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改革の敵は官僚?

郵政民営化法が成立し、各紙は次の政治課題を並べています。ポスト小泉競争と関連させてです。例えば15日の朝日新聞は、森川愛彦記者が「郵政民営化法成立後の小泉構造改革マップ」という図表付きで解説していました。そこではテーマと担当政治家と予定が一覧表になっていて、わかりやすいです。
そこに書かれているテーマは、政府系金融機関改革、公務員削減、三位一体、医療費、外交、憲法です。この内、前3者が官僚との戦いになる、そして政治家の力量が問われるという見方です。
なぜ官僚が日本政治の「敵」になるか。それは次のような理由です。
簡単に言えば、日本社会と経済が右肩上がりの時代を終え、右肩下がりの時代に入ったからです。官僚は各省ごとに、それぞれの行政分野について充実拡大することを仕事にしてきました。「大蔵省主計局の担当主計官-各省(各局)-族議員-業界」という系列になります。それぞれが予算額の増額(どれだけ大蔵省からお金を取ってくるか)を競い、それを増える税収のなかで調整すればよかったのです。それは業界が喜ぶだけでなく、官僚にとっても予算の増額、公務員数の増員、天下りポストの確保だったのです。この構図は、この10年税収が増えなくなっても続き、足らない分は国債にツケを回しています。
右肩下がりの時代になって、この構図は成り立たなくなります。予算や人員を削減する時代になると、先ほどの系列は不要どころか、抵抗勢力になるのです。担当ごとの主計官制度では大幅な削減はできません、一律シーリング方式では分野別大幅削減はできません。
官僚制について言えば、国家官僚がいなくて、各省官僚しかいないことに問題の原因があります。内閣の方針を企画し実行する事務方である国家官僚がいない、日本全体を考える国家官僚がいなくて、各省の利益を考える各省官僚しかいない現在の官僚制(行政の構造的課題)です。
政治の世界に目を広げると、郵政民営化がシンボルでした。「改革派-小泉内閣」vs「族議員-業界」の戦いであって、与党vs野党の戦いではありませんでした。新聞でも野党の存在はほとんどありません。先の総選挙では逆に、野党の方が労働団体という業界の利益代表であるという解説もされました。
これからの構造改革は、既得権-業界-族議員-各省官僚との戦いになるのでしょう。政治の世界では首相のリーダーシップが確立されつつあり、与党では全員一致でなく多数決で決めて、党議拘束をかける、反対派は除名するといった改革が進みつつあります。すると、次は内閣と官僚の関係、すなわち国家官僚をどう作るかが課題になるでしょう。これを改革しないと、内閣の行う改革は進みにくいでしょう。

三位一体改革60

(簡単な三位一体の経緯と金額)
地方財政改革の経緯」の年表が、追加しているうちに大きくなって見にくくなりました。そこで、簡単にした「三位一体改革の経緯(簡略版)」を作りました。また、金額を簡単に整理した図表「三位一体改革金額イメージ」も作りました。「位一体改革の目標と実績」や「地方案の実現度」とともにご利用下さい。ただし、数字は丸めてあったりして正確でないこと(見やすさを優先したこと)をご了解下さい。(10月8日)
先日作成した「三位一体改革の経緯(簡略版)」「三位一体改革金額イメージ」は、森山正之係長の協力を得ました。遅くなりましたが、お礼を申し上げます。(10月12日)
(地方団体も自らに厳しく)
12日の読売新聞「論点」に、木村良樹和歌山県知事が「地方分権改革、自治体は質、効率競え」を書いておられました。「小泉政権の重要課題である三位一体改革が、ヤマ場を迎える。地方が政府に出した案に沿って改革が進むよう、郵政民営化と同様に首相の強い指導力を期待したい。同時に、政府に対して分権を主張する以上、我々にも自らを厳しく律して住民に信頼される地方政府になる責務がある。これに努力することが、分権改革の推進力になると思う」
12日の日経新聞夕刊は、「義務教育費国庫負担金。首相、削減を明言。文科相に検討を指示」を伝えていました。「首相は官邸で中山成彬文科省と会談し・・・『政府の方針を踏まえて検討してほしい』と述べ、税源移譲を念頭に検討するよう指示した」「首相は記者団に『8500億円を移譲すべきか』聞かれ、『そうですね。規定方針ですからね』と強調した」
(首相の責任)
また同紙は、「ニュースの理由」で、中西晴史編集委員が「三位一体数値目標達成に現実味」を解説しておられました。「昨年末の調整最終局面で小泉首相は『私の出番はないように』と”ドタ逃げ”した実績もある。選挙に圧勝し、郵政民営化法案成立のメドがついたことから、首相は年末の予算編成の焦点でもある三位一体改革に力を入れる」「来年度予算案で仮に目標数字を達成したとしても依然として補助金の大半は国に残る、2期改革への道筋を小泉政権の間につけられるかどうかも課題だ」
あわせて「地方の収支尻」を図表にしておられました。地方から見てプラスは、税源移譲予定の2.4兆円(予定3兆円)、マイナスは、補助金削減の3.6兆円(予定4.2兆円)と交付税等の削減2.9兆円です。(10月12日)
(審議会行政の終焉)
12日の中教審の特別部会答申案について、各紙が大きく報道していました。読売新聞は「中教審答申素案、首相と対決姿勢」。朝日新聞は「義務教育費せめぎ合い。地方自由裁量を。文科省格差を懸念」「首相の視線は未定の6000億円に」。毎日新聞は「三位一体改革。官邸、短期決着目指す」「最終攻防へ、族議員勢いなく」。日経新聞は「首相あくまで地方移管」「審議会行政曲がり角に」です。
各紙とも大きく伝えていますが、重点が異なります。読売新聞は、審議会と首相を対等に位置づけた記事でしょうか。日経新聞は、審議会行政が政治主導の前に終わろうとしていることを述べています。読売新聞は過去の日本政治の枠組みにたった記事、日経は日本の政治構造や政治過程が変わることを分析した記事、と私は思います。小泉政治を鋭く分析している読売新聞、政治主導を唱える読売新聞にしては、首尾一貫しない残念な記事ですね。
このほか、一番わかりやすかったのは、毎日新聞社説「中教審答申案、首相判断が一段と重くなった」です。詳しくは原文を読んでいただくとして、一部を紹介します。
「・・・毎日新聞は地方側の削減案について数合わせの色彩が強いことは認めながらも、発展途上時代を引きずり、中央統制が今も強い日本の教育行政を変える転機になると再三指摘してきた。その点で、素案の内容には「結局、国の権限の低下を恐れているだけではないか」と失望せざるを得ない・・・。
昨年11月の時点で、この問題は決着をつけておくべきだったのだ。むしろ、中教審は政府・与党内の対立を回避するための道具にされた感がある・・・。
今回の審議が「カネ」の話に焦点が当たり、「義務教育はどうあるべきか」という本来のテーマがかすんでしまっているのも残念なことだった。
 問題は今後だろう。中教審は文科相の諮問機関に過ぎない。三位一体改革の原点に立ち返り、内閣と地方側との協議の場で決するのは当然だ。そして「教育の地方分権」の趣旨を貫くため、いずれ小学校分も移譲を進めるべきだ。大事なのは原則である。対立する双方の顔を立て、国の負担率を切り下げてお茶を濁すという見方も依然ささやかれる。そんな妥協方式だけはとらない方がいい。」
また、12日夜には、「国と地方の協議の場」が久しぶりに開かれました。(10月13日)
(公共事業の税源移譲、理想と現実戦略)
14日の日経新聞社説は、「原点を忘れた三位一体改革」でした。
「改革の狙いは使い道を縛る補助負担金を縮小し、地方の財政の自由度を高めることにある。補助負担金はその趣旨に沿うものから順に廃止すればいい。最悪なのは裁量の余地の少ないものを優先し、廃止ではなく、補助負担率引き下げで済ませることだ。配分作業は変わらないから、霞が関のスリム化にもならない。
実際には最悪のシナリオ通りに進んでいる。昨年11月の政府・与党合意で、地方側の提案にない国民健康保険負担金の負担率引き下げを加えてから本来の軌道を外れ始めた。」
「改革が狙い通りに進まないのは、税源移譲すれば最も地方の自由度が高まるとみられる公共事業や施設整備関係の補助負担金を対象から外したのが大きい。建設国債を原資としているから税源移譲の対象にできないという理由だが、公共事業などを聖域にしたら改革は成り立たない」
その通りです。公共事業や施設整備を、税源移譲の対象とすべきです。これらのいくつかは国債が財源ですが、道路整備については特定財源ですから、「国債が財源なので税源移譲できない」という主張は成り立たないはずです。関係者は明確にはしませんが。もちろん、国債が財源であっても、それは仮の財源(つなぎ)であって、その償還財源(最終財源)は国税ですから、これも税源移譲対象になります。
もう一つの指摘については、私は、結果として「数字あわせ」的な面があっても、仕方がないと思っています。もちろん、生活保護費の負担率を下げるなどはもってのほかで、許されることではありません。
なんだかんだと理屈をつけては改革を先送りしてきたのが、日本の近年の政治です。完璧な理想を求めることは良いことです。しかし、政治の世界で、それは無い物ねだりでしょう。多くの場合、「不完全だ」とか「今と変わらない」という主張は、守旧派の隠れ蓑です。「官僚とはできない理屈を考える動物である」は、確か曾野綾子さんの名言でした。
少々不完全であっても、まずは第一歩を進めること。これが今の日本の政治に必要なのです。もちろん、大幅に骨抜きになって、当初の目的を達しないのは論外ですが。
14日の読売新聞解説欄では、青山彰久記者が「ヤマ場の三位一体改革」を書いておられました。国と地方の協議の場が、日本の政治過程に持つ意味を取り上げています。
「瞬間的に設置が決まった協議の場だが、持っている意味は重い。内政の政策立案に地方が参加することには、今も政府部内や与党内で抵抗がある。特に補助金の存廃の判断は従来、予算査定した財務省の権限で、それを頭越しにする手法は異例だった。だが、政権が分権改革を掲げた以上、教育やまちづくりなど生活に密着した政策に、現場に責任がある地方が加わるのは必然的な流れといえる。むしろ地方は責任ある立場で国と対等に協議する必要がある」(10月14日)

首相対各省審議会

10日の日経新聞が「義務教育費国庫負担金、地方に移管せず。中教審答申へ、首相の意向拒否」を報道するとともに、詳しく解説していました。12日の特別部会に示す予定の答申案を、事前に報じる形です。記事は次のように書いています。
「小泉純一郎首相は文部科学省に同負担金の削減を指示したばかりで、中教審は官邸の意向を事実上、拒否する格好だ」
「衆院選での圧勝を受けた9月下旬、小泉純一郎首相が文科事務次官らを官邸に呼び、地方案実現を直接指示した。関係者によると、それ以外にも水面下で官邸の強い働きかけが連日のように続いたという」
「中教審答申が負担金維持でまとまっても、政治決着で否定される可能性は高く、その場合、中教審の権威低下は避けられない」
「学識経験者を中心にした審議会を数多く活用する”審議会行政”の典型だった文部科学行政にとって、綱引きの行方は大きな意味を持つ」
何度か解説したように、三位一体改革は日本の政治の進め方(官僚主導)を変えようとするものであり、政治主導でないと進みません。審議会は「官僚の隠れ蓑」といわれるように、官僚の意向によって委員か選ばれ、また官僚が答申案を書きます。そもそも、審議会は各省の機関であり、大臣の部下です。各省の「既得権」の代表です。
首相が改革を進めようとすると、「抵抗勢力」になります。今回の騒ぎで、審議会政治が何であるかが国民によく見えたと思います。この結果、今後、審議会が縮小されると、政治改革につながりますね。

三位一体改革59

26日の日経新聞「経済教室・新政権に求める3」は、西尾勝元東大教授の「三位一体こそ改革の本丸」「首相が指導力を、公共事業の補助金削減も」でした。
「来年度予算の編成過程のなかで最も重要な懸案事項は『三位一体の改革』の着実な前進である」「この三位一体の改革の方が郵政民営化以上に直接的に中央省庁官僚機構の既得権益に鋭く切り込む構造改革であり、その波及効果も郵政民営化よりもはるかに広く、国・地方を通ずる行財政構造の全般に及ぶ改革である。本来はこちらの方こそ『改革の本丸』と位置づけられてしかるべきものであった」
「三位一体の改革を曲がりなりにもここまで進めてきたのは、第2次小泉内閣の功績であった・・・しかし、昨年の地方6団体の提案から政府与党合意に至るまでの混乱と迷走の過程では、遺憾ながら小泉首相の積極的な介入は見られなかった・・」
「三位一体の改革の具体案は、国の責任において改革案を策定すべきものである。そしてそれは、首相の強力なリーダーシップの発揮によって、財務省をはじめ関係省庁の官僚機構とこれを取り巻く族議員集団を承伏させなければ、実現困難な構造改革である。その反面、これを成功裏に成し遂げさえすれば、それは国・地方を通ずる歳出削減に最も有効な方策となりうる。小泉首相はその任期いっぱい、この構造改革に全力を傾けてほしい。」
ぜひ全文をお読み下さい。(9月26日)
26日に小泉総理は、衆参両院で所信表明演説をされました。その大半は郵政民営化で占められていましたが、その次は三位一体改革でした。「『地方にできることは地方に』という方針の下、4兆円程度の補助金改革、3兆円規模を目指した税源移譲、地方交付税の見直しの三位一体の改革について、地方の意見を真摯に受け止め、来年度までに確実に実現いたします」。郵政民営化の次は、いよいよ三位一体改革(その1)の仕上げです。(9月26日)
27日、小泉総理は官邸に文部科学事務次官を呼んで、義務教育費国庫負担金について「地方にできることは地方に、地方の意見を尊重してやるから、しっかりやってくれ」と指示されたそうです。「地方案に沿ってやってくれという趣旨か」との問いには、「そうですね」と答えられたとのことです(28日付朝日新聞、日経新聞)。(9月28日)
4日の日本経済新聞は、「義務教育国庫負担金8500億円。首相、全額地方移管狙う」を大きく解説していました。読売新聞は、「中教審、国庫負担制を堅持。8500億円の削減、焦点に」と「調整は首相ペース。文科省は強権警戒」を2面に分けて書いていました。
いよいよ、決着をつける時期が来ましたかね。いつも書いているように、これは単なるお金の取り合いでなく、内閣のリーダーシップが各省・官僚の抵抗を乗り越えられるか、地方の意見が中央政治を動かせるか、中央集権を地方分権に転換できるか、これまでの日本型政治を改革できるかなど、日本の政治の焦点・試金石なのです。
また、夕刻には経済財政諮問会議が開かれ、社会保障制度改革と三位一体の改革が議論されました。
共同通信社によると、「小泉純一郎首相は4日夜、国・地方財政の三位一体改革で焦点になっている義務教育費国庫負担金の削減問題について『地方の意見を尊重しなければならない』と述べ、削減を求める全国知事会など地方6団体の意向に沿って2006年度予算編成を進める方針をあらためて示した」とのことです。(10月4日)
4日の経済財政諮問会議で、三位一体改革が動き出しました。竹中大臣の記者会見によれば、次の通りです。
「地方六団体の代表の方々においでいただきまして、真の地方分権のための三位一体の改革の実現に向けて、ということで、地方六団体からの御要望といいますか、お話をお伺いいたしました。地方からは、幾つかの項目が紙に出ておりますけれども、3兆円の税源移譲を確実に実施してほしい、補助金の削減等についてしっかりと地方の改革案の中から実現してほしい、建設国債対象経費である施設費についても、しっかりとそれを実現してほしい等の御要望が出されました。最後に総理は、この三位一体の改革は、地方の意見を尊重して行う、というような御挨拶をされました」
5日の朝日新聞は、「三位一体も首相ペース?補助金削減『地方案を尊重』」「族議員後退、力学に変化。中央省庁なお抵抗」という見出しで、大きく解説していました。図では、義務教育について首相対文科大臣、公共事業について岩手県知事対財務大臣、生活保護について横浜市長対厚労大臣を対立の構図として載せていました。毎日新聞も、2面に分けて解説していました。
諮問会議で地方団体代表が意見を述べるとか、首長が大臣と対立の構図で取り上げられるとか、少し前までは考えられなかったことです。それが今や普通のことになりました。政治が、確実に変わってきています。
もっとも、対立の構図のなかで、「首相対文科大臣」は事実としても、変ですよね。文科大臣の任命権者は首相ですから。(10月5日)
7日の閣僚懇談会で、官房長官が三位一体改革を進めるために、「関係各大臣には、改革案の検討を進め、その結果を10月17日までに提出していただきたい」と発言されました。
昨年と同様、三位一体秋の陣が、キックオフです。でも、昨年は、期待したほど各省からは良い回答が出なかったのですよね。(10月7日)