カテゴリー別アーカイブ: 自然科学

学ぶべき既存知識の増加が技術革新を阻む

2月16日の日経新聞経済教室「イノベーション起こすには」、リー・ブランステッター カーネギーメロン大学教授の「能力開発・国家間協力が必須」に、次のような記述があります。

第二次世界大戦後、科学技術の飛躍的進歩とともに、経済も成長しました。ところが、1970年代以降、成長は減速します。今後、技術革新は難しくなるとの見立てがあります。
それは、「知識の負荷」が増えているからです。知識のフロンティアを進めるためには、まず既存の知識を習得しなければなりません。しかし、既存知識はどんどん増えて、個人一人ではすべてを習得することが難しくなったのです。

学校でもそうですよね。私が学生だった頃に比べて、地学ではプレートテクトニクス論が、生物では分子生物学などが「追加」されました。少し異なりますが、管理職の必須知識も増えました。

まんが「寺田寅彦エッセイ集」

鎌田浩毅先生が監修された「これから科学者になる君へ 寺田寅彦エッセイ集」(2023年、KADOKAWA)を紹介します。
角川まんが学習シリーズ」は、小学生に向け、学習まんがです。
寺田寅彦は、「天災は忘れた頃にやってくる」で有名ですよね。
内容は、リンクを張ったホームページを見ていただくとして。大人でも楽しめます。小学生には少々難しいかな。

鎌田浩毅著『知っておきたい地球科学』

鎌田浩毅著『知っておきたい地球科学 ビッグバンから大地変動まで』(2022年11月、岩波新書)を紹介します。出版社の紹介文には、次のように書いてあります。
・・・宇宙や生命はどうやって生まれたのか。地球のエネルギー資源はどう作られているのか。気候変動や災害の原因は何か。ミクロからマクロまで、地球に関わるあらゆる事象を丸ごと科学する学問=地球科学は、未来を生きるための大切な知恵を教えてくれる。大人の学び直しにも最適な知的刺激に満ちた一冊・・・

私が半世紀前に高校で学んだ自然科学の物理、化学、生物、地学の4つのうち、当時は生物学と地学が「古くさく、つまらないもの」でした。ころが、その後の研究の発展で、生物と地学ががぜん面白いものになりました。
「はじめに」にも書いてありますが、数学は17世紀までに発達した微積分など、化学は19世紀までに発見された内容、物理学は20世紀初頭に展開された原子核物理学までが教えられます。
それに対し、生物学はその後、遺伝子や生物多様性の研究が進み、地学はプレートテクトニクスや地球温暖化という現在進行形の研究が教えられています。また日本列島は東日本大震災以来、活動期に入り、国民の関心も高まりました。

目次を見ていただくと、壮大な話と身近な話が載っています。鎌田先生のわかりやすい語り口で、最新の研究が書かれています。岩波新書にふさわしい内容で、これは売れるでしょう。

鎌田浩毅先生の最終講義が本になりました

鎌田浩毅著『揺れる大地を賢く生きる 京大地球科学教授の最終講義』(2022年、角川新書)を紹介します。副題にあるように、鎌田先生の最終講義を本にしたものです。YouTubeの最終講義は90万回再生されたそうです。

「はじめに」に、最終講義は通例、定年退職する教授が研究人生を振り返ることが多いのですが、鎌田先生の場合は「昔を振り返っている場合じゃないんです。これから日本列島は大変なんですからね!」から始まったのですと、書かれています。
「あとがき」には、京大で教壇に立った当初は、学生から「惨憺たる授業」と呼ばれていて、自らの講義を録画して見て反省し、改善することで、「京大で一番受けたい授業」になったと書かれています。この点は以前に教えてもらって、私も参考にさせてもらったのですが、なかなかその域には達しません。

鎌田先生は、9月に『池坊専好×鎌田浩毅 いけばなの美を世界へ 女性が受け継ぐ京都の伝統と文化』(2022年、ミネルヴァ書房)を出版しておられます(すみません、紹介が遅くなって)。
野田秀樹さん、山際寿一さんとの対談に続く第3弾ですが、今回は全く違った分野の方との対談です。火山学者から見ると、華道とその家元はどのように見えるか。こちらも興味深いですよ。

日本の研究力低下の原因

9月1日の日経新聞夕刊、私のリーダー論、橋本和仁・科学技術振興機構理事長の「政府と研究つなぐ」から。

ー科学技術政策に関わってきた経験から、日本の研究力の世界的な地位が低下した原因は何だと思いますか?

「国際競争力が低下しているのは事実でしょう。しかしちまたで言われているほどひどい状況ではないと思います・・・
・・・なぜ低下しているのか、いくつもの要因がありますが、根本的な原因はバブル経済が崩壊して以降、全体的な国家戦略が欠如していたことです。高度経済成長の時代が終わり、皆が努力すれば社会が良くなる時代が終わった段階で、科学技術も含め新たな戦略を描きませんでした。

英国やドイツは一度地位が低下して、それを食い止めるためにもがき苦しんだ結果、今があると思います。基本的にはずっと成長している米国や急成長している中国と日本を比較しても仕方ありません。欧州では科学技術予算はそれほど増えていませんが、努力や工夫で地位を維持しています・・・」