カテゴリー別アーカイブ: 経済

行政-経済

G7で日本だけが平均賃金が下がった

2月24日の日経新聞夕刊「変わる給料(上)今年の労使交渉」に、びっくりする図が載っています。「G7で日本だけが平均賃金が下がった」、2000年から2019年の増減率です。
OECDの調査によるものだそうですが。この10年間に、他の6か国は40%~70%の増加なのに対し、日本だけがマイナスです。

日本経済は、1991年にバブル経済が崩壊し、長期デフレに悩みました。2000年以降は景気は回復しました。リーマン・ショックもありましたが、それはG7各国に共通です。
日本の伸び率が低いのならまだしも、他国の賃金が1.5倍になっているときに、日本は減っているのです。
この理由は、日本経済全体の停滞とともに、労働者に着目すると、賃金の低い非正規労働者の増加によるものと考えられます。

「見えざる手」から「見える手」へ

2月7日の読売新聞あすへの考、小島武仁・東大教授の「マッチング理論――行動する経済学「見えざる手」から「見える手」へ」から。
「保育園の待機児童、臓器移植のドナー(提供者)探し、そして新型コロナウイルスのワクチン接種――。こうした現代の諸課題に対し、経済学やコンピューターサイエンスの知見を基に制度を設計し、最適解を示す「マーケットデザイン」という学問がある。
この分野で「世界をリードするトップ研究者」と評される小島武仁氏が昨年秋、米スタンフォード大教授を辞し、東京大マーケットデザインセンターの初代センター長に就いた。マーケットデザインは2012年と20年にノーベル経済学賞を受賞したが、日本ではまだ聞き慣れない。注目の研究分野のトップランナーが目指す「あす」を聞いた」

・・・経済学の父、アダム・スミスの話から始めさせてください。
彼は、人や企業が自らの利益を求めて行動すれば、需要と供給のバランスで価格が調整され、「見えざる手」に導かれるように経済成長がもたらされると説きました。このように伝統的な経済学は、市場の仕組みを「他から与えられたもの」と捉え、その働きを外側から分析する学問です。
対してマーケットデザインは、市場を「設計(デザイン)できるもの」と考えます。関係する人々の希望や動機付け(インセンティブ)を酌みとりつつ、課題解決に向けて新制度を提案したり、実務の内側で制度を改善したりします。
大きくは、1990年代の米国で携帯電話の電波利用権の競売に成功した「オークション理論」と、比較的最近になって注目された「マッチング理論」に分けられます。私が特に力を入れているのは後者です。
マッチングはもともと数学の理論ですが、様々な条件の下で「人と人」「人とサービス」を結びつけ、限られた資源を効率よく、不満なく、適材適所に配分できる情報処理手順(アルゴリズム)を研究します。好みなどを入力して恋人を探す「マッチングアプリ」がイメージしやすいでしょうか・・・
・・・マーケットデザインが力を発揮するのはこのように、政策的要請や倫理性、公平性などの理由で価格メカニズム、すなわち「見えざる手」が機能しない「市場」です。
例えば、売買が禁じられ、価格が「ゼロ」に固定された移植臓器の提供にも活用されています。海外では約1万件の腎臓移植がマッチングにより実現しました。日本では年間約1万人の研修医と全国各地の病院とのマッチングで活用されています・・・

・・・かつて世界では資本主義が社会主義に勝利し、決着がついたと考えられていました。しかし格差の広がりなどを受け、国内外で「資本主義の限界」や「社会主義の再評価」が言われるようになりました。冷戦時には存在しなかったSNSは、分断をさらに深刻なものにする恐れもあります。
イデオロギーの対立を再び繰り返すのではなく、発展的に解消する知恵が必要です。資本主義の行きすぎで機能不全に陥った「市場」があるなら、それはマーケットデザインの出番です。「見えざる手」が働かなければ、「見える手」で望ましい配分を実現し、修正すればいいのです・・・

非正規労働者の安心を確保する手法

1月30日の日経新聞オピニオン欄、村山恵一さんの「進化系ギグワークの知恵」が参考になります。

・・・登録者が160万人に達した単発アルバイトのマッチング会社タイミー(東京・豊島)。2017年設立で、都合のいい時間に働くギグワークを日本に広めてきた。ネットで迅速に労働力を確保したい企業1万3000社が使う・・・一方でギグワーカーは保護されにくく、「職の安全」が揺らぐとの懸念がついてまわる・・・
・・・特色である機敏性・柔軟性を生かしつつ、職の安全を守れないか。タイミーは「雇用型ギグワーク」を提唱し、注力し出した。
ギグワークは業務委託契約が一般的で、雇用に関する保護がおよばない。タイミーは企業と働き手が雇用契約を結び、最低賃金や割増賃金、労災保険などの対象となるよう切り替えた。契約はアプリで完結し、勤怠管理や給与の計算、振り込みまで自動で進む。いま案件の95%が雇用型だ。
指揮命令できる雇用型の方がギグ化しやすいと企業が考える仕事は多い。倉庫や飲食店での作業などだ。万が一、ケガをした場合も雇い主といて責任をとれる体制なら企業の評判を傷つけない・・・

非正規雇用は、労働者保護の仕組みが少なく、多くの場合劣悪な状況におかれます。企業が経費削減のために非正規雇用を増やした結果、既に労働者の4割が非正規雇用です。
その人たちと家族の生活が引き下げられるだけでなく、社会全体が不安になります。これを「保護」するのは、政府の責任です。労働組合は、あまり機能していないようです。

他方で低賃金の非正規雇用が増えると、経済も活性化しません。企業が自社の経営を優先することが、経済を悪化させるのです。また、非正規労働者の労働条件を悪いままにしておくと、その企業の評価も下がります。経済の仕組みとして、非正規労働者であっても安心が確保できるようになると、政府が介入しなくてもよくなります。

合理的バブルが終わるとき

1月22日の日経新聞「エコノミスト360°視点」、中空麻奈・BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の「合理的バブルが終わるとき」から。

・・・足元で起きている資産価格と実体経済がかけ離れる「バブル」は、世界の中央銀行による金融緩和で生じたため「合理的」らしい。1990年代の米国が「根拠なき熱狂」に沸いたのとは異なるということだ。合理的に生じたものは合理的に終わると期待され、妙な安堵感も広がる。

しかし、合理的か非合理的かにかかわらず、バブルはいつかはじける。
良く引き合いに出されることだが、電気自動車世界最大手、米テスラ株の時価総額が日本車メーカー9社合計を上回った事実一つをとっても、資産価格の上昇はすでに説明がつかない。警戒感を持ってバブルの波から早く降りれば崩壊に備えられる。とはいえ、まだ株価が上昇するとすれば、指をくわえて見ていられないのが投資家の宿命だ。

問題は合理的か非合理的かではなく、①このバブルは何をトリガーにして②いつ終わるのか――という2点だ。
効率的市場仮説に基づいて価格が決まっているのだとすれば、そこから生じたバブルの限界は、「その価格では転売できなくなった時」か、現実世界の資源の有限性がネックになって「その価格が成立しなくなった時」である。

しかし、前者については、中央銀行が最後の買い手となると市場は理解している。中央銀行の出口戦略がきっかけになるとの声は多いが、極端な政策を取るとは思えない。そうなると、今回のバブルは現実世界の「崩れ」が原因で終わる公算が大きいのではないか。トリガーとなり得るポイントを3つ指摘する・・・
原文をお読みください。

怪しい言説「日本製造業衰退論」

1月7日の日経新聞経済教室、藤本隆宏・東京大学教授の「山積課題の全体最適解探れ 危機克服への道筋」から。

・・・だが一方でネット上では短い魅力的なフレーズが急速に拡散し、支持率や株価にさえ影響する。よって産業リーダーや言論界の側には、ややこしい連立方程式を一本一本にバラし、不都合な制約条件は無視して、シンプルなキャッチコピー的言説を多数発信したいとの誘惑が存在する。一つ間違えば、重大な見落としを伴う個別解の乱発となる。
こうした根拠の怪しい言説は、例えば後述する日本製造業衰退論や電気自動車(EV)礼賛論、インダストリー4.0周回遅れ論(ドイツ側の20年代予測を10年代の現実と混同した誤解)など、かなりの数にのぼる。

日本製造業衰退論はこの30年間、浮かんでは消えを繰り返した。だが結局、平成末の日本製造業の付加価値総額は100兆円強で、平成初頭に比べほとんど減っていない。約1千万人の就業者で割った付加価値生産性も約1100万円だ。仮に非製造業もこの生産性を達成すれば日本の国内総生産(GDP)は700兆円を超える。これが中国との賃金差が当初約20倍という強烈なハンディを、物的生産性を5年で5倍にするような生産革新で跳ね返してきた日本製造業の「30年戦争」の成果だ。衰退論の多くは、統計的分析も現場観察も理論的考察も欠落している。

EV礼賛論も地球温暖化防止という大目的に対し目的と手段を混同している。現世代リチウムイオン電池のエネルギー密度の限界、発火・劣化・充電時間などの弱点、材料調達・コスト問題、各国政府の政治的思惑などをすべて勘案しないと全体解は見えない。現在のEVは発電・製造段階で二酸化炭素(CO2)を出すことも無視できない。中国政府は、EVなら技術キャッチアップが容易との産業政策的判断もありEV化を推進するが、石炭火力発電の多い現体制では温暖化対策として限界がある。
加えて内燃機関のない純粋なEVの世界シェアは、新車市場の約2%(18年)、保有車両や総走行距離ベースなら1%以下だ。期待される次世代全固体電池の本格的普及が30年前後と予想される中で、30年時点のEV普及率は10~20%と専門家の多くは予想する。各国政府は普及政策の強化を企図するが、補助金をやめるとスタートアップ企業の倒産が相次ぎ、慌てて再開しようにも財政的に維持困難という問題に直面し、全体解は簡単に見つからない・・・