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社会

畑村洋太郎先生、失敗に学ぶ

10月18日の朝日新聞オピニオン欄、畑村洋太郎・元政府事故調委員長・東京大学名誉教授へのインタビュー「失敗を直視せよ」から。

――失敗学を提唱されて30年になります。
「成長や進歩に失敗はつきものです。失敗が起きても結果が我慢できる程度に収まるように準備することがなによりも重要です」
「日本の国内総生産(GDP)はここ30年、ほとんど伸びていません。つまり明治維新、高度成長の『成功』の後、『失敗』が続いているのです。世界中の知識や科学を総動員して日本の行動様式や考え方にある欠陥、欠点を改めるべき時期だといえます。今こそ失敗学が求められていると思いますが、そうした論調は出てきません」

――なぜですか。
「日本社会は、失敗に向き合うことが苦手だからです。明治維新がうまくいったことが苦手の根底にあるように思います。世界中に手本になるモノを探しに行って、具合良くできあがったものがどこかにあれば、それを取り込むことにばかり一生懸命になった。技術を生んだ国はドイツもフランスも300年以上数々の失敗を重ねて、痛い目にあっています。日本は明治維新から150年しか経っていない。失敗の蓄積が少ないがために、技術の危うさに気づく人が少ないのです」・・・

――失敗学の成果の実例を一つ挙げるとしたら何ですか。
「2004年の新潟県中越地震で時速約200キロで走っていた上越新幹線『とき325号』が脱線しましたが、100人以上いた乗客・乗務員に死傷者は出ませんでした。1995年の阪神・淡路大震災で山陽新幹線の高架橋が落ちた『失敗』に学んだ結果でした」
「地震の揺れと軟弱な地盤が重なると新幹線の橋脚も壊れうると知って、JR東日本は約8万本の橋脚を全て調べ、一番危ないところから補強を始めていました。その補強した高架橋を『とき325号』は地震発生時に通過していました。現場では地盤の液状化が起こっていて、補強していなければ高架橋が落ちたところに新幹線が突っ込み、大惨事になっていたでしょう」

畑村先生は、このホームページで何度か紹介しています。「存在する答えに向かうことと、自分で答を探すこと」「失敗学

物が増えたこの70年

台風被害に遭った地域での、後片付けが報道されています。たくさんの家財が水に浸かって、使えなくなりました。それらが、災害ゴミになっています。この処分が、大変です。
その映像を見て、物が増えたなあと思いました。
戦後の大きな台風としては、狩野川台風(1958年)や伊勢湾台風(1959年)、第二室戸台風(1961年)が引き合いに出されます。当時は日本家屋は強靱でなく、大風や浸水で壊れたようです。しかし、災害ゴミが大量に積み上げられたことは、なかったのではないでしょうか。

当時は、経済成長が始まる前で、家庭にはそれほど家財道具がなかったのです。タンスやちゃぶ台、お釜などはありましたが。
現在の家にある電化製品のほぼすべては、その当時にはなかったのです。豊かさの象徴となった、電気冷蔵庫、電気洗濯機、白黒テレビを「三種の神器」と呼んだのです。それを買うのが、昭和30年代の多くの日本人の夢でした。
私は昭和30年生まれ、経済成長の及んでいなかった農村(明日香村)で育ったので、この物が増える過程を経験しました。当時の居間には、本当に物は置いていなかったです。
若い人には、想像がつかないでしょうね。物を持たない(世間に物がない)生活でした。もちろん、それだけ不便でした。

家財道具だけでなく、食料品や衣類などもです。大量生産、大量消費の時代が来て、それらがゴミとなった後の始末も大変になりました。市町村が、焼却場を造って、受け入れました。

今和次郎先生が、「考現学」を提唱されました。考古学に対して、今の生活を研究するのです。その調査の一つに、一家の持ち物調べがありました。それぞれの家の中にある、家財や物をすべて屋外に持ち出して、それを記録することだったと記憶しています。松岡正剛さんの紹介
昭和30年代と現在とを比べると、その数の増え方にびっくりすると思います。

学校教育の目的の変容

佐藤文隆著『歴史のなかの科学』(2017年、青土社)を読みました。そこに、理工系大学院の、戦前と最近との風景の違いが書かれています。

戦前はごく限られた秀才が行くところで、士族の職場だったと書かれています。そして戦後。1950年から21世紀初めまで、第一次産業就業率は48%から5%に減り、高校進学率は42%から97%へ、大学進学率は10%から51%に増え、日本社会は激変しました。
・・・一番大きな変動は、職の世襲を大きく支えていた農業が縮小し、職業の自由選択といえばかっこいいが、実態は職業の不安定化が始まったのだ。この社会変動は、高校や大学にとっても全く新たな事態であった。今でも子供が「スター歌手になりたい」、「洋画家になりたい」と言い出したら親は当惑するだろう。趣味として歌唱や洋画を「したい」なら分かるが、食っていける職業への定番コースがあるのか?と。たぶん1960年以前なら、大多数の家庭にとっては「研究者になりたい!」も同じ当惑を引き起こしただろう・・・(P150)

・・・高校の現状は、学問世界の知識を伝授する従来型の授業と並び、あるいはそれ以上の大きなウェイトで、大人になるためのケアの一切を引き受ける施設に変貌しているからである。健康・体力から自己表現・協調・共感など、従来の伝統社会では親戚や地域や職場の共同体が担っていた「大人になる」転換期のケアの一切をこの「施設」が背負わされている・・・
・・・ところが、「全入」は「選ばれた」自負を生徒から奪い、また共有される新たな国家目標が不明確になると、学校は「国民への改造」の司令塔の位置から転落した・・・こうして、世間は学校を仰ぎ見るのではなく、学校を評価する立場となり、主客が転倒した・・・先進国の大半では国民国家形成時や大きな社会変動期に持っていた学校教育の輝きは失われている・・・

1920年代にアメリカで中等教育の進学率が急上昇したことを指摘した上で、
・・・どの先進国でも進学率はその後増加するが増加するが、独仏では従来の一般校の制度を維持した上で「増加」には職業学校で対応したが、アメリカでは「一般校」拡大で対応した。日本は欧州型を試みるが、毎回アメリカ型に戻った・・・

全入時代の高校と行きたい人は全員が行ける大学は、かつてのエリート養成機関ではなくなりました。高校と大学の社会での位置づけと役割は、見直す必要があると思います。現状は、多くの学生にとっても、教師にとっても不幸ですし、社会にとっては大きな損失です。「レジャーランド大学」「企業の採用面接に見る日本型雇用
昨日の「高校での国語教育の変更」にも通じるところがあります。

台風19号、運休や休業の予告

大型の台風19号が、日本列島を襲っています。大きな被害が出ないとよいのですが。せっかくの秋の良い季節。外出を予定していた人や、行楽地にも、残念なことです。

この台風の接近で、鉄道の運休やお店の休業が、事前に予告されました。事故や混乱を防ぐためには、よいことです。中途半端に交通機関が動くと、混乱が大きくなります。
従業員も、出勤できないでしょう。病院や介護施設など、閉店できない施設は、従業員のやりくりが大変でしょうね。

12日午後に都心で開かれる催し物の切符を買ってあったのですが。前日にインターネットで中止が掲載され、主催者からも電子メールで「延期します」との通知が来ました。インターネットで切符を買うと、こんなお知らせもできるのですね。

わが家も、昼前から、雨脚が強くなりました。町のお店がどうなっているか、午後に、近くの商店街まで調査に出かけました。
ほとんどの店が休んでいました。コンビニとマクドナルドが開いていましたが、夕方には店を閉じるというお知らせも貼ってありました。そもそも、自動車の交通量も少なく、歩いている人もわずかです。
町内見回りは短時間だったのですが、ずぶ濡れになった帰ってきて、キョーコさんに叱られました。
新聞は「夕刊は遅れる可能性と、配達できない可能性があります」とチラシが入っていましたが、配達する職員のことを考えたら、早めに休刊を決めた方がよいと思います。

ラグビーワールドカップの試合も、取りやめになりました。雨が降っても中止にならないラグビーですが、交通機関が止まると、関係者も観客も会場までたどり着けませんわね。
高校時代に、サッカーをやっていました。インターハイの予選が、6月ごろに行われます。梅雨のさなかでした。試合前に大雨になって、「中止にならないのですか」と尋ねたら、「槍が降るか、雷が鳴らない限り、予定通りに行う」との答え。雷は鉄でできたゴールポストに落ちる可能性があるので、危険なので中止するそうです。田んぼのような状態のグラウンドで、試合をした経験があります。

教員の魅力の低下、やりがいと実態と

10月7日の朝日新聞記者解説、氏岡真弓編集委員の「教員のなり手が減少 「ブラック職場」敬遠、対策も後手」から。

・・・教員のなり手不足が各地で問題となるなか、実態を調べようとした。
結果は予想より深刻だった。今年度から働き始めた公立小中学校教員向けの採用試験の受験者は、全国で約9万8千人。2012年度の約12万2千人から約2万4千人減っていた。さらに動きがあったのは、採用者に対する受験者の割合(競争倍率)だ。近年は採用人数が増えていることもあり、今年度は小学校が約2・8倍、中学校が約5・5倍と、00年度の約12・5倍、約17・9倍から大きく落ち込んだ。
非正規の教員のなり手が見つからない件数はどうか。今年5月1日現在、全国で1241件が配置されていなかった。教育委員会が独自に進める少人数学級の担当や病休、産休・育休をとっている教員の代役などが見つからないためで、教頭が代わりに授業をしたり、少人数学級をあきらめたりする学校が出ている・・・

・・・ 非正規教員の需要も拡大してきた。小泉政権が進めた規制改革のなかで、教員の人数や給与は自治体が決められるようになり、少人数学級などの取り組みが広がった。しかし自治体の財政は厳しく、多くの場合は安い給与で雇える非正規に頼ることになった。
その間、教員をめぐる状況は厳しさを増してきた。学力向上、いじめや不登校の指導、保護者への対応、部活動、事務仕事……。社会や政治からの要請にともない、学校の役割は膨らみ、教員の仕事も増えてきた。
文科省は06年、40年ぶりに勤務実態調査を行ったが、目的だった教員の給与改革が頓挫すると、成果は活用されなくなった。働き方が問題となって、改めて実態を調査したのは16年。労働時間が06年の調査よりさらに増え、小学校教諭の約3割、中学校教諭の約6割が「過労死ライン」に達していた・・・・