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成長できず格差是正ができない日本

2022年8月18日   岡本全勝

8月3日の朝日新聞オピニオン欄、吉川洋・元東大教授の「新しい資本主義の行方」から。

――岸田政権は「新しい資本主義」を模索しています。今の日本経済は何が問題で、これからどうしていくべきなのでしょうか。
「議論の前提として、資本主義について考えましょう。資本主義経済は、約200年前に誕生してから避けがたい『弱み』を持ち続けてきました。それは、資本主義が人や企業など担い手同士の自由競争を前提とすることから、それに勝って成功した集団と、不十分な成果しか得られなかった集団に分かれざるを得ないという問題、すなわち『格差』の発生がついて回らざるを得ないことです」
「そのため資本主義経済は、その格差を是正する解決策を常に模索してきました。競争が生み出す問題を、政府の力で解消したり極小化したりする手立てを取ってきました。その最たるものが、さまざまな税や社会保障制度で、負け組・持たざるものを救済することで弱みを克服してきたのです」

――しかし、今の日本経済は、富む者とそうでない者との差が広がるばかりに見えます。
「格差を是正するには、分配のための元手が必要で、その原資は経済成長から得られます。ところが日本は、バブル経済の崩壊後に金融危機が起き、非正規雇用が拡大。先行きを悲観した自殺者も増えました。阪神淡路大震災や東日本大震災の対処にも追われ、気がついたらGDP(国内総生産)は中国に、賃金は韓国にも追い抜かれてしまった。成長できなかった結果、格差を是正する元手も足りなくなったわけです」
「国際通貨基金(IMF)による1人あたりGDPでみると顕著です。日本は2000年にはルクセンブルクに次いで世界2位でしたが、10年には18位、21年は28位に落ち込んだ。これだけ稼ぐ力が下がれば、賃金は上がらない。よくぞ、こうした窮状に耐えてきたと思わざるを得ません」
「いま多くの日本人が考えているのは、他の先進国とは違う日本固有の問題である、こうした窮状を反映した閉塞(へいそく)感ではないでしょうか。この閉塞感の打開を抜きに『新しい資本主義』は語れないと思います。では、どうしたらいいのか。その前提は、何でジリ貧になってしまったのか、を考えることから始めなければなりません。一言で言えば、この間、成長するためにやるべきことをやらなかったことに尽きると思います」

――政策が担うべき役割とは。
「地球温暖化という世界的難題を考えたとき、カーボンニュートラルなどのグリーン分野は、これからの中核産業に育っていくでしょう。しかし、先行しているのは欧州です。ここに日本が切り込んで、自らグローバルスタンダードとなるような製品や規格を創造していくことが成長力の鍵でしょうし、格差解消の前提にもなるでしょう。そのためにはイノベーションが不可欠であり、イノベーションを支える人材、人材を育てる教育の拡充が大前提です。これらを担うのは、財政を含めた公的部門の力になります」「ただし、公的部門の仕事というと、お金をつけるだけと考えがちな従来の日本的思考はやめるべきです。たとえばコロナ禍では国内のワクチン開発に多額の公的資金が積まれましたが、いまだに成功していません。ここで問われたのは人材であり、そうした人材を短期間に糾合するネットワークづくりであり、開発を阻害する規制を打破する力であって、カネではない」
「逆に、うまくいった例がインバウンドです。ビザの緩和など、時代遅れの規制が見直される一方で、おもてなしの工夫や努力が民間サイドで積み重ねられました。宿の仲居さんが、簡単ながらも中国語や韓国語のあいさつを勉強する。そうした一つ一つの取り組みが功を奏したのです」
「介護の人手不足も、財政投入による賃金アップだけが解決策のようにいわれていますが、それだけでは解決できず、システムを物理的に変えねばなりません。かつて土木作業は人力でしたが、ブルドーザーという機械力が加わって一変しました。介護もテクノロジー、つまり、AIやロボットなどをもっと導入し人力頼りから脱する方向に向かわないと、成長できません」

実用社会学への期待

2022年8月17日   岡本全勝

連載「公共を創る」で、社会を見る際に公私二元論ではなく、官共業三元論で見ることを提唱しています。官は政治行政で二元論での公で、業は市場経済で二元論での私です。共は、狭い意味の社会であり非営利の世界です。この三つが、私たちの暮らしを支えています。

官については、政治や行政がどうあるべきか、政治学や行政学があります。業についても、経済学や公共経済学で、市場がどうあるべきか、政府はどのように介入すべきかについて大きな蓄積があります。
ところが、共(狭義の社会)については、私たちの暮らしをよくするためにどうあるべきか、政府はどのように関与すべきかを総合的に議論をしたものはないのです。少子高齢化、格差、孤独、子どもの貧困などについて、社会学は社会の問題を発見し、提起してくれます。そのような個別問題は扱うのですが、それらをまとめて議論した教科書や概説書はないのです。

社会学が、哲学のような深遠な議論をするものから、格差や孤独など身近にある具体問題を扱うものまで、様々なものを含んでいます。その全体像を系統的・分類的に示すことは難しいでしょう。私が期待するのは、社会学のうち「実用の学」と思われるものを集めて、分類し、それらを全体的に議論することです。
政治学、経済学(の一部)が「実用の学」であると同様に、社会学にもそれを期待したいのです。「公共社会学」という学問分野の考え方もあるようです。それが発展することを期待します。

依存こそ人間の強み

2022年8月17日   岡本全勝

日経新聞夕刊連載「人間発見」、熊谷晋一郎・東京大学准教授の「気軽に依存しあう社会に」から。

第1回(8月8日
私とはいったい何者なのか。生きづらさを和らげる解は自分自身の探求にあるのではないか。生まれてすぐ脳性まひを患い、障害を持ちながら小児科医に。東大で「当事者研究」という学術分野を切り開いた。

1977年生まれで、「障害とは何か」という思想の大転換を経験した世代です。
かつて障害とは障害者自身の問題であり、訓練や治療で社会適応を目指すべきだと考えられていました。60年代以降の障害者運動や81年の国際障害者年を機に、障害とは多数派である健常者向けに最適化された社会環境と、少数派の障害者とのミスマッチで生じる不利益だとの考えが広まりました。障害とは体の「中」に存在するのではなく、「外」の環境によって発生するということです。

第4回(8月12日
自身の抱える問題を観察し、説明する当事者研究は、もともと北海道浦河町にある社会福祉法人「浦河べてるの家」で01年に始まったものです。幻覚や妄想を持つ精神疾患の当事者が、支援者や仲間にサポートされながら生み出した「自分助け」の方法です。
研究に決定的な発見をもたらしたのは、薬物依存症からの回復支援施設「ダルク女性ハウス」との出会いでした。アルコールや薬物といった物質に依存するのは、裏を返すと、心に傷を負って人間不信になり、他人に頼れない状態のなかで生き延びるためだと気付かされました。近代の社会は自立や自己決定を善としますが、ヒトという種は元来1人では生きられず、依存しあってギリギリ生命を保ってきたのです。
依存は人間のお家芸であり、強みです。愚痴ったり、できないことを手伝ってもらったりするのが当たり前の姿です。自立とは依存先を増やすことだ――。目からうろこでした。

さらに検討を求める人

2022年8月16日   岡本全勝

最善の策と次善の策」の続きです。
賛成派と反対派がいて決着がつかない場合、あるいは問題点を指摘して(代案を出さないので)先に進まない場合があります。
このような場合に、「さらに検討しよう」と収める人がいます。困ったことです。ちっとも収めたことにならないのです。先送りしただけです。「あの人は慎重だ」ではなく、「あの人は決断できない人だ」なのです。

企業の場合は、新製品や新しいサービス開発で、このようなことを言っていると、競争相手に先を行かれ、負けます。
行政の場合は、「地域独占企業」であり、「先送りの罪」「不作為の罪」が見えにくいこともあって、しばしばこれが「決着」とされる場合があります。目の前に困っている人がいる場合は、先送りは罪です。

佐々木毅先生。日本政治、改革か後退か

2022年8月16日   岡本全勝

朝日新聞文化欄連載「語る 人生の贈りもの」、佐々木毅・元東大教授の発言から。

第10回(8月9日
《海部内閣は自民党内の反発で政治改革に挫折し、91年に総辞職。バブル経済も崩壊に向かう》
平成初期の日本社会はエネルギーに満ち満ちており、力余って金権政治やバブル経済の問題を生みました。ただ、課題に立ち向かう政治改革のパワーも持ち合わせていました。

第13回(8月12日
第2次安倍政権下で首相官邸の力が強まりましたが、今度は後継の人材難に直面しています。官邸主導で政党の地位も議員の地位も下がり、自民党本部で何をしているかがよく見えない。政党は本来、人材育成や政策立案などに果たすべき役割は大きいのです。

まずは国会運営の改革が不可欠です。通年国会として野党議員の質問ばかりではなく、与党議員がもっと表舞台で働く。代わりに首相や大臣の出席を減らし、独自の調査機能を強化する。議院内閣制下の政府与党一体化を弱め、パーラメント(議会)が政策の質を上げるためにキャビネット(内閣)を厳しくチェックすべきです。

冷戦後に政治改革を進めた日本には、先進国クラブから脱落しかねない危機感があった。民間政治臨調や21世紀臨調を立ち上げて超党派の知恵を持ち寄り、粘り強く政策提言を続けました。
今また改革か後退かの瀬戸際にいます。諸学の知恵を生かして議論を重ね、よりよい政治を目指す。学問も言論も、積極的な政策提言により行き着く先は一つです。