カテゴリー別アーカイブ: 自然科学

「オッカムの剃刀」

ジョンジョー・マクファデン著『世界はシンプルなほど正しい 「オッカムの剃刀」はいかに今日の科学をつくったか』(2023年、光文社)を読みました。大分前に読み終えたのですが、どのように紹介するのがよいか悩んでいるうちに、時間が経ちました。

出版社の宣伝には、次のようにあります。
「よりシンプルな答えこそ好ましく、往々にしてそれは正しい――複雑さや冗長さを容赦なく削ぎ落とすさまから「オッカムの剃刀」と呼ばれるこの思考の方針は、科学を宗教の支配から解放し、地動説、量子力学、DNAの発見など、多くの科学的偉業を支えることとなった。本書は科学の発展史を辿りつつ、単純さこそが、宇宙や生命の誕生といった深遠な謎を解き明かす鍵であることを示す壮大な試みである。そしてすべては、中世の果敢な神学者の冒険から始まる」

西洋科学史の概説書、それを「より簡単に説明する方向に進んだ」という視点から説明した本、といったら良いのでしょうか。重力による地上と天空の運動の統一、電磁力による磁気と電気の統一、遺伝子(二重らせん)による分子と生物学の統一など、なるほどと思いつつ。結果としてみると、オッカムの剃刀なのですが、それぞれの科学者はそれを意識していたかというと、そうでもなさそうです。

科学の進歩を認めつつ、最も簡単な説明は「神様が作られた」という説です。

意図や目的のない人工知能

生成人工知能(チャットGPTなど)が、評判になっています。私の理解では、コンピュータが過去の膨大な文章を蓄積し、利用者の求めに応じて、そこから答えを出してくれる仕組みです。
なかなかの優れもので、わからないことを調べたり、一定の指示で文章を書いてくれます。大学入試だと、過去問に強いのです。仕組みからして、当たり前ですね。

東大出版会の宣伝誌「UP」7月号に、千葉滋・東大教授の「プログラミングはAIに奪われる仕事だってさ」が載っています。面白い例えをしておられます。「酔っ払いと話をしているような気になる」とです。
すなわち、話していることの部分部分は正しく、間違っていると指摘すると修正してくれます。ところが、全体として何を言いたいのかわからないのです。頭に浮かんだ考えの断片を、浮かぶがままに口にしているだけなので、本人だってわからない状態です。
私も、何度も経験があります。その時々は、しっかりして話している(と思うのですが)、あとで考えても、全体で何を話題にしていたかが思い出せないのです。多分、その時点で「今何を話題にしていますか?」と聞かれたら、答えられないでしょう。

これは、わかりやすい例えです。聞かれれば、過去の蓄積から答えを出してくれますが、自分から何かを考えることはありません。機械は、意図や目的は持っていないのです。
「あなたは何をしたいですか」という問いに、人工知能はどう答えるのでしょうか。「条件を与えてくれないと、答えられません」と言うのかな。

『世界がわかる資源の話』

鎌田浩毅著『世界がわかる資源の話』(2023年、大和書房)を紹介します。
宣伝文には、次のように書かれています。
「電気代高騰も、異常気象も、ウクライナ侵攻も、新ビジネスも、私たちの食生活も、ぜんぶ「資源」で読み解ける! ”科学の伝道師”である鎌田浩毅京大名誉教授がおくる、新時代の教養本」

「新時代の教養本」という表現がよいですね。自然科学の分野も、日進月歩です。そしてそれが、私たちの生活に大きな影響を及ぼします。「専門書は難しい」「新聞の解説ではよくわからない」ということが多いです。その際に、このような解説書が役に立ちます。
取り上げられている各主題も、水、木、エネルギーなど身近なもので、文章はいつものように読みやすいです。鎌田浩毅先生は、ますます元気のご様子です。

154ページに「エコバッグは無意味?」との記述があります。
海洋プラスチックごみの多くは漁網とペットボトルなどで、レジ袋は全体の0.3%でしかないのだそうです。
デンマークのある機関の調査では、紙袋は43回、オーガニックコットンのバッグは2万回使わないと元が取れなとのこと。レジ袋を製造している会社は、原料のポリエチレンが石油を精製する際に必然的にできるため、資源の無駄にはならないと主張しているのだそうです。
問題は、レジ袋やペットボトルのポイ捨てにあるのでしょうね。

元気ながん患者

3月30日の読売新聞に、ラジオ番組の全面広告が載っていました。小野薬品工業が提供している「Changeの瞬間(とき)~がんサバイバーストーリー」です。
がんと診断された患者をを応援する番組で、各方面で活躍しているがん患者にどんな気持ちでがんと向き合い、どんなきっかけで前向きになれたのかなどを聞いているのだそうです。
紙面には、たくさんの有名人の名前と、どこの臓器のがんかが載っていました。「え~、この人もがん患者だったんだ」とびっくりしました。

かつてがんは、死の病でしたが、その後の医学の発達で、多くの人が生きることができるようになりました。でも、まだ世間では知られていません。このような広告は、国民の意識改革に効果があるでしょうね。

競争が動物の進化を促す

3月26日の日経新聞科学欄「体サイズ急変、絶滅リスク 島の哺乳類、人類の狩猟も影響」が、興味深かったです。

・・・ドイツのマルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルクや東京大学などは、生物が体のサイズを極端に変える進化は絶滅につながりやすいとの分析をまとめた。島のような特殊な環境では大きい動物が小型化したり小さい動物が大型化したりする・・・
・・・大陸の祖先と比べて体重が1%程度になったゾウや、祖先の200倍の大きさになったジャコウネズミは絶滅した・・・

へえ、そんな進化もあったのですね。
私が注目したのは、「大陸から離れた島では捕食者がおらず、脳の縮小や走行能力の低下も起きる」という指摘です。
そこに人類が渡っていくと、簡単に捕まえられて、滅んでしまいます。