オバマ大統領の評価

10月29日の朝日新聞オピニオン欄、渡辺靖・慶応大学教授の「オバマとは何だったか」から。
・・・バラク・オバマ大統領に関して最も印象的なのは、強靱な理想主義者であると同時に、冷徹な現実主義者であるという点だ・・
・・・ もう一つ印象的なのは、新たな時代の変化に合致するよう、彼が米国の自画像(アイデンティティー)を刷新しようとした点だ。
まず国内的には、アフリカ系として初めて米国大統領に就任したこと、就任演説で無宗教者の尊厳を擁護したこと、米大統領として初めて同性婚支持を表明したことなどがある。白人やキリスト教徒の比率が低下し、人口構成や価値観が多様化する米社会を象徴するものだった。
また、格差拡大や中流層の没落、ジョージ・ブッシュ前大統領(共和党、01~09年)の政権末期に発生した金融危機(リーマン・ショック)など、「自由」の名の下に社会正義がむしばまれている状況を是正すべく、金融規制改革や医療保険制度改革(オバマケア)など、連邦政府による規制や関与を強化した。真の「自由」のためには、放任主義ではなく、政府の一定の介入が必要だとする米国流のリベラリズムの再生だ。米国では1980年代の「レーガン保守革命」以来、政府を自由への「手段」ではなく「障壁」と見なす政治文化が支配的となり、「リベラル」には負のイメージがつきまとうが、いわばその反転を試みたわけである。
しかし、その分、保守派からの反発はすさまじかった。「イスラム教徒」「米国生まれではない」「社会主義者」といった事実に反する中傷に加え、共和党との対立は激化した。今回の大統領選におけるドナルド・トランプ候補(共和党)の躍進の背景には明らかに「反オバマ」感情――そして、そのオバマを制御できない共和党指導層に対する憤り――が存在する。その意味では、オバマの最大のレガシーは共和党を分裂させた点にあるのかもしれない。
「リベラルでも保守でもない、一つの米国」という理念を掲げて歴史的就任を果たしたオバマのもと、19世紀半ばの南北戦争以来、最も政治対立が深刻な状態にあるのは皮肉としか言いようがない・・・

(外交について)
・・・しかし、こうした一連の姿勢には「謝罪外交」「弱腰外交」との批判も相次いだ・・・
・・・もっとも、そうしたオバマ外交への批判には、「世界の警察官」という往年の米国イメージにとらわれすぎているものも少なくない。「弱腰外交」と批判する側から説得力のある代替案が提示されているかというと心もとない。
さらに言えば、問題が起きるとすぐに米国の顔色をうかがう、米国の行動を頼りにする、逆に、すべての非と責任を米国になすりつける旧来の思考パターンから、日本を含め、各国もなかなか抜け出せないでいる。例えば中国の海洋進出や北朝鮮の核問題などは、米国なしに解決できないが、米国のみで解決できる問題ではない。
国内的・対外的なこうした自画像の刷新は、米社会とそれを取り巻く国際環境の変化を意識したものだろう・・・
一部を紹介したので、原文をお読みください。(2016年11月1日)