カテゴリーアーカイブ:社会の見方

アメリカの経済格差

2021年1月23日   岡本全勝

1月21日の各紙は、バイデン大統領就任を伝えていました。日経新聞1面「米、分断克服へ経済再生 バイデン大統領就任」に、アメリカの経済格差が紹介されています。
・・・トランプ政権によるコロナ禍の米経済対策は、格差をむしろ助長してきた。資産価格の上昇で超富裕層の上位1%の純資産は36兆ドルと半年で5兆ドルも増加し、全世帯の下位半分(2.4兆ドル)の15倍になった・・・
3面には、所得階層別の純資産推移が載っています。

知人に聞くと、FRBの推計とのこと。「Distribution of Household Wealth in the U.S. since 1989」。その「Wealth by wealth percentile group」の「Levels 」には実数字が、「Shares」には割合が出ています。色分けしてありグラフに、パソコンのカーソルを合わせると数字が出ます。
直近では、上位1%が30.8%を持っています。上位2%から10%で38.4%です。合わせると、1割の金持ちが約7割の富を持っています。下位半分は、合わせても2%しか持っていません。

他国のことを心配する前に、日本の状況は見る必要があります。この調査と同じものは、見つけることができませんでしたが、貧困率の調査があります。
厚労省の「国民生活基礎調査」の「貧困率の状況」では、2018年の貧困線(全国民の等価可処分所得の中央値の半分)は 127 万円で、「相対的貧困率」(貧困線に満たない世帯員の割合)は 15.4%です。
世界比較では、アメリカ17.8%より下(平等)ですが、ヨーロッパ各国(例えばイギリス11.7%、フランス8.5%)より上(不平等)にあるようです。日本はもはや、平等な国ではありません。

世論調査項目、賛成ですか反対ですか

2021年1月16日   岡本全勝

報道機関が、しばしば政治に関して、世論調査をします。その質問の仕方を見て、考えることがあります。例えば、1月12日の朝刊に載った世論調査結果です。
◆原子力発電を利用することに賛成ですか。
賛成29▽反対57
◆原子力発電は今後、どうしたらよいと思いますか。
ただちにゼロにする9▽近い将来ゼロにする62▽ゼロにはしない21

原子力発電をやめることも、あって良いと思います。しかし、その影響をどのように埋めるかです。
方法としては、火力発電で補う、再生可能エネルギーで補う、経済活動を縮小するなどがあるでしょう。しかし、火力発電は、地球温暖化につながります。再生可能エネルギーは、まだ量として不十分でかつ不安定、費用もかかります。経済活動の縮小は、生活にも大きな影響を及ぼします。
「ただちにゼロにする」「近い将来ゼロにする」という選択肢を選ぶなら、その減った分をどのように穴埋めするか、またそれを実現するまでのつなぎの方策も聞かないと、答えにはなりません。

次の質問も同様です。
◆福島第一原発にたまる汚染された水から、大半の放射性物質を取り除き、国の基準値以下に薄めた処理水を、海に流すことに賛成ですか。
賛成32▽反対55

反対する場合は、たまり続ける水をどうするのかをあわせて問わないと、答えにはなりません。タンクを増やすことは、地元町にさらに負担を押しつけることになります。

かつて「橋の哲学」の事例がありました。美濃部都知事が、反対意見のある公共事業を中止する際に、「橋の哲学」として「1人でも反対があれば橋は架けない」という言葉を引用しました。この言葉はフランツ・ファノンの言葉だそうですが、この言葉の続きにある「その代わり川を歩いてる」といった趣旨の部分を省略してあります。
新型コロナウィルスに当てはめると、前段だけでは解決にならないことがわかります。「一人でも反対者がいると、外出自粛は要請しない」と言っていたら、感染は広がるばかりです。

判断には、絶対の善と悪に別れる場合は少なく、良い面と負の面があります。そして「反対」だけでは解決にならず、代案が必要なのです。

怪しい言説「日本製造業衰退論」

2021年1月15日   岡本全勝

1月7日の日経新聞経済教室、藤本隆宏・東京大学教授の「山積課題の全体最適解探れ 危機克服への道筋」から。

・・・だが一方でネット上では短い魅力的なフレーズが急速に拡散し、支持率や株価にさえ影響する。よって産業リーダーや言論界の側には、ややこしい連立方程式を一本一本にバラし、不都合な制約条件は無視して、シンプルなキャッチコピー的言説を多数発信したいとの誘惑が存在する。一つ間違えば、重大な見落としを伴う個別解の乱発となる。
こうした根拠の怪しい言説は、例えば後述する日本製造業衰退論や電気自動車(EV)礼賛論、インダストリー4.0周回遅れ論(ドイツ側の20年代予測を10年代の現実と混同した誤解)など、かなりの数にのぼる。

日本製造業衰退論はこの30年間、浮かんでは消えを繰り返した。だが結局、平成末の日本製造業の付加価値総額は100兆円強で、平成初頭に比べほとんど減っていない。約1千万人の就業者で割った付加価値生産性も約1100万円だ。仮に非製造業もこの生産性を達成すれば日本の国内総生産(GDP)は700兆円を超える。これが中国との賃金差が当初約20倍という強烈なハンディを、物的生産性を5年で5倍にするような生産革新で跳ね返してきた日本製造業の「30年戦争」の成果だ。衰退論の多くは、統計的分析も現場観察も理論的考察も欠落している。

EV礼賛論も地球温暖化防止という大目的に対し目的と手段を混同している。現世代リチウムイオン電池のエネルギー密度の限界、発火・劣化・充電時間などの弱点、材料調達・コスト問題、各国政府の政治的思惑などをすべて勘案しないと全体解は見えない。現在のEVは発電・製造段階で二酸化炭素(CO2)を出すことも無視できない。中国政府は、EVなら技術キャッチアップが容易との産業政策的判断もありEV化を推進するが、石炭火力発電の多い現体制では温暖化対策として限界がある。
加えて内燃機関のない純粋なEVの世界シェアは、新車市場の約2%(18年)、保有車両や総走行距離ベースなら1%以下だ。期待される次世代全固体電池の本格的普及が30年前後と予想される中で、30年時点のEV普及率は10~20%と専門家の多くは予想する。各国政府は普及政策の強化を企図するが、補助金をやめるとスタートアップ企業の倒産が相次ぎ、慌てて再開しようにも財政的に維持困難という問題に直面し、全体解は簡単に見つからない・・・

リチウムイオン電池の回収

2021年1月14日   岡本全勝

年末に、電気カミソリの調子が悪くなりました。充電しても、すぐに電池がなくなるのです。電気屋さんに相談して、買い換えました。使っていたのは2011年製なので、9年近く使いました。もちろん、回転刃の部分は、この間に何度か買い換えました。店員さん曰く「長く使いましたね」ということで、電池も寿命が来たようです。

問題はここからです。
「この古いカミソリの電池は、捨てたらダメなんでしょう」と聞くと、「リチウムイオン電池なので、リサイクルに出してください」とのこと。
「じゃあ、お宅の店に置いていくわ」というと、「うちでは回収していません」との返事。「え~、あんたのとこ、大手の会社じゃないの」。大手家電量販店の新宿店での会話です。
インターネットで調べて、回収してくれる場所を探しました。

これには、続きがあります。
捨てに行く前にスイッチを入れたら、元気よく動きます。
???
キョーコさん曰く、「捨てられると知ったら、捨てられないように頑張るのよ」。
う~ん。それなら、買いに行く前に、古いカミソリに話しかけるべきでした。「頑張らんと、捨てるぞ」と。カミソリは答えるでしょう「あんたも、気をつけないと・・・」と。

隈研吾さん、手直ししながら町を作り替える

2021年1月10日   岡本全勝

1月1日の朝日新聞東京版に、「建築家・隈研吾さんに聞く 首都リノベーション時代へ」が載っていました。ネットは1月5日掲載のようです。

――東京の歩みをどう見ていますか。
東京を含め20世紀の都市は、モータリゼーションによって多様性が奪われたと言っていい。特に東京は多様性の強いヒューマンな街でした。明治までは歩きを中心に街全体が編成され、道も狭かった。
戦後は自動車が主役になり、世界のスタンダードに追いつかなければと、過剰適応をした。いわばモータリゼーション・コンプレックスが都市を変えてしまった。日本橋のように高速道路を街のど真ん中に持ってくるなど、街区が道路によって完全に途切れてしまいました。もう一度、歩ける街に戻すことが必要になっています。

――手がけている品川の開発コンセプトは。
目指すのは、「ウォーカブルな街づくり」。品川駅から900メートルくらいの歩ける距離で、元車両基地の長さを生かし、1本の人間のためのストリートをデザインするという意識です。始めにプロムナード(遊歩道)を主役としてどう造るべきかの議論があり、その後に建物がデザインされた。まずタワーありきの従来の都心型開発とは逆の発想です。

――これまでとは違う視点が求められますね。
行政にもディベロッパーにも建築家にも、これからはスクラップ・アンド・ビルドではなく、少しずつ手直ししながら街を磨いていく時間的思想、文化的思想が求められます。行政の関わりは、緑化や公開空地と引き換えにした容積率緩和だけ、ディベロッパーはより高く建てる、という時代はもう終わり。建築基準法も取り壊しと新築を前提としていたのが、用途変更がしやすい基準へと変わっていくはずです。
それには文化的リーダーシップが求められます。京都市が、閉校した校舎を新たな街づくりに活用している政策などは好例です。歴史的文化財でなくても、少し古くていい建物はたくさんある。そこをカッコよくしたい人はたくさんいる。そうした改築にインセンティブを設ける。コロナ禍以降の都市計画ではより一層、文化的思想への転換が不可欠なのです。