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経済

現実の経済を理解しているのは誰か

12月7日の日経新聞オピニオン欄、ポール・コリアー英オックスフォード大教授「マスク氏と習氏、危うい集権」に、次のような文章が載っています。

・・・私たちの世界は不確実性に満ちている。
経済の統治をめぐり、1970年までを振り返ると「政府こそがものごとを一番理解している」という官僚たちの過剰な自信の時代があった。それが徐々に「市場が一番理解している」という考え方に変わっていった。そして「最高経営責任者(CEO)が一番理解している」という話になった。
政府も市場も経営者も万能ではない。いまは多くの大きな問題について答えが分からないということを受け入れる必要がある・・・

リスクをとらない日本の経営者

12月6日の日経委新聞経済教室は、岡田正大・慶応義塾大学教授 一條和生・IMD教授の「平成日本企業の失敗 変革導く経営人材、育成急務」でした。
「日本企業と経営者の消極性(リスク回避性向の強さ)が、世界市場における成長機会を看過するという機会損失を生みだした。その解決には、根本的な経営人材の強化・育成が必須だ。」

世界主要27カ国の調査では、日本企業のリスクテイク度は26位、収益性は最下位です。
リスク回避性向の強さは、次のような現象を引き起こしています。
・攻撃的設備投資ができない
・途上国や新興国市場に慎重な戦略しか打てない
・革新的ビジネスへの脱皮ができない、など

それは、企業価値を生み出す能力の低い経営人材が多いからと思われます。スイスのビジネススクールの調査では、シニアマネージャー(上級管理職でしょうか)の国際経験で、日本は64か国中最下位です。多く著名経営者を輩出してきたアメリカのトップ大学で経営学修士号を取得する日本人留学生が、この10年でほぼ半減しています。

世界で異形な日本の30年のデフレ

12月2日の日経新聞特集「物価を考える」に、わかりやすい図表が載っていました。1992年を100として、2022年までの主要国の物価の推移が折れ線グラフになっています。

多くの先進国は毎年モノやサービスの値段が平均で2%ほど上昇してきました。物価はこの30年で、アメリカ、イギリス、イタリアは2倍に、ドイツ、フランスは1.7倍程度になりました。一人独自路線で、ほぼ水平なのが日本です、1.09倍にしかなっていません。
この30年間が、いかに異常だったかがわかります。経済界と政府の責任は大きいです。国内で生活している限りでは、わからなかったのでしょうか。

物価が上がらないのは消費者としてはよいことでしょうが、その間に賃金も同じような動きをしています。日本の賃金はそれらの国に比べて、半分になりました。
今後毎年給料を2%ずつ上げても、それらの国には追いつきません。単純には、2%上乗せして4%の上昇を続ければ、30年後に追いつきます。
政府がすべきだったのは、毎年のインフレ目標を2%にするのではなく、毎年の賃金(例えば最低賃金)の上昇を2%にすることだったのでしょう。

アジアで負ける最低賃金

10月17日の朝日新聞に、大倉忠司・鳥貴族HD社長の話「外国人労働者来てもらわないと」が載っていました。
焼き鳥居酒屋チェーン「鳥貴族」は、昨春以降、2度の値上げに踏み切りました。

――値上げの理由は原材料高やエネルギーコストの上昇?
「一番の目的は従業員の給料アップのためです。諸外国に比べて日本の給料は安すぎます。海外の方が稼げると、すし職人など人材が流出しています。物価上昇が進む外国にあわせて、日本もモノの値段を上げていくべきです。もちろん賃上げとセットで」
「外国人労働者にもそっぽを向かれかねません。鳥貴族では、パート・アルバイト従業員の2割が外国籍ですが、もっと時給を上げないと日本に来てくれなくなるでしょう。日本は外国人の雇用を積極的に受け入れていかなければ成り立っていかない。このままでは『失われた30年』が40年、50年になっていくと思います」

外国との経済格差

この30年間、日本の経済が発展せず、所得が上がりませんでした。その間に、欧米は先に行き、アジア各国が追い上げ追い越していきました。日本は、安い国になりました。

9月25日の日経新聞、石鍋仁美・編集委員の「JRが外国人パスを大幅値上げ 訪日客価格、手本は途上国」に次のような話が載っています。
・・・10月1日、JRグループが大幅値上げを実施する。購入方法によるが、上昇率は普通車で49〜69%、グリーン車56〜77%になる。ただし一般の日本人はほぼ関係ない。対象は訪日観光客が買える全国乗り放題の「ジャパン・レール・パス」。売れ筋の7日間用だとこの上げ幅になる。
今の7日券の店頭価格は東京・大阪間の新幹線往復と大体同じ・・・

これまで安くしていた外国人観光客用料金を、日本人並みに上げたのです。それでも、一人あたり所得が日本を超える諸外国観光客からは、まだ安い価格です。
「松竹梅3段階の価格を用意すると、日本人は竹、外国人は松を選ぶ」という業者の話も紹介されています。
都市の高層ホテル、地方の古民家改装宿など外国人狙いの宿泊施設も、高級物件が多いとのこと。東京六本木には、1杯1万円のラーメン店ができたそうです。

一つの国土に、二つの経済圏ができています。
でも、かつて途上国に仕事や観光に行ったとき、同じことを経験しましたよね。悲しいのは今回は状況が逆転して、豊かな訪日外国人に対して、貧しい日本人がサービスを売ることです。

9月29日の日経新聞「経済教室」、吉田二郎・ペンシルベニア州立大学教授「世界一の大都市形成に寄与 住宅市場の特質と課題」には、安い日本の住宅が取り上げられていました。
ワンルームおよび1LDKアパートの家賃は、東京都心では平均約14万円ですが、ロンドンでは約39万円、ニューヨークでは約56万円です。
住民にとってうれしいですが、他の条件の違いがあるとしても、それだけの経済格差があるということでもあるのでしょう。