9月22日の日経新聞経済教室は、砂原庸介・神戸大学教授の「大都市制度の論点、自治体間の自発的連携を促せ」でした。これまでにない発想だと思います。ついている図を見ると、日本の3大都市圏は、世界で比べると大きい方ですが、突出しているわけではありません。図では都市名は明示されていませんが、ニューヨーク、パリ、ローマ、ミラノ、ロンドンなどと同じか小さいのでしょう。
・・・地方自治体が行う公共サービスは、基本的にその自治体に住む人々を対象に、その自治体の有する資源を利用して提供されるものだと考えられる。それでは、ある自治体の外からやってきて、その自治体が提供する公共サービスを利用する人々の負担をどのように考えたら良いだろうか。人々が社会経済活動のために移動する範囲である「都市圏」と、地域住民として公共サービスの費用を負担する範囲である「自治体」にズレが生じるとき、この問題への対処が求められる・・・
・・・問題を解決する方法は2つある。1つは制度を変えて、都市圏の大きさに見合った自治体を作ることだ。合併を通じて自治体と都市圏の範囲が重なるようにすれば、より多くの人々に負担を求めることができる。近代化の過程で都市圏が大きくなっていく中で、まず採用されやすい解決策が、中心都市による周辺自治体の合併だった。
また、これまでの自治体を維持しながら、新しいレベルの政府を作ることもある。例えば1980年代にフランスやイタリアでは新しいレベルの州政府が作られ、広域の公共サービス提供を担当している。
しかし最近は先進国ではこれらの方法はあまり使われず、その代わりに自治体間の連携が強調される。合併や、新しいレベルの政府を作る際の政治的なコストが高すぎるからである・・・
・・・特に、必要なサービスを全て自前でそろえることが困難な自治体にとっては、連携は重要な選択肢となっている。
多くの国では、都市圏の単位で公共交通をはじめとした生活インフラ整備のための調整が行われている。同時に、公共サービスはその性質によって、個々の自治体単位や小規模の自治体間連携で提供されている。
それに対して日本の重要な特徴は、自治体間の連携が低調なことである。例えば経済協力開発機構(OECD)からは、加盟国の中で唯一、都市圏での公共交通の調整機構がないことが指摘されている。
日本で連携が低調なのは、都市圏と自治体の領域のズレを自治体合併で解消する傾向があったためだ。しかし、現在の政令指定都市のような規模の自治体が生まれると、合併による解決策は困難になる・・・
・・・合併による解決の行き詰まりを背景に、日本で大都市制度の議論をするときは、現状の政令指定都市という規模感で議論されることが多い。しかし実は、政令指定都市は、国際的な都市間競争という文脈から見ると相当に小さい。
図はOECDが収集している加盟国の都市圏に関するデータから、面積と、都市圏を構成する自治体の数を対数軸でプロットしたものである。丸の大きさは人口規模を示している。
黒丸は日本の都市圏で、首都圏が人口3600万人、京阪神都市圏が1700万人、中京都市圏は860万人を擁する。含まれる自治体数は首都圏で189、京阪神で112、中京で82とされている。
三大都市圏は、日本の感覚から言えば1つの単位としては大きすぎると思われるかもしれない。確かに人口はOECD諸国の都市圏では大きい方だが、面積や構成自治体数がとくに際立っているわけではない。図の右上にある丸はいずれも面積が広くて構成自治体の数も多く、首都圏ほどでないにせよ人口も多い。
世界的な「都市間競争」では、このような規模感の都市圏が意識される。首都圏・京阪神は複数の政令指定都市を内包し、それらを個々の競争のための単位として考えるのは、グローバルな観点から見ると小さすぎる。大阪府を1つの都市圏としてみる大阪都構想は日本の感覚から見ると大きいが、世界的には必ずしも大きいとは言えない・・・
・・・大都市問題を考えるときに、政治的なコストがかかる目新しい制度改革に焦点が当てられることは多い。しかしそれだけではなく、なぜ日本で自治体間の連携が起きないかという、より根本的な問題に目を向けるべきだ。1つの自治体にとらわれない政党や公営事業の出現を促すような、基幹的な制度改革を検討する時期に来ている・・・