7月1日の朝日新聞オピニオン欄「荒れる選挙」、小林哲郎・早稲田大学政治経済学術院教授の「「逆張りエンタメ」に需要」から。
・・・ 日本人は中国やロシアのような権威主義国家の非自由主義的なナラティブ(正当性を主張する物語)に影響されやすい。そんな傾向が18~79歳の3270人を対象とするオンライン調査実験で浮かびました。他の研究者と共同で3月に論文を発表しました。
例えばロシアのウクライナ侵攻に関する設問では、「一方的な侵略であり重大な国際法違反だ」という自由主義陣営の「物語」よりも、「NATO(北大西洋条約機構)が中立の約束を破りウクライナへの影響力を拡大したのが原因」というロシアに都合の良い「物語」の方が、説得効果が高いという結果が出ました。
その理由は逆張りの目新しさにある、と考えています。つまり、社会の主流の価値観と異なる物語は新鮮で面白く感じられ、関心を引くということです。
だとすれば、選挙でも陰謀論などを唱える候補者が説得力を持ってしまう可能性は十分にあるでしょう。
ネット配信のドラマは非常に展開が速く、どんでん返しをたくさん入れて視聴者の関心を引きつけます。国内選挙の実証研究はこれからで、あくまで仮説に過ぎませんが、政治も最近エンターテインメントとして消費されている側面があり、ドラマのような展開を求める需要があるのではないかとみています・・・
・・・民主主義はまず法律があり、それに照らして理非が判断される演繹(えんえき)的なシステム。予想外の結論は出にくいです。「既得権益への挑戦」という物語に対抗すれば、既得権益側の物語とみなされる。情報を読み解く力を高めるといった個人の努力を求めてもなかなか響かないでしょう。「面白くない」ものに関心を持ってもらうのは難しい。民主主義はソーシャルメディア時代には不利なのです・・・