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日本政治、研究者の成果

若手研究者による成果が、次々と出版されています。インターネットで検索すれば、探すことはできるのでしょうが、各分野での動向を簡単に俯瞰することは難しいです。学会誌では、通常1年遅れになります。それらを紹介する月刊誌がある分野も、少ないでしょう。研究者の方々は、それぞれのネットワークで調べておられるのでしょうね。
砂原庸介准教授が、ブログで、日本政治研究の若手のこの1年の成果を紹介してくれています(2012年12月22日の記事)。それぞれ「分厚い」ことと、数が多いことから、なかなか目を通すことができません。私が若かった頃は、現在の日本政治を取り上げた研究は、こんなに多くなかったです。喜ぶべきことです。
政治家、官僚、マスコミが、これらの成果をどのように現実政治で活かしていくか。それが課題です。特に、税財政、社会保障、環境といった「政策分野別」の成果は、それぞれの政策共同体(各省、関係する政治家やマスコミ)で生かされるでしょうが、統治のあり方、内閣のあり方、制度改革など「基本制度の設計と運用」について、専門職や政策共同体がないのです。

地方分権改革の政治学、アイデアの実現過程

木寺元・北海学園大学准教授が、『地方分権改革の政治学―制度・アイデア・官僚制』(2012年、有斐閣)を出版されました。
本書は、2つの視点から、読むことができます。
1つは、地方分権改革です。戦後長らく安定的に(大きな改革なしに)推移してきた日本の自治制度が、1990年代以降、分権改革として変貌しました。その一連の分権改革(機関委任事務制度廃止、三位一体改革、出先機関改革、義務付け枠付けの見直しなど)が、どのような過程で実現したか、またしなかったかが、まとめられています。それぞれの改革については解説書がありますが、これらを一連のものとして、また実現しなかったものも含めて解説したものは少ないと思います。これは地方行財政学の範囲です。
もう1つは、いくつもの改革の中で、なぜあるものは実現し、あるものは不十分なものに終わったのか。これを「アイディア」という概念で説明します。行政学者や財政学者たちが提唱する改革の「青写真」は、それ単独では実際の改革に結びつきません。いくつもの改革案のうち、政府内部の意思決定過程を熟知する「主導アクター」(本書では官僚制)に受け容れられた「アイディア」だけが、実際の制度改革に結びついていくプロセスを、説明します。これは政治学・行政学の範囲です。
改革が実現した場合、あるいはしなかった場合を分析する際には、主体(担いだ人・グループ)、抵抗勢力、世論の支持、検討の場といった「権力(利益を含む)の過程」と、アイデアの善し悪し、時代の要請など「政策からの分析」があるでしょう。本書は、近年注目されている「アイデアの政治」を枠組みに、それを精緻にして、改革実現・失敗過程を分析します。(砂原庸介准教授による紹介

地方自治、行政改革にご関心のある方に、一読をお勧めします。今後、改革を進める際にも参考になります。
ところで、分権改革がこのような検証の対象となるのは、学者、官僚、自治体、マスコミなどの「政策共同体」があって、そこで改革のアイデアが出て、さらに審議会など場を経て、実現・実現しない過程が見えるからです。これらの「場」がない行政分野では、過程が見えにくく、検証しにくいです。
木寺准教授は、私が東大大学院に出講していたときの、塾頭3羽ガラスの一人です。本書あとがきで、過分なお褒めを書いていただき、こちらが恐縮しています。

復興の実感

岩手県は、被災地の住民150人を調査員に任命して、四半期ごとに、復興の実感を調査しています。この「いわて復興ウォッチャー調査」は、壊れた施設がどれだけ復興したかといった客観的指標でなく、住民の主観的な指標です。施設の復旧度合いだけでは、生活の再建は測れません。かといって、客観的な指標もないのです。
平成24年11月の結果が、12月末に公表されました。それによると、被災者の生活の回復に対する実感は、「回復した」と「やや回復した」を合わせて51%になりました。初めて半数を超えました。その理由は、「住宅再建は時間を要するが、日常生活はだいぶ通常通りになっている」などです。「回復していない」の理由も、「住宅再建などの見通しが立たない」です(12月27日付岩手日報)。
また、岩手県は、「社会資本の復旧・復興ロードマップ」を公表しました。道路、港湾、医療、教育と並んで、災害公営住宅が載っています。
例えば、釜石市の例をご覧ください。その3ページ目にか所ごとの予定が載っています。2地区は工事に入っていますが、そのほかは用地買収、設計段階です。住宅が完成するのは、平成25年から26年にかけてです。適地がないこと、住民の意見集約に時間がかかること、そして工事に入ってからも完成までに時間がかかることが理由です。工事か所が多いことから、資材や職人の確保も難しくなるでしょう。

なお、津波被災地域の写真(何もない空き地が広がっています)を見て、「復興が進んでいない」という人がおられます。これは多くの場合、間違いです。津波被災地域は、再度の津波の恐れがあることと、地盤沈下していて以前より危険なことから、住宅は高台に移転します。
元の場所をどう使うかは、これから考えます。そこには、当分の間、住宅や施設は建ちませんし、建てません(元の場所をかさ上げする地区もあります)。

仕事開始

今日3日は出勤して、大臣と打ち合わせや議論をしました。職員が年末年始を返上して資料を作ってくれたことに、感謝します。私は、自宅のパソコンから修正指示を出すことですみました。
その資料ができていたので、今日の議論はおおむねスムースに進みました。といっても、課題は山積です。何をどうしなければならないかが、明瞭になりつつあるということです。

原稿提出

締め切りが迫っていた原稿を書き上げ、提出しました。東日本大震災での政府の活動を、整理し評価したものです。この間ずっと携わっていたので、素材には事欠かず、またしばしば講演や報告に呼ばれたので、整理もできています(もっとも、原子力災害は、私の所管外でした)。
しかし、あらためて、「大災害時の政府の役割は何か」を考えると、奥は深いです。救助と復旧について何ができて何ができなかったかという次元だけでなく、暮らしと町並みを失った国民に対し政府はそもそも何をしなければならないか、何をしてきたかが、問われます。国民を保護し生活再建を支援するという基本的な仕事で、「政府の能力が試される」のです。政府と官僚のあり方を考えている私にとっては、良い機会です。
分量は2万字(400字×50枚)なので、そんなにたくさん書くことはできません。当初書いた原稿を、かなり削りました。でも、簡潔にまとめる方が、読む人にはわかりやすいです。書く方は大変ですが、自分が何を主張したいのかが明確になります。
活字に残しておくことが重要と思い、これまでかなりの文章を書いてきました。最近は、「生産能力」が落ちています(反省)。睡眠時間を削り、付き合いを断り、休日を執筆に充てなければならないのです。中断した連載もあります。長尾編集長、ごめん。
12月初めにはほぼ書き上げて、何人かの人にみてもらい、自分では気がつかない視点や間違いを指摘してもらいました。一人で書くのは、危ないですね(苦笑)。今日、最後の確認をしたら、それでも加筆した方が良いところが見つかりました。でも、締め切りが来たので、手放します。活字になることを、乞うご期待。
さて、これで3日間のおやすみは終了。明日から、仕事です。といっても、息子も婿も、今日から働いています。