金融市場対国家の規制

24日の朝日新聞佐藤隆文前金融庁長官のインタビューから。
アメリカで、金融機関に対する規制を大幅に強化する法律が成立したことの評価について。
「ボルカールールは、①顧客サービスと関係ない自己勘定取引を商業銀行にさせない、②投資ファンドへの出資や運用などを制限する、の2本柱からなっている。公共性の高い銀行が、顧客向けサービスと関係のない自己勘定でリスクの高い投資をすることは許さないということだ。
ビジネスの分野を制限する点では、ここ20年間の市場機能を重視した規制からは踏み込んでいる。ただ、企業が資金を集めるのを支援したりする投資銀行業務を否定しているわけではない・・あまり大げさに考えない方がいいのかもしれない」
アメリカが、他の国にも同様の規制を求める構えであることについては。
「金融危機の加害者であり、最大の被害者である米国や英国が自国の金融を立て直すために、規制を厳しくするのはわかる。欧米の金融機関は利益を膨らますため、高いレバレッジ(外部借入)でリスクの高い投資に走った。だが、日本ではこうした問題は起きていない。『日本も同じ規制を導入しろ』というのはとんでもない。国際的な統一ルールを作るには各国市場の特性も考えないといけない。それを無視して画一的な基準を持ち込めば、問題がない国や金融機関に不要な規制を課すことになる」

一方、欧州連合は、23日に、不況が続いても耐えられる経営体力が銀行にあるかどうかを調べる、特別検査(ストレステスト)の結果を公表しました。同じく、24日の朝日新聞、ロンドンの有田哲文記者は、次のように解説しています。
アメリカでは、金融危機で銀行の信用不安が高まっていた2009年2月にストレステストを実施し、結果を5月に発表した。対象は資産総額が1千億ドルを超える大手19社で、このうち資本不足と判定されたのは10社だった。アメリカ金融当局は、資本不足と判定した金融機関に、1か月以内に資本増強計画を提出させ、半年後の11月までに計画を実行するよう求めた。
各行とも、増資などで資本不足を解消する方針を表明。計画通り実施し、アメリカ政府が求める水準まで資本を増やすことができた。このため、公的資金の再注入や国有化などは免れた。
市場では、当初、「検査の基準が甘い」との指摘もあり、検査結果以上に損失が膨らむことへの懸念が根強かった。だが、その後の株価は上昇し、楽観ムードが高まった。投資家の多くは、テストによって金融機関の財務状況が明らかにされたことや、増資で体力が向上したことを評価。金融危機が長引くことへの不安を解くことに成功した。
これを参考にすると、欧州のストレステストの成否のカギは、透明性があると投資家が判断するかどうかである。
(有田さん、活躍してますね。わかりやすい記事でしたよ。)

予言には、自己充足的予言と自己否定的予言があります。予言したことがその通り実現する場合と、実現しない場合です。金融の場合は、投資家の判断がどちらに転ぶかによって、(実は条件がそろっていなかった場合でも、楽観によって株価が上がって)実現する場合と、(実はひとまず条件はそろっていたのに、悲観的になって株価がさらに下がり)実現しない場合があるのでしょう。