9月11日の朝日新聞オピニオン欄「東京のカタチ2025」、地理学者のラファエル・ランギヨン=オセルさんによる「再開発で維持する競争力」から。
労働者の中で正規雇用と非正規雇用の格差が進むとともに、地域間では東京とその他の地域の格差が広がったのです。
・・・私はフランス南西部の田園地帯の出身です。そのためか大都市にひかれるのですが、東京は魅力的で成熟したグローバル都市です。
都市研究の専門家として、丸の内、六本木、日本橋、渋谷などの再開発プロジェクトや昭和からの商店街の関係者に聞き取りを行い、東京の再開発について博士論文を執筆しました・・・
・・・バブル崩壊後、日本経済は低迷が続きましたが、東京はバブル崩壊前より競争力のある都市となっています。なぜ、何十年も経済が停滞しているのに、東京はめざましい再開発が進んでいるのでしょう。それには政治・経済の世界的、歴史的な流れが大きく影響していると思います。
バブル経済期には地価が上がり、都市圏が拡大しました。1991年にバブルが崩壊し、「失われた10年」が来ました。この時期が東京が大きく発展する準備期間でした。金融再編が起こり、地価が下がって土地の集約が進みました。さらに2002年の「都市再生特別措置法」といった立法措置によって、高層化を伴う都市再生が可能になりました。
1991年は日本でバブルが崩壊しただけでなく、ソ連が崩壊した年です。戦後、日本は冷戦構造の恩恵を受けて発展しました。しかし冷戦が終わり、前後して急激な円高のため輸出産業の競争力が失われます。
日本は資本の投下先を、生産部門から空間の整備、それも東京という都市の再開発へと大きく転換しました。いわば産業の空洞化を国レベルで進め、東京の再開発に集中的に投資することを選択したのです。
90年代から、東京はニューヨーク、ロンドンと並ぶグローバル都市とみなされてきました。今は同じアジアのソウルや台北、香港、シンガポールや中国の大都市とも競争しています。東京のどの再開発プロジェクトも、競争力を維持するために、細心の注意を払って計画されています。
東京は国際的な地位を保ってはいますが、日本全体としては問題もあると思っています。東京だけが発展し、ほかの都市や地方とのバランスを欠いていることです。バブル崩壊後の政策が背景にありますが、この偏りを是正することは、人口減少や少子化とも関わる大きな課題でしょう・・・