カテゴリーアーカイブ:社会の見方

人文知応援フォーラム

2021年2月11日   岡本全勝

人文知応援フォーラムが、2月28日に、第1回人文知応援大会「コロナという災厄に立ち向かう人文知」を開催します。オンラインで見ることができます。ご関心ある方は、お申し込みください。

佐々木毅先生の基調講演「ポピュリズムとコロナ禍の社会の中で」のほか、五百籏頭眞先生の「コロナ危機と国際政治~リベラルデモクラシーは普遍的価値たり得るか~」、福岡伸一先生の「科学技術にとって人文知とはなにか」などが予定されています。

非正規労働者の安心を確保する手法

2021年2月8日   岡本全勝

1月30日の日経新聞オピニオン欄、村山恵一さんの「進化系ギグワークの知恵」が参考になります。

・・・登録者が160万人に達した単発アルバイトのマッチング会社タイミー(東京・豊島)。2017年設立で、都合のいい時間に働くギグワークを日本に広めてきた。ネットで迅速に労働力を確保したい企業1万3000社が使う・・・一方でギグワーカーは保護されにくく、「職の安全」が揺らぐとの懸念がついてまわる・・・
・・・特色である機敏性・柔軟性を生かしつつ、職の安全を守れないか。タイミーは「雇用型ギグワーク」を提唱し、注力し出した。
ギグワークは業務委託契約が一般的で、雇用に関する保護がおよばない。タイミーは企業と働き手が雇用契約を結び、最低賃金や割増賃金、労災保険などの対象となるよう切り替えた。契約はアプリで完結し、勤怠管理や給与の計算、振り込みまで自動で進む。いま案件の95%が雇用型だ。
指揮命令できる雇用型の方がギグ化しやすいと企業が考える仕事は多い。倉庫や飲食店での作業などだ。万が一、ケガをした場合も雇い主といて責任をとれる体制なら企業の評判を傷つけない・・・

非正規雇用は、労働者保護の仕組みが少なく、多くの場合劣悪な状況におかれます。企業が経費削減のために非正規雇用を増やした結果、既に労働者の4割が非正規雇用です。
その人たちと家族の生活が引き下げられるだけでなく、社会全体が不安になります。これを「保護」するのは、政府の責任です。労働組合は、あまり機能していないようです。

他方で低賃金の非正規雇用が増えると、経済も活性化しません。企業が自社の経営を優先することが、経済を悪化させるのです。また、非正規労働者の労働条件を悪いままにしておくと、その企業の評価も下がります。経済の仕組みとして、非正規労働者であっても安心が確保できるようになると、政府が介入しなくてもよくなります。

21世紀最初の20年、自信満々から幻滅へ

2021年2月6日   岡本全勝

1月28日の日経新聞オピニオン欄、ハビエル・ソラナ元北大西洋条約機構事務総長の「21世紀の今後を決める1年」から。

・・・いまから20年前に21世紀を迎えた時には、新しい時代への期待が高まり、特に西側諸国は大胆不敵にみえた。ところが(長い歴史からみれば)一瞬で、時代の精神は根本的に変わってしまった。21世紀は大半の人にとって、いら立ちと幻滅の時代になっている。多くの人が自信ではなく、恐怖を抱きながら将来に目を向ける。
20年前は、さまざまな問題に対する答えは、グローバル化の進展だった。正当でたたえるべき目標だったが、我々は必要な安全装置の組み込みに失敗した。2008年の金融危機や新型コロナウイルスの感染拡大のような惨事は、世界の相互依存がリスクを高めることを示した。専門化と超効率化は、脆弱さの源泉になりうる・・・
・・・21世紀への変わり目では、米国が嫉妬や不安に屈するようにはみえなかった。米同時多発テロは、まだ起きていない。ロシアは主要8カ国(G8)の一員で、北朝鮮は現在にもつながる核拡散防止条約(NPT)脱退を宣言しておらず、イランの秘密の核開発計画も明るみに出ていなかった。経済で米国に後れをとっていた中国が、世界貿易機関(WTO)に加盟したのは01年12月になってからだ・・・

・・・20年の間に、他者とのかかわり方にもかつてないほどの革命が起きた。インターネットが普及し、SNS(交流サイト)が現代の広場になった。期待された成果は得られなかったものの、10年代はじめの中東に広がった民主化要求運動「アラブの春」は、新技術が民主化をもたらす可能性を示す。
ただ、SNSなどで自分と同じ意見だけが耳に入る「エコーチェンバー(反響室)効果」が生じ、公の議論を荒廃させてきた。デジタル空間は、サイバー攻撃や大規模な偽情報の流布を含む「ハイブリッド戦争」を専門とする、破壊的な者の温床になっている。
欧州ではデジタル化の暗黒面として、移民排斥的なポピュリズム(大衆迎合主義)が前面に押し出され、二極化が社会をむしばむ。21世紀初頭の楽観主義は、ユーロ危機から英国の欧州連合(EU)離脱まで、ほぼ恒常的な非常事態へとかたちを変えた。大西洋から太平洋へと経済的・地政学的な力の移行が続いているいまこそ、緊密な連携が必要なのにもかかわらず、分断は鮮明になっている・・・

玉利伸吾・編集委員の解説
・・・自信満々から幻滅へ――確かに20年で世界は一変した。20世紀前半を思い起こさせるほどの大きな変化だ。当時、人類は途方もない犠牲を出した第1次世界大戦への反省から、新たな国際協調のしくみを求めた。だが、選択を誤り、再び世界大戦を起こした・・・この20年、徐々に現実が理想を圧してきた。自国第一主義や保護主義が広がり、国同士の融和を妨げ、国際秩序がぐらついている。バイデン米大統領が国際協調に戻ると宣言したのは一筋の光だ。内外の対立は根深く、再建は簡単ではない・・

21世紀の最初の20年については、別途書こうと用意しています。まず、世界視野からの見方を紹介しました。

自己肯定感の低さ、続き

2021年2月4日   岡本全勝

容姿を気にする」(1月23日)の記述に、読者からお便りをいただきました。

日本人の自己肯定感の低さについて、その方の仮説は「小さい成功の積み重ねが少ないからではないか」です。
小さい成功とは、自己決定、小さな成功体験、他者による無条件の承認などです。
また、評価においても、加点方でなく減点法が多いことも挙げておられます。無条件に褒められることが少ないことは、海外で子育てをした人がよく指摘することだそうです。

岡本行夫著「日本にとって最大の危機とは」

2021年2月1日   岡本全勝

岡本行夫著「日本にとって最大の危機とは?」(2021年、文藝春秋)を、お勧めします。去年4月にコロナで亡くなられた岡本行夫さんが、2017年から2019年にかけて行った講演をまとめたものです。
行夫さんが亡くなられた後、岡本アソシエイツ(行夫さんの会社)の方が、行夫さんの若者への熱い思いを何とか形に残したいとの思いで、企画し原稿を整理して、出版されたそうです。よい本を作って下さって、ありがとうございます。

1990年、湾岸戦争時の岡本さんの活躍、四輪駆動車を日本から運ぶ際の話は有名です。私もすごい先輩がおられるのだと感激し、ファンになりました。その後、大震災で、親しくしてもらうようになりました。漁港の復旧を待たず(待てず)、冷凍コンテナを贈ってくださったのです。拙著にも書きましたが、行夫さんのアイデアと実行力に、私たち役所が「負けた」のです。
この本には、そのほか、ご自身の経験や見聞による知見がたくさん載っています。

若い人たちには、ぜひ読んでいただきたい。特に、第Ⅱ章日本の国際化のために必要なこと、第Ⅲ章個人の国際化、第Ⅳ章皆さんに贈る言葉、を読んでください。
表題にあるように「日本にとっての最大の危機」を憂い、問題点と解決の方向を述べておられます。毎日、ニュースやインターネットで多量のかつ細切れの問題が伝えられますが、それは「消費財」のように垂れ流されます。官僚、企業の幹部候補生をはじめこれからの日本を背負って立つ若者たちは、日々の仕事に忙しいでしょう。本書を読んで、立ち止まって、広い視野から考えて欲しいです。

国際人に必要な資質として他人への優しさ、そして組織として多様性の重要性が、具体事例を挙げて説かれます。「寧ろ牛後となるも、鶏口となるなかれ」(国語の試験では間違い)「欲窮千里目 更上一層楼」は、なるほどと思います。

講演録で、読みやすいです。分量も多くありませんが、読み終えて熱くなります。日本を思う気持ち、世界の困っている人を思う気持ち、思うだけでなく実行する行動力。
私には、「全勝君、まだまだ若いのだから、頑張ってよ」という、行夫さんの声が聞こえてきました。「追悼、岡本行夫さん

五百旗頭真ほか編「岡本行夫 現場主義を貫いた外交官」(2020年、朝日文庫)もお勧めです。