カテゴリーアーカイブ:人生の達人

山極寿一・鎌田浩毅 著『ゴリラと学ぶ』

2018年2月24日   岡本全勝

山極寿一・鎌田浩毅 著『ゴリラと学ぶー家族の起源と人類の未来』(2018年、ミネルヴァ書房)を紹介します。面白くて、一気に読み終えました。

鎌田浩毅・京大教授が聞き手となった、山極寿一・京大総長との対談です。山極先生は、ゴリラ研究で有名です。本書の前半、どのようにしてこの研究に進んだか、現地調査での死の危険を伴う調査など、体験談は興味深いです。
多彩な経験をされた方、これまでにない業績を上げられた方の体験談とそれに基づく話は、面白いですね。学問や研究が、透明な空気の中でできるのではなく、ある人の営みの中でできあがることがよくわかります。若き研究者に読んでもらいたい本です。
後半では、ゴリラの家族研究と、それを通じた人類の起源やあり方の議論です。行動生物学や社会生物学との違いが、よくわかりました。なぜ人類は家族を持つようになったのか。副題に「家族の起源と人類の未来」とあります。

鎌田先生は、上手な聞き手です。相手の話を発展させ、あるときは本筋に戻しと。また、巻末の「講義レポート」もよいですね。単なる対談のしっぱなしではなく、これがついていることで、価値が上がります。

書店のホームページでは、次のように説明されています。
「〝知の伝道師〟鎌田浩毅が受け手となる講義形式で、斯界の第一人者の人生・思想に鋭く切り込むシリーズの第一巻。ゴリラ研究のパイオニア、山極寿一京大総長を迎え、第Ⅰ部でその半生に迫る。第Ⅱ部では霊長類学の世界へを踏み入れ、われわれ人類の起源と未来を縦横に語る。五感をフルに使い、研ぎ澄まされた直観がつかむ「曖昧なもの」に導かれた豊かな知が溢れる一冊」
ミネルヴァ書房は良い研究書とともに、人物評伝もたくさん手がけています。このシリーズも期待ましょう。

松井忠三さん、人を使う術

2018年2月16日   岡本全勝

日経新聞私の履歴書、2月は、松井忠三・良品計画元会長です。15日は「新人時代 現場で培った極意」です。
西友ストアに入社3年目、25歳の頃です。
・・・1975年3月、高円寺店勤務の辞令が出る。前の店と同じように学ぶことばかりの日々が続く。特にパートさんら現場を支える人たちとの信頼関係の構築にはバレー部や大学時代の学生運動、建設現場の作業員のアルバイトなどの経験がいかせた。学生運動のように自分の主張をストレートに言っても伝わらないことが身に染みていたからだ。
現場の人たちはいろいろな経験をしていて今、ここで働いている。酸いも甘いもかみわけた人たちだ。理不尽な人生を送ってきた人もいる。そんな人生の先輩に30歳前後の店長や私のような若造が、正論で頭ごなしに指示を出していてもうまくいくはずがない。私も本来の目標と違う職業・職場で働くことになったので現場の人の感情がわかるような気がしていた・・・

若い管理職に読んで欲しい内容です。

柳川範之・東大教授の独学勉強法

2018年2月14日   岡本全勝

柳川範之・東大経済学部教授の『東大教授が教える独学勉強法』(2017年、草思社文庫)が参考になります。
先生は日本の公立中学卒業後、父親の海外転勤などで、以後、独学を続けました。大学も、慶應大学の通信制です。そして、東大の教授になられました。

この本は、勉強とは何かを教えてくれます。知識や情報を覚えることと、考えて判断することの二つがあると、冒頭で強調されています。納得です。
それなら、独学でも身につく。いえ、先生が指摘するように、覚えるだけなら、大勢で授業を受けるより一人で取り組んだ方が効率的です。
もっとも、一人で目標と時間割を決めて勉強することは、かなりの精神力が必要です。学校で強制されても、サボるのですから。よって、凡人には学校で強制されるか、家庭教師がついて強制されることが必要でしょう。

この本を読むと、独学だけでなく、授業で学ぶ際や、本を読む際に必要なことやコツも分かります。勉強によって身につけるのは、知識と考え方です。授業を受けていても、結局は本人が身につけないと、効果がありません。 馬を水辺に連れて行くことはできるが、水を飲ますことはできないのです。
すると、知識と考え方を得る「方法」を身につけることが重要です。その方法がわかれば、あとは自分で勉強できます。

もう一つ、私が学校で学んだことは、友人や先生との対人関係であり、社会での身の処し方です。これは、家庭でのしつけや、テレビや小説を読むことでも身につくでしょうが、学校での集団生活が便利です。特に、引きこもりの問題が指摘されている現代では、対人関係をつくる能力は重要です。
先生の場合も、全く独学というわけではありません。経済学の道に進む際には、伊藤元重・東大教授との出会いがあるのです。

鹿島茂さんの「ノートル=ダム・ド・パリ」

2018年2月12日   岡本全勝

鹿島茂さんが、NHKEテレ「100分de名著」でヴィクトル・ユゴーの「ノートル=ダム・ド・パリ」を解説しておられます。私は、テキストを読んだだけですが。
「ノートルダムのせむし男」は、多くの人が聞いたことがあるのではないでしょうか。でも、先生がおっしゃっているように、原作を読んだ人は少ないでしょう。私もその一人です。
鹿島先生の書かれるものは、とても面白いので、テキストを本屋で手に取りました。

いや~、面白いです。鹿島先生ワールドが、炸裂です。
小説の背景、登場人物の個性、人間関係の構図、さらに作者の意図、書かれた時代背景、作者の育ちと培われた人間観・・・。もう原作を離れて、鹿島先生による、中世パリの案内と人間の葛藤、そしてユゴーが生きた時代の「豪華な展覧会」です。
小説も、このような解説を読んでからもう一度読むと、違ったものが見えてくるでしょうね。

難しい判断、比較不能なものの選択

2018年2月9日   岡本全勝

表題を見ると、「どんな難しいことか」と思われた方もおられるでしょう。今日書くのは、もっと身近な話題です。
小さなことながら、私たちは毎日、決断を迫られています。
風邪気味で熱があるとき、職場に出勤するかどうか。体調の悪さと、その日の仕事の重要性とを比較しながら、判断するでしょう。
夜の飲み会が予定されているのに、夕方急に急ぎの仕事が入ったとき。飲み会を優先するのか、仕事を優先するのか。
同じ時間に、Aさんに誘われた会合と、Bさんの会合が、ぶつかったとき。どちらを断るか。
それぞれに、自分で判断しなければなりません。

親族が死んだときに、どの程度休みを取るかは、規則で休暇の基準が決まっています。これは、一つの標準があるので、それに従うかどうかになります。難しく考えないなら、規定通りに休めば良いです。

東京駅から新宿の会合場所まで、たくさんある経路のうち、どれを選べば早く着くか。これは、コンピュータが選んでくれます。しかし、上に書いたような問題は、どちらを優先するか、客観的な科学的な物差しがないのです。
それが「比較不能なものの選択」です。これは、高等数学でも、AIでも解けません。長谷部恭男先生に『比較不能な価値の迷路―リベラル・デモクラシーの憲法理論』(2000年、東大出版会)という著書があります。

コンピュータが解けない問題にも、2種類あります。
朝食を、ご飯にするかパンにするか。これは、気分で決めても問題ないでしょう。結婚相手に、Cさんを選ぶかDさんを選ぶか。これは大きな問題で、あなたの人生は大きく変わります。しかし、好き嫌いで選んでも、あなたが納得すれば良いことです。
しかし、Aさんの会を優先するのか、Bさんの会を優先するのかの場合、どちらにどのように説明して断るのか。あなたのこれからの、職場人生を左右するかもしれません(笑い)。結婚相手を選ぶより、難しい判断なのです。
この2つの差は、結果が本人限りですむ問題と、周りの人たちとの関係に影響を及ぼす問題との違いです。そして、選ぶより断る方が難しいのです。