバー攻撃が巧妙化する中、セキュリティー事故はどんな組織で起きても不思議ではない。
ひとたび、情報漏洩などが発覚すれば、社会から糾弾され、時には「袋だたき」にあうこともある。セキュリティー対策の甘さや対応の遅れが検証されることは当然必要だ。だが中には、発覚後の情報開示や再発防止策の内容の感心させられるケースもある。きちんと対応したところと、ほとんど何もしなかったところが同じように扱われるのはおかしいのではないかー。
そんな問題意識から、私を含むセキュリティー業界の有志5人で昨年から始めたのが「情報セキュリティ事故対応アワード」である。情報開示と説明責任の観点から事後対応を評価し、表彰する取り組みだ。事故を起こしたことを責めるばかりでは萎縮してしまう。むしろ適切な対応を褒めることで社会全体の対応を向上させようという「北風より太陽」作戦である・・・

詳しくは原文をお読みいただくとして、今年の表彰結果がインターネットで見ることができます。

国立公文書館特集

2017年3月17日   岡本全勝

先月、このページで国立公文書館を紹介しました(2月23日)。月刊「東京人」4月号が、国立公文書館を特集しています。良い企画ですね。雑誌にとっても、公文書館にとっても。
このような施設は、展示品を見ただけでは、その展示物のもつ意味がわからないのです。解説が必要です。

経済を支える社会資本

2017年3月9日   岡本全勝

3月6日の日経新聞オピニオン欄、ファイナンシャルタイムズ、マーティン・ウルフさんの「インド、経済大国への課題」から。インドが経済発展を続けていること、さらなる発展が期待できることを指摘した後に。
・・・だが、白書は他の新興国との違いも明らかにした。民間部門の活用や土地所有権の保護が不十分なこと、特に教育と医療分野の国の制度の不備、非効率な所得再分配の3点だ。これはインドの民主化に経済発展が追いついていないことが原因だと白書は述べている。
重要な課題が長期的には3つ、短期的には1つある。
長期的課題の1つは教育だ。教育は州が責任を持つもので、モディ政権は各州が改革を競い合う「競争的連邦主義」を打ち出している。しかし、教育に関してはこの施策がまだ十分機能していない。
2つ目は環境だ。今後50年にかけ、実質GDPは5倍に拡大する可能性がある。都市化も急速に進み、人口集中が進む。インドは化石燃料の利用を大幅に増やさずに発展していく必要がある。
3つ目は外部環境だ。無理のない条件で試算すると、世界のGDPに占めるインドの財・サービスの輸出の割合は、現在の0.6%から10年間で倍増する。ただし、先進国で現在、起きている反グローバル化の動きを考えると、スムーズにはいかないかもしれない・・・

経済、そして経済発展を考えるとき、経済取引の世界で考えているだけでは、理解できません。それを支えるさまざまな社会の仕組み、国民の意識、慣行があるのです。その点では、近代経済学は視野が狭いと思います。原文をお読みください。

ホワイトハウスの記者会見に出席しない

2017年3月8日   岡本全勝

3月7日の日経新聞オピニオン欄「トランプ氏VSメディア」、ジョン・ミクルスウェイト、米ブルームバーグニュース編集長の発言から。
・・・過去の大統領も一部のメディアを嫌い、不安定な関係にあった。トランプ氏だけが特別ではない・・・ただ、これまでにない異例なことが起きた。ホワイトハウスで開催された記者懇談で一部の記者が排除されたのだ。ブルームバーグの記者はそうした状況を知らずに参加したが、今後こうしたことがあれば、出席しないと決断した。公共の利益に反すると思うからだ・・・
「あえて参加し、情報を得たり、その場で意見を述べたりする道もあるのでは」という問いに。
・・・白か黒かすっきり割り切れる問題ではなく、逆の考え方もあり得る。ブルームバーグの顧客にも「内部で何が起きているか知りたい」という人がいるかもしれない。しかし、情報の流れをオープンに保つことが公共の利益にかなうと思う。何ら抗議せずに参加すれば、さらに悪いことが起きる・・・
原文をお読みください。