投稿者アーカイブ:岡本全勝

霞が関、増える業務、増えない人員

2022年7月14日   岡本全勝

7月1日の朝日新聞連載「2022参院選」「きしむ霞が関 増える業務・増えぬ人員、180人で7400船舶事業者カバー」から。
・・・観光船業者へのずさんな監査や基幹統計の不正――。国土交通省で相次いだ問題の背景にあるのが「人」の「不足」だ。現職官僚からは「ブラック霞が関の悪い部分が表れた」との声も漏れる。省庁のきしみは市民生活にも響きかねないが、選挙戦ではあまり語られない。識者は、官僚のあり方について「候補者はスタンスを明らかにして」と訴えている・・・

・・・4月に起きた北海道・知床半島沖の観光船「KAZU1(カズワン)」沈没事故では、乗客・乗員計26人のうち14人が死亡、12人が行方不明になっている。
事故をめぐっては、運航会社の安全管理のずさんさが明らかになったが、あわせて浮き彫りになったのは国交省側の監督の甘さだった。同省は昨年、運航会社に特別監査に入り、その後は改善の事後確認まで行っていたが、今回の事故後、改善されたはずの点を含め、17件もの安全管理規程違反が判明した。
国会では「国の確認がずさんだ」との声が相次ぎ、斉藤鉄夫国交相は「確認や指導が十分にできていなかったと認識している」、岸田文雄首相も「国交省として責任を十分に果たしていなかった」と認めた。

背景に見えてきたのは仕事量が膨らむ一方で人員は減らされてきた現場の厳しい実態だった。観光船の監査などを担う同省の「運航労務監理官」は2005年、安全担当の「運航監理官」と労働担当の「船員労務官」を統合してできた。「公務員の定数削減が求められる中で人減らしの側面があった」(同省幹部)とされ、1人が担う仕事が一気に増えた。
以降も業務量は増え続け、ここ数年に限って見ても、技能実習生の保護(17年)、飲酒規制の強化(19年)、働き方改革に向けた労働時間の管理強化(今年)などが加わっている。
一方で人員はここ10年で微減。今は180人で旅客船・貨物船計約7400事業者をカバーし、船員約7万6千人の労働にまで目を光らせる。北海道内に限れば16人で、カズワンの運航会社がある道東の広大なエリアの約70事業者をカバーするのは、わずか2人だ。
事故を受け、業務量はさらに膨らむ見通しだが、人員が手当てされるかどうかは、あくまで「政治の判断次第」(同省幹部)という・・・

市町村アカデミーで講義

2022年7月13日   岡本全勝

今日7月13日は、市町村アカデミーで講義をしました。「管理職を目指すステップアップ講座」のうち、「目標設定と職場のマネジメント」の科目です。この研修とこの科目は従来からやっているのですが、今回、担当教授から「この科目を学長がしゃべれ」との指示がありました。

この研修は「人材育成・人事管理の在り方、行政経営、リスクマネジメント等に関する講義、演習等により、管理職(所属長)になった場合に求められる能力の向上を目指します。今後、管理職(所属長相当職)として活躍が期待される課長補佐等の職員を対象とします」ものです。いくつか実施している管理職研修の一つです。

管理職に必要な能力については、いろいろ話したいとがあります。今回は2コマ分(2時間半)あったので、かなり話すことができました。いつものように、私の体験談(失敗談)を豊富に織り込みました。骨子には要点を書いて重要なことは覚えてもらうようにしました。みなさん、千葉まで研修に来られるだけあって、熱心に聞いてくださいました。
参考。このホームページに書いている「明るい課長講座」。

維新の会で見える自民党の今後の道

2022年7月13日   岡本全勝

7月12日の朝日新聞オピニオン欄に、砂原庸介・神戸大教授の「維新の立ち位置 自民の動向が左右」が載っていました。日本維新の会を分析したものですが、自民党の今後の道を示した解説と私は読みました。

・・・55年体制下の自民は、右派で、かつ公共事業を通じた生活保障を重視する政党と見なされていたと思います。しかし現在の自民の中核支持層は、政治的には右派で、経済的には将来への投資を重視する。維新の支持層もここに重なります。取り合う支持層を見る限り、維新の競争相手は立憲民主よりも自民です。

維新が自民との対立軸を作ろうとしたら、まず経済の軸でしょう。リーダー層の政治的イデオロギーは自民に近いからです。経済の軸とは、人々のニーズを細かく分けて生活保障を重視するか、ざっくりと社会的投資を重視するかという対立です。維新は、岸田文雄政権は改革が足りないと批判しますが、自民との違いを明確にするために、自民が昔の生活保障重視に戻ったという印象を与える戦略でもあるのでしょう。

しかし、自民がこの先、以前のような政党に戻るとは考えにくい。生活保障を手厚くするといっても、公共事業を以前のようにはできません。農業や自営業者の支持基盤も細っている。かつて「抵抗勢力」が守っていたような利益を維持すると言っても支持は得られません。

いま自民には、世襲でスキルが比較的高い若手議員がかなりいます。この層の政治姿勢は極めて維新に近い。右派で将来への投資を重視し、社会を変えることに関心を持っている。党内で世代交代が進んでこの層が多数派になり、「改革」を進めていけば、立ち位置が重なる維新は国政での居場所を失い、「大阪の政党」に戻るかもしれません・・・

最善の策と次善の策

2022年7月12日   岡本全勝

連載「公共を創る」で、日本人の政治に関する意識、特に政治を「汚いもの」と見る通念について書きました。理想を求める人や原理原則にこだわる人は、妥協を汚いものと見るのです。「潔くない」とです。「第120回 社会と政府ー政治への嫌悪感とゼロリスク信仰」。それに関連してです。

「最善の策だけど実現しそうにない案」と「次善の策だけど実現しそうな案」がある場合に、どちらを取るか。
理想をいう人は、前者を主張します。でも、実現しません。もちろん、誰だって理想を実現したいです。しかし、実現しないなら、何もしないことと同じです。
行政の世界でも、しばしばこのような職員がいます。ある人の案について、理想像を元に欠点を指摘します。まことにごもっともですが、その場合には解決策を提示してくれないと、前に進みません。

理想を求めつつ、今回はひとまず次善の策で妥協することも必要です。それに反対して理想を求める人には、「では、理想を実現するために、何をしましょうか」と聞いてください。

佐伯啓思先生「国を守るとは何を守ることなのか」

2022年7月12日   岡本全勝

7月1日の朝日新聞オピニオン欄、佐伯啓思先生の「普遍的価値を問い直す」から。

・・・ かなりラフなスケッチではあるものの、これが今日の世界の近似だとすれば、不安定な世界にあって、日本はどのように国を守ればよいのか。いや、そもそも何を守るのであろうか。
政府も多くのメディアも、日米同盟の強化によって日本も「国際社会」を守れという。現実に着地すれば、確かに日米同盟の強化しかないだろう。だがもしも、本当にこの戦争を専制主義から自由・民主主義を守る戦いだとみなし、「自由、民主主義、人権、法の支配」こそ人類の至上の価値だというのなら、それを守るためにも、その敵対者と対決するだけの軍事力を持たねばならないであろう。

実は憲法前文も次のように謳っている。「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。……われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって……」
まさしく、「自国のことのみに専念」するわけにはいかないとすれば、国際社会のためにも専制や圧迫と闘わねばならない。世界平和のためにも悪と戦う必要がある。安倍晋三元首相は、それを「積極的平和主義」と呼んだのであった。

だが多くの人はいうだろう。闘うとは命を賭す覚悟を決めることである。われわれは、自由や民主主義のために死ねるだろうか。国際社会のために死ねるだろうか。無理であろう。では、われわれは何を守ろうというのであろうか。
これは難しい問いである。ウクライナの多くの市民は、自由や民主主義のために戦っているわけではない。生命、財産のために戦っているわけでもあるまい。戦争の背景に何があるにせよ、眼前に出現した自国への理不尽な侵略、自国の文化や己の生活の理由なき破壊に対して命を賭けようとしているのだろう。そこにあるのは、理不尽な暴力に屈することをよしとしない矜持であろう。福沢諭吉的にいえば「独立自尊」である。

今日、世界の構造は著しく不安定化している。日本の憲法9条の平和主義は事実上条件付きのものである、なぜなら、9条の武力放棄は、前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」を受けているからだ。だが今日の世界ではもはやこの条件は成立していない。
何かのきっかけで日本もいつ他国の侵攻を受けるかわからない。その時、己の矜持や尊厳が試される。そういう時代なのである。とすれば、「9条を守れ」というより前に、「国を守る」という事態に直面する。その時、「国を守るとは何を守ることなのか」という問いを己に向けなければならない・・・