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税源移譲

15日に次のように書いたら、林崎理市町村税課長から、訂正指示が来ました。「減税を廃止するので、増税ではありません」。そうですね、負担が増えますが、元の状態に戻るということです。
皆さん、そろそろ1月の給与をもらわれたと思います。明細表を見ると、所得税は減っていたでしょう。もし増えていたら、それは高額所得者です。その方々は、限界税率が地方税にあっては13%から10%に減り、所得税が37%から40%に増えているからです。(1月17日)
15日の日経新聞が、税源移譲に伴う、所得税減税・住民税増税を詳しく解説していました。多くのサラリーマンにとって、所得税が減税になり、住民税が増税になります。個々の納税者の負担は変えないように設計してあるのですが、二つ注意が必要です。
一つは、所得税の減税は1月(今月)から始まります。しかし、住民税の増税は、6月から始まります。1月の給与明細を見て、喜んではいけません。もう一つは、定率減税の廃止があるということです。これは税源移譲とは関係ないのですが、昨年から始まり、今年から全廃になります。その分だけ、これまでに比べると増税になります。
このほかにも、いくつか注意点があります。詳しくは、総務省のHPをご覧ください。これで良いかな、林崎課長。

地方の提案

全国知事会と市長会による生活保護制度の見直し案「新たなセーフティネットの提案」は、このHPでも何度か紹介しました。座長である木村陽子先生の新聞記事も、先日紹介しました。
私は、三位一体改革の過程で、補助率をいくらにするということでなく、地方団体が制度全体の見直しを提言するべきであると主張してきました。その過程で、地方団体が補助金廃止案を提案することで、中央政治での入力主体になったのです。それならば、内政事務については、実施だけでなく企画にも参加すべきだということです。生活保護はその最たるもので、現場を知っている地方団体が提案すべきだと、書きました(例えば「続・進む三位一体改革」月刊『地方財務』2006年7月号p121)。その実践が、この提案です。
木村先生もこの観点から、月刊『地方財政』(地方財務協会)2006年3月号と12月号に、実情を詳しく書かれています。厚生労働省が主張した「現業員が少ない市が保護率が高い」を、地方団体がデータで反論しました。会計検査院も、地方の主張を支持したことも書かれています。ご関心のある方は、ご覧ください。

国際化

日経新聞10日「成長を考える」は、医療=産業論でした。詳細は本文を読んでいただくとして、私が考えたのは、その中の「患者は空を飛んでいく」についてです。記事では、日本人が視力回復治療のために、年間1万6千人もの人が、タイのある病院に行くのだそうです。日本の半額で、できるのだそうです。
グローバル化によって、いろんなものが国境を越えて移動します。足の速いのは、お金や情報です。国境をものともせず、動き回ります。次に物です。工業製品を輸出し、農産物などを大量に輸入しています。いくつかは関税で守られていますが、経済の論理では早晩自由化されるでしょう。
人については、「輸入」を限定している日本では、まだ国境が高いと思っていました。しかし、労働力に着目すると、工場を海外に移設し現地の労働力を雇うことで、事実上の労働力の輸入になっています。また、コールセンター(電話受付)を海外に移す場合は、もっと見えやすいです。その分、日本の労働者が失業したり、低賃金になりました。近年の労働に関する問題、すなわち給与が上がらないこと、失業者が多いことは、ここにも大きな原因があります。
土地は輸入できないものですが、これもその機能はすでに輸入しています。農産物を輸入しているのは、海外の農地を借りて生産していることです。数年前にネギの輸入、セーフティガードの発動が問題になったのは、これです。ネギ苗は、日本から持って行っているのです。中国の土地と労働力を日本に持ってこずに、現地で使っているのです。
対人サービスが、輸入できないものとして残ります。しかし、この記事を読むと、医療サービスも国境を越えているのですね。もちろん、そこまで金を出さない診療は、国を越えないでしょうが。
11日の日経新聞は、「動産担保融資、地方で急増」を伝えていました。これまで日本の銀行は、土地を担保にするか、借り主・保証人に責任を負わせてきました。土地本位制・右肩上がりの時は、これでよかったのでしょう。しかし、右肩上がりでなくなったときは、もはや土地と保証人では融資する先がありません。融資される方も、土地がないと金を貸してもらえないようでは、事業を起こすことはできません。ちなみに、日本では学校を作るときも、土地と建物が必要です。でも、学生が求めるのは、教育内容であって、立派な建物でなく借り上げ校舎でも良いんですよね。
このような変化も、日本が経済成長・発展途上国を終えたことによるものです。もっとも、私の友人によると、「銀行の多くも、土地なら評価は簡単だけど、事業の評価は慣れていないからねえ・・」とのことです。それに加えて「官庁だって、予算と定数で評価していたじゃないか。お互い様だ」という批判もついていました。(1月11日)
13日の日経新聞「世界を語る」は、フランスのジャック・アタリ氏の「グローバル化の将来は。市場と民主主義、両立がカギ」でした。
アメリカ主導のグローバル化について、次のように語っています。
「次第に勢いを弱めながら、あと30年といったところか。世界中に市場経済と民主主義による統治の仕組みを広げようと、必死にヒトやカネを投じて本国は疲弊した。ローマ帝国が東西に分裂した後も、法の支配、軍隊の組織といった遺産が、社会のインフラとして受け継がれた。米国が打ち出した市場経済と民主主義の基本原則も、米国の盛衰にかかわらず残っていく」
市場経済と民主主義の相互の関係については、「市場経済と民主主義はそれぞれ普遍的な価値観、社会の仕組みだが、放っておくと市場経済が民主主義を駆逐して、民主主義が廃れる恐れがある。市場経済が地域や分野を問わず拡散する特徴を持つのに対し、民主主義は特定の国家権力の及ぶ領土に限られたものだからだ」「民主主義を懸命に支え、もり立て、市場経済と競合できる対等な関係を保つことだ。二つを不可分に結びつければ、グローバル化は世界にとって脅威ではなく、福音となる」

暮らしの場と暮らし方

12月で、新居に移って1年が経ちました。それもあって、渡辺武信著「住まい方の思想」「住まい方の演出」「住まい方の実践」「住まいのつくり方」(それぞれ中公新書)を、読み返しました。寝る前に布団の中で読む本は進むのですが、書斎での難しい本は進みませんねえ。結果として、新書と文庫本、エッセイのたぐいしか読めません。
さて、家を建てるに際し、いろんなハウツー本も読みました。それはそれなりに役に立った(役に立たなかった)のですが、そのようなハウツーより、記憶に残った本、なるほどと思ったのが、これらの本です。
先生の主張は、「住まいは単に住む場所でなく、その人の人生観の表現である」と、要約したらいいでしょうか。「私の場所」をつくることだとも、おっしゃってます。良い住まい、住みよい住まいとは、業者がいくら金をかけても、高い家具を置いてもできるものではなく、住人がそこでどのような生活を送るかによります。ただ広ければいい、というものではないのです。「狭苦しい」(狭楽しい)ということも、おっしゃってます。まあ、そこそこの面積は必要ですが。住まいは、ものとしてみれば、大きな箱であり調度品です。しかしその容れ物が問題なのではなく、そこにできる隙間が重要だと主張されます。そうですね。そこで、どのような時間を過ごすかですから。となると、重要なのは入れものである家でなく、その中での住人の生活の仕方になります。ハードウエアでなく、ソフトウエア、コンテンツです。
もっとも、私も若いときは、1年のほとんどを仕事場で過ごし、家には寝るだけに帰っていました。そのような暮らしは、本でも批判されています。もう少し、自分の時間を大切にするべきでした。まあ、そんなことを考えることができる歳になった、ということでしょう。でも、書斎がなくても、本は書けるのですよね。私の著作の多くは、食卓で生産されました。
これから家を建てようと考えておられる方だけでなく、暮らし方を考えておられる方にはお勧めです。家を通じた人生論です。もっと他の建築の本も、教養として勉強になりましたが、小さな我が家には縁のないことが多いので、省略します。