三位一体改革72

23日の日経新聞夕刊「ニュースの理由」では、谷隆徳編集委員が、地方6団体の交付税改革案を解説していました。交付税削減の声に対抗して、改革案を提示しているという点です。(5月23日)
(マスコミ)
昨日、朝日新聞社説「交付税改革、分権進めて『共有税』に」を紹介しました。今日、HPの読者から、お便りをいただきました。「昨日の朝日新聞社説は、地方寄りだけれど、制度の中身を理解したうえでの社説のように感じました。それに比べ、今日23日の読売新聞社説は、制度理解がないまま、財務省の話をそのまま載せたように感じます」。読者にこう読まれるようでは、Y社の社説も・・・。また、振り付けた××省も・・・ですね。新聞がどのようなもであるかといったことが、国民に理解されることは重要なことだと思います。そういえば、Y社は、一昨年昨年に、教育関係者による「国庫負担金がなければ教育が守れない」という趣旨の全面広告を載せた新聞でした。 (5月23日)
24日の読売新聞では、青山彰久記者が「地方が意見提出権行使へ。国の制度改革に参加」を書いておられました。提出権は、地方6団体が、地方自治に影響を及ぼす法律などについて、内閣や国会に意見を提出することができるというものです。12年前に一度使われ、それが前回の分権改革につながりました。(5月24日)
26日に竹中大臣の「地方分権21世紀ビジョン懇談会」が、最終報告書案をまとめたそうです。27日朝の日経新聞は、大きく伝えていました。ただし、日経新聞p3の解説では、交付税の総額は2006年度で14.6兆円、最も多い時期で17兆円余りと書いてあります。????。地方団体に配分される交付税総額は、2006年度は15.9兆円です。最も多かったのは、2000年度の21兆円です。たぶん、日経新聞の記事は、国の予算、しかも一般会計の歳出予算額ではないでしょうか。少なくとも、総務省詰めの記者、地方交付税を知っている記者が書いたようではないようです。あるいは、単純な間違いかもしれません。私が間違っていたら、ごめんなさい。地方財政関係者は、私が指摘なくてもおわかりでしょうが、念のため書いておきます。(5月27日)
28日の日経新聞社説は、「地方の自立につながる行財政改革を」でした。(5月28日)
(進まない改革)
31日の日経新聞地域面に、「知事会議、交付税に沸騰」が載っていました。30日に開かれた全国知事会議で、「知事らが政府主導で進む地方交付税改革論議に対する不満を相次いで表明した」とのことです。何人かの知事の発言内容も、紹介されていました。
(三位一体改革第2期はどうなった)
昨年までの3年間、知事会議は三位一体改革に期待をかけ、攻勢に出ていました。政府からの「補助金廃止案をまとめよ」との試験にも、答えました。それに比べると、今年は全く様変わりです。三位一体改革第2期の見通しも立ちません。なぜ、こうなったのでしょうか。
(地方の意向は)
また、地方交付税は、「地方団体固有の共通財源」とされています。交付税のあり方を議論する際に、地方の意向が反映されてしかるべきです。配分を受ける立場としても、地方団体の意向を聞くべきでしょう。さらに、国と地方は対等の立場になったのです。最近の議論の進み方は、この点から問題があるように思います。(5月31日)
2日の読売新聞「論点」は、麻生全国知事会長の「地方分権改革の行方、安定した交付税に再構築」でした。「地方分権改革はどこへいってしまうのか。政府の経済財政諮問会議で進んでいる『骨太の方針2006』の議論には危機感を抱く。基礎的財政収支を黒字化するための方策、財政の帳尻合わせの議論しか聞こえてこない。分権改革とは、無縁のものになっている」
諮問会議は、平成13年に国の財政再建の議論から始まりました。最初から、国の財政再建のために、公共事業・社会福祉とともに、地方財政・交付税が削減の対象になったのです。それを、補助金改革・税源移譲と「心中」させたのが、片山大臣の「三位一体改革」提案だったのです。この経緯は、「進む三位一体改革ーその評価と課題」をご覧ください。
諮問会議に分権を期待しても、無理があります。地方が圧力をかけない限り、国は動きません。先日も書きましたが、このままでは、三位一体改革は、2006年度は「一休み」になってしまいます。(6月2日)
4日の産経新聞「紙面批評」では、五十嵐敬喜さんが「自治体の多様な事情に視点を」として、「骨太の方針2006」に向けての交付税圧縮議論についての各紙の主張を批評していました。「産経や読売が強調するように、職員厚遇や無駄な公共事業など地方が抱える問題も少なくないが、地方交付税の削減で国が財政再建を果たしたとしても、その結果税収が少ない自治体と財政力のある自治体の格差が広がるのであれば社会は、むしろ不安定になる。地方経費の膨張の背景に、地方団体が国の政策の実行機関として位置づけられてきた構造的な要因があることを踏まえると、国の関与を減らす仕組みづくりが税財政改革の重要な視点だ」
「地方の歳出削減への取り組みぶりに加え、『貧しい地方』が全国水準の行政サービスを維持できなくなっている事例はないのかという点にも留意して改革の現場に関する記事をさらに充実させてほしい」(6月5日)
読売新聞7日夕刊は、次のように伝えています。
「地方6団体代表は7日昼、総務省で竹中総務相と会い、『国と地方の協議の場』の法定化などを求めた『地方分権の推進に関する意見書』を提出した。同日午後、河野衆院議長と扇参院議長にも提出する。内閣と国会に対する意見提出を認めた地方自治法の規定に基づくもので、地方6団体がこの意見提出権を行使したのは、12年ぶり2度目」
この4年間、このような意見書を出さなかったのに、三位一体改革は進みました。なぜ、今、このような行動になるのか。今執筆中の「続・進む三位一体改革」続編(月刊「地方財務」6月末発行号に載る予定)では、なぜ改革は進んだか、なぜ進まないかを解説する予定です。(6月7日)
8日の読売新聞は「分権改革停滞に危機感。地方6団体、12年ぶりに意見書」を大きく伝えていました。「分権改革では、昨年まで政府と地方6団体が進めてきた三位一体改革の後の道筋が定まっていない。一方で、政府・与党が進める歳出・歳入一体改革では、地方財政の歳出削減が大きな焦点となり、国税の一部を地方交付税として地方に配分する割合である『法定率』の引き下げも取りざたされている。地方には『分権改革は置き去りにし、歳出削減を押しつけようとしている』という反発が強い」「6団体は7日、以前から求めていた政府の経済財政諮問会議への出席をようやく実現させた」「日ごろは足並みをそろえる地方6団体と総務省の呼吸も、最近は微妙にズレている」(6月8日)
経済財政諮問会議での地方6団体の主張は、次の通りです。
1 “国から地方へ”の改革に終わりはなく、平成19年度以降もさらなる地方分権改革を行う必要がある。地方六団体は、分権型社会のビジョンとして7つの提言をまとめ、地方自治法に基づき、内閣と国会に対し意見書として提出した。以下のような改革を、パッケージとして実施すべきである。
・「新地方分権推進法」を制定すること
・「国と地方の協議の場」の法定化し、「地方行財政会議」を設置すること
・地方が担う事務と責任に見合う国と地方の税源配分とし、地方税の充実強化により地方の自立を図ること
・ 地方交付税が、地方の固有財源であることを明確にするため「地方共有税」とすること
・地方の改革案を実現し、国庫補助負担金の総件数を半減(一般財源化)すること
2 地方の歳出の大半は、国が法令等によりその実施を義務付けたり、配置基準を設定しているもの、あるいは国庫補助負担金に伴い支出するものである。さらなる歳出削減を進める場合は、国による関与、義務付けの廃止・縮小、国庫補助負担金の廃止、国と地方の二重行政の排除などを推進し、国・地方が一体となって削減努力を行っていくべきである。
3 公営企業金融公庫改革について
公営企業金融公庫の廃止後については“国から地方へ”の流れに沿って、地方自らが主体となる全国ベースの共同法人を設立し、個々の地方団体の資金調達の補完を自律的に行っていきたい。
4 “骨太の方針”の取りまとめに際しては、以上のような地方財政の自立に繋がる改革を盛り込むべきである。平成19年度以降の地方分権改革を進めるため「国と地方の協議の場」を早期に再開することを求める。
(6月9日)
地方6団体から、自治法に基づく国への意見書の提出、経済財政諮問会議への出席と、国と地方の関係を変える動きが続いています。これに関連して、地方自治法の改正を紹介しておきます。
先日成立した地方自治法改正には、国から地方6団体への報提供制度が創設されました。すなわち、国が新たに地方団体に事務や負担を義務づける施策を立案する際には、事前に地方六団体に内容を知らせなければならないことになったのです。これまでも、各省は総務省に協議しなければなりませんでした。また、地方団体には、各省から事前にお知らせすることはありましたが、今回はそれが義務づけられたのです。施行はまだですが、これも一つの前進でしょう。(6月10日)