投稿者アーカイブ:岡本全勝

二つの「正解」

2022年11月24日   岡本全勝

自然科学における正解と、私たちの仕事における正解とは異なることを、拙著『明るい公務員講座』第1章で説明しました。
自然科学における問題の答は、一つに決まります。1+1=2であって、3は間違いです。それは、誰が見ても判断できる、客観的なものです。

他方で、私たちの仕事の多くは、正解が一つではありません。例えばある課題に対して対策組織をつくる場合、どれくらいの人数を集め、誰を責任者として、どのような人を配置するのか。一つの正解があるわけではありません。いくつかの案を作って、利害得失を考えてその中からよいだろうと思われる案を選びます。優秀な職員を配置すればよいのですが、引き抜かれた組織が困ります。「絶対正しい」という案はないのです。どこかで、折り合いをつけなければなりません。
職員が、市長の挨拶文案を作成する場合、これは正解で他は間違いということはありません。盛り込まなければならない要素が入っているかどうかは客観的に判定できますが、季節の挨拶を入れるのか、文体はどうするのか、長さはどの程度かは唯一の正解はありません。そして、職員と課長が「これがよい」と思っても、市長が「だめ」といえば、採用されません。

東日本大震災で判断に迷った際に、どのように決断したか。何が正解だったかを聞かれることがあります。前例のない事案で判断に迷うことはありましたが、二者択一やこれが正解で他は間違いというような問題はほとんどありませんでした。
「支援物資が輸送拠点であふれてしまった」とか「棺桶が足らない」という問題は、正解が一つではなく、また二者択一でもありません。正解は「どのようにして切り抜けるか」です。
まずは解決方法を探さなければなりません。考えられる案が一つで大きな副作用がないなら、迷うことなくそれを採用するでしょう。
解決方法がない場合が困るのです。その場合の正解は、「知恵を出してくれそうな人を探し、意見を聞くこと」です。私一人がいくら悩んでも、答は見つかりません。
できる限り広く意見を聞く。そしていくつかの案が出たら、それらの利害得失を判断する。その際も、関係者の意見を聞く。そして判断します。そこに私の力量が試されます。全員が納得すればよいですが、そうでない場合に決断があります。その判断基準は、「後世の人の批判に耐えうるか。説明できるか」「閻魔様の前で説明できるかどうか」です。
続き「迷ったときの判断基準、2つ

第二の人生、仕事も学びも前向き

2022年11月24日   岡本全勝

11月6日の朝日新聞に「第二の人生、仕事も学びも前向き」が載っていました。

・・・人生100年時代、その後半生となる「第二の人生」をどう生きていくか。朝日新聞Reライフプロジェクトが運営するコミュニティー「読者会議」(約1万3千人)のみなさんに聞くと、「仕事にも学びにも、積極的に、前向きに」という答えが返ってきました。今年実施した三つのアンケートから、「引退」という従来のイメージとは異なる、元気で活発なアクティブシニアの姿が見えてきます・・・
・・・ 実際に何歳まで働くことが理想なのかを聞くと「働き続けられればいつまでも働きたい」(29%)が最も多く、「70歳まで」(23%)と続いた。一般的な定年年齢は60歳か65歳。65歳を超えて働き続けたい人が6割超となった。
ただし第二の人生での働き方の基準は、定年前とは異なっている。回答者(複数回答)の4割を超す人が選んだのは、「達成感が得られること」と「世の中に貢献できること」。次いで「健康増進にもプラスの効果があること」「働く場所と時間が自由に選べること」「自分が成長できること」を選んだ人も3割に達した・・・

・・・自分で使える時間のゆとりを得た分、「学び直し」、いわゆるリカレント教育に対する受講意欲もきわめて高く、学び直しをテーマにした調査では、「学び直したい」と「今まさに学び直しをしている」の合計は95%に達した。
その目的(複数回答)は、「教養を高めたい」(57%)と「趣味を深めたい」(54%)がそれぞれ半数を超える一方、「現在の仕事に役立つ」(13%)や「定年後の再就職に役立つ」(9%)といった実益目的は、比較的少なかった・・・

・・・一方で、働き続けたい人のなかには生活の糧が理由の人も少なくない。仕事選びの基準を聞いた質問では、「収入を得るため」という回答が3割を超え、3番目だった。
背景にあるのは、寿命が延びればその分、将来のおカネの不安も大きくなるという思い・・・

講演の準備5

2022年11月23日   岡本全勝

講演の準備4」の続きです。今回は、準備や本番でなく、終わった後です。
講演を終えた後に、振り返ってみます。帰りの新幹線中などが多いです。
伝えたいことは、忘れずに伝えることができただろうか。
早口にならなかったか。時間配分はよかったかか。
聴衆の反応がよかった部分と悪かった部分はどこか、などなど。

聴衆から評価をもらったり感想文をもらう場合は、それを読むことで、どこがよかったか悪かったかがよく分かります。
それを、次回に活かします。受けがよくなかった部分を、思い切って捨てるとか。うまく伝わらなかった部分の話し方を変えるとかです。これが、次回の準備になります。

そして、資料を入れた半封筒を棚に保管します。電子データは、パソコンに分野別に保管します。それぞれ年月日をつけてあるので、すぐに取り出すことができます。

失敗には必ず原因がある

2022年11月23日   岡本全勝

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」は、野球の野村監督の言葉として有名ですが、元は、平戸藩主の松浦静山の言葉です。この名言が述べるように、失敗には必ず原因があります。

最近の事例でも、痛感しました。
まずは、岸和田市での保育園児が父親の車に取り残され死亡した事件(11月12日)です。自家用車の中に娘を置いて、保育園に引き渡すのを忘れた父親の責任は重大ですが、家族に子どもの欠席を確認する電話を怠った職員の責任も大きいです。職員が保護者に電話をしていれば、また園長が職員に「電話をしたか」確認さえしていれば、この事故は防げたはずです(報道を元に書いています)。

もう一つは、京成電鉄が脱線した事故(11月17日)です。報道によると、内規に違反して、運転士が電車をバックさせたことが原因だそうです。

それぞれ、決められたことを守っていたら防げた事故です。ここに、規則の限界が見えます。そして、職員個人の問題なのか、職場の組織文化(社風)の問題もあるのかが問われます。「社風をつくる、社風を変える

『領域を超えない民主主義』

2022年11月22日   岡本全勝

砂原庸介著『領域を超えない民主主義 地方政治における競争と民意』(2022年11月、東京大学出版会)を紹介します。

「領域を超えない」という表題はやや難しいですが、著者による説明は「なぜ日本では大規模に合併をやったりしてるのに、自治体間の連携はなかなか進まないんだろう」という問いについての考察で、その理由を政治制度に求めています。
確かに指摘されるとおりで、合併のほかは一部事務組合が機能していますが、市町村間・都道府県間の協働・連携はさほど行われていません。災害時の応援くらいでしょうか。観光や企業誘致などはその性格上、競争の動きが目立つことは仕方ないとしても。

第1章で問題適されているように、人や企業が集積している都市圏と、市町村の区域とは合致していません。住民は市境・県境を超えて毎日通勤し、買い物に出かけていて、自治体の範囲を意識していないでしょう。奈良府民や千葉都民という言葉が、このズレを象徴しています。

これまでの地方自治論では、国と自治体との関係が主に議論されてきました。第一次分権改革を成し遂げたので、こんどは、自治体の能力発揮と、自治体間の関係が問題になります。
国と自治体との関係は「権限の配分」なので、法律の規定になじむのですが、自治体間の連携は法律の規定には、なじまないのでしょう。どのような課題に、どのような形で答えていくかが、これからの課題になるでしょう。

第2章で議論されているように、大都市(東京や政令指定都市)における、市と都府県との関係も問題です。二重行政をどのように少なくするか。大都市が独り立ちすると、例えば大阪府庁が大阪市を管轄しなくなり、象徴的には府庁舎が大阪市(と堺市)の外に移転することになります。

分権と市町村合併の次の課題として、小規模自治体の能力向上、大都市の自治の問題、県と市町村との関係などが挙げられますが、この本の問題提起も重要です。