年別アーカイブ:2026年

時間がどんどん過ぎていく

2026年1月10日   岡本全勝

2025年12月27日の朝日新聞オピニオン欄「時間がどんどん過ぎていく」一川誠・千葉大教授の「小さな変化で特別な日に」から。

・・・友人との楽しい時間はあっという間なのに、退屈な会議はなかなか終わらないと思ったことはありませんか。同じ1時間でも、短く感じたり、長く感じたりすることがあります。これまでの研究で、感じる時間の長さに影響を与える要因は複数分かっています。
例えば、その一つが「身体の代謝」です。代謝が激しいと時間がゆっくり進むように感じ、反対に代謝が落ちると時間が速く進むような感覚になります。
また、同じ時間の長さでも、体験するイベントの数や、時間経過に注意を向ける頻度、感情の状態などによっても時間の感じ方は変わってきます。

技術革新によって現代人の生活はより便利で、効率的になりました。やろうと思えばできることは増え、1日24時間、1年365日という枠組みは同じなのに、タイパを高めて予定を詰め込んでいる人もいるでしょう。
しかし、予定を詰め込み過ぎると、満足感はむしろ下がってしまいます。満足感は記憶されているエピソードの数と正比例するとされ、タスクをこなすだけでは、エピソードが記憶に残らず、特別なことをした感覚も残らないからです・・・

忙しすぎると、満足感が下がることは、納得します。豊かで便利になって、選択肢が増え、より忙しくなったと感じることも、同感です。
私が思うに、時間が早く経つのは、次の2つの要素が大きいと思います。
・多くの情報が入ってくるから、処理しきれない。
・そして、身の回りのことを、自分が制御できない。
この項続く

福祉サービスの地理学2

2026年1月9日   岡本全勝

福祉サービスの地理学」の続きです。久木元美琴執筆「福祉サービスの地理学の視点からみる行政領域」月刊「地方自治」2025年12月号には、次のような説明もあります。9ページ。一部省略してあります。そのほかにも、勉強になることが書かれています。詳しくは、原文をお読みください。

・・・福祉の地理学は、福祉国家の成立と変動に影響されながら発展した。19世紀末から第二次世界大戦後の経済成長期における先進資本主義国家で社会保障を中心とした福祉国家の広がりと、1970年代の石油危機以降の経済成長の鈍化と脱工業化・グローバル化の進展による既成福祉国家は転換のなかで、市場メカニズム・競争原理の導入、民間活用などが進められるようになった。こうした流れの典型的な事例として、1980年代のイギリスのサッチャー政権下における規制緩和や国営企業の民営化といった新保守主義的な経済政策の進展がある。しかし、こうした政策は、格差の拡大や教育・福祉の後退、失業率上昇などの社会的な摩擦・混乱を招き、1990年代後半には、ボランタリー部門を活用し、効率性と公平性の両立を目指す「第三の道」が登場した。

こうしたなか、福祉の地理学は、福祉国家の変容と再編の下で生じる地域における福祉供給へのインパクトや需給の地域間格差といった問題に注目する。福祉国家が前提とする「大きな政府」が相対的にその役割を小さくするならば、地方政府の財政的な基盤やそれぞれの地域で活用できる主体や資源が地域の福祉供給のあり方に影響を及ぼす。サッチャリズムに代表される新自由主義によって生じた「福祉切り捨て」(福祉支出の削減)と、それにともなう施設の地域的偏在や地域間格差の実態が、英語圏の地理学で指摘された・・・

続いて、次のような記述があります。
・・・日本は1970年代以降の脱工業化の時期に「福祉元年」を宣言したが、低成長への転換のなかで、大企業の福利厚生と家族賃金、地方の公共事業と保護・規制政策、家族主義が三位一体となった「疑似福祉システム」を福祉国家に代替させ、社会保障制度は「家族」「会社」「地域社会」によって制度化されてきた。こうした家族中心的福祉レジームに前提されたのは、女性の家庭内・地域内における無償労働であった。1980年代以降、脱工業化のさらなる進展とそれにともなう女性の就労増によって、福祉供給における家族領域は縮小した。また、国家領域においても、経済成長の鈍化による財政難と、公的福祉サービスのインフレキシビリティとパターナリズムは、福祉ニーズの多様化に対応できなくなっていた。こうした趨勢のもとで、日本でも1990年代から福祉サービスを対象とした地理学的研究が蓄積されるようになった・・・

嘘をつく人工知能

2026年1月9日   岡本全勝

2025年12月29日の日経新聞オピニオン欄に、ピリタ・クラークさんの「AI過信の失敗リストに学ぶ」が載っていました。大きな事件を列挙しています。
・イギリスの公共放送BBCが、スペインの有名なテニスのナダル選手が「ブラジル人になった」「同性愛者であることを明かした」と伝えた。この嘘のニュースは、アップル社のAI機能が作成しました。
・アメリカの新聞紙、シカゴ・サン・タイムズが、存在しない書籍を含む推薦読書リストを提供した。記者がAIを使って書きました。
・オーストラリアでは、殺人事件の裁判で、ベテラン弁護士が提出した文書に、架空の引用と存在しない判例が含まれていました。AIの助けを得て作成しました。
・国際的コンサルティング大手のデロイトが、オーストラリア政府から受託した報告書が間違いだらけで、代金を一部返済しました。

まあ、立派な嘘をつくものですねえ。「機械は間違えない」という観念が揺らぎます。人工知能が嘘をつくことは、このホームページでも紹介してきました。
それに関連して、私の経験を思い出します。県の税務課長をしていたとき、電算機で作成した課税通知が間違っていて、記者に厳しく追及を受けました。その際に「ミスは人為的なものか、機械によるものか」という質問がありました。担当者に聞くと「機械は間違えません」ときっぱりと言われました。潔いことは良いのですが、それだと職員が間違ったと「自白」したようなものでした。記者たちも、即座に納得してくれましたが。

間違えること、これまでにないことを思いつくのが人間です。すると、人工知能はそれほど人間に近づいたということでしょう。取り上げられている事案について、どのような「意図」や「経緯」で人工知能が間違えたかを知りたいです。

連載「公共を創る」第245回

2026年1月8日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第245回「政府の役割の再定義ー地域の活力低下と地方創生」が発行されました。これからの地方自治体は、役所の経営だけでなく地域の経営を考えなければならないことを議論しています。新自由主義的改革思想の下で、行政改革に力を入れている一方で、我が国の地域社会は大きく変わり、課題も変化していました。

少子化が進んで人口減少が問題になり、各地域では程度の差はあれ人口減少と地域の活力低下に悩んでいます。日本全体での人口減少への対処は政府が取り組むべき重要課題ですが、住民の暮らしやすさの維持と、若者の定住と呼び込みは地方自治体の責務です。
地域の人口減少と活力低下は、近年に起こった問題ではありません。戦後の地方での人口減少は、2期に分けて考えると良いと思います。一つは経済成長期の山間・僻地での過疎現象で、もう一つは1980年代後半以降の農村部や地方都市での産業空洞化です。

過疎地域の人口減少は、産業構造の大転換にともなう国内での人口移動の一環でした。そして、山間・僻地での過疎化とともに、農村部から都市部への大きな人口移動も起きました。「長い弥生時代」が終わったのです。
1980年代後半から、条件不利地域だけでなく、全国の農村部や地方都市でも、地域活力の低下が目立つようになりました。日本が豊かになると賃金が高くなり、安い労働力を求めて工場の海外への移転が相次ぎます。1985年のプラザ合意以降の円高もそれを加速し、「産業空洞化」と呼ばれる現象を起こしました。さらに、アジア各国が工業化に進むと、日本の競争相手となり、電気製品を中心に日本の製造業は競争力を失っていきました。この空洞化の現場が地方だったのです。経済成長期に、日本は競争によって欧米の幾つもの製造業を廃業に追いやったのですが、今度は逆の立場になりました。
経済成長期の山間・僻地での過疎現象は、日本が豊かになる過程での代償であり、産業空洞化による地方の活力低下は、日本が豊かになったことの結果でもありました。その点では、抗し難い「時代の流れ」の面もあります。

第2次安倍晋三政権が、2014年から「地方創生」に取り組みました。東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的としています。そこで取られた、地方自治体が独自に考える活性化策を国が応援する手法は、地方創生が初めてではありません。その嚆矢が、竹下登内閣での「ふるさと創生事業」です。

正規・非正規の待遇格差、是正は道半ば

2026年1月8日   岡本全勝

2025年12月2日の日経新聞経済教室、水町勇一郎・早稲田大学教授の「正規・非正規の待遇格差、是正は道半ば」から。

・・・雇用形態による不合理な待遇差を禁止し、非正規という言葉をこの国から一掃してまいります」――。2018年の通常国会冒頭の施政方針演説で、安倍晋三首相(当時)はこう述べた。時間外労働の上限規制と並び、正規・非正規労働者間の不合理な待遇格差の禁止(いわゆる「同一労働同一賃金の原則」)を定めた働き方改革関連法は、同年6月に成立した。
同一労働同一賃金に関する部分は20年4月(中小企業は21年4月)に施行された。現在、施行5年後の見直しが検討されている。

改革の目的は、日本的雇用システムがもたらした弊害の解消にあった。正社員を中心とした日本の雇用慣行は、正社員の過重労働と非正社員の低処遇・不安定雇用を深刻化させた。
1990年代後半以降のグローバル競争は、低賃金で雇用調整が容易な非正社員を増加させ、日本全体の実質賃金の停滞や労働生産性の相対的低下につながった。また人口減少・人手不足のなか、多様で魅力的な働き方を広げ人々の能力をフル活用することも重要な課題となっている。改革には社会的不公正の是正とともに、日本の労働生産性や成長力の回復という経済政策としての側面もあった。

働き方改革関連法による同一労働同一賃金の改革によって、実務には一定の変化がみられた。短時間・有期労働者については、通勤手当、法定外休暇、慶弔休暇、賞与等の諸手当・福利厚生の面で待遇改善が進んだ(労働政策研究・研修機構「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査〈企業調査〉」2023年)。
基本給も格差は縮小傾向にある。非正社員の所定内給与額平均は、正社員比で19年の64.7%から22年には67.5%に上昇した。ただ23年以降は正社員給与の増加幅が大きく、24年は66.9%と低下した(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。
もっとも住宅手当、家族手当、退職金など改善が不十分なものもあり、基本給格差もなお小さくない。
派遣労働者については、かつて低待遇であった事務系派遣、製造業派遣も含め賃金は上昇傾向にある。一般労働者と比較しても高水準で推移している(厚労省「労働者派遣事業報告〈年度報告〉」等)。
以上のように待遇改善は一定程度進んでいるが、それが改革の効果なのか、人手不足や最低賃金引き上げの効果なのか明らかでない部分もある。また改革の趣旨に対する理解が十分に及んでいない点もあり、改革はなお道半ばといえる・・・

・・・正規・非正規の壁をなくし、潜在的な労働力も含めた働き手全体の活躍を促していくためには、日本的な正社員制度そのものを見直すことも重要である。
人口減少とデジタル化が進むなかで、日本企業でも正社員制度を、多様で本人の主体性を重視するものに変えていこうとする動きが広がっている。生活関連手当を縮小・廃止して職務価値や生産性を重視する基本給制度への移行、同意のない転勤制度を縮小・廃止して職種や勤務地を本人が希望・選択できる制度への移行、企業主導の人材育成から本人の意思に基づく自律的キャリア形成への移行、週休3日やフルフレックス制といった柔軟な働き方を実現する動きなどである。
この動きは、拘束度や負担の重さの違いといった、旧来の「正規・非正規の壁」の前提を消失させていくものといえる。正社員と非正社員の区別を相対化し、多様な人びとを包摂できる公正な人事制度や人材活用制度を作り上げていくことが、改革の目的達成に向けた最も有効な道である・・・