日経新聞「私の履歴書」、尾身茂さんの第3回(3月3日)「専門家」から。
・・・専門家会議による独自見解をまとめた2020年2月23日以降、私たちは政府が開く公式の会議とは別に、非公式である「勉強会」を、手弁当で集まって開催してきた。平日の夜や日曜の午後、多いときは週3回開いた。
パンデミック(世界的大流行)における感染症対策とは、複雑な方程式を解くようなものである。しかも正解を導けるかどうかわからない。
ウイルスや感染状況は時々刻々と変化する。検査も医療提供体制も無尽蔵というわけではない。なにより人々の協力を得られなければどうしようもない。
専門家といえども誰一人、新型コロナ対策に関する全てのテーマを熟知している完璧な人などいない。
専門家会議12人のメンバーに加え、必要に応じて様々な分野の専門家を誘い議論に加わってもらった。
ウイルス学や免疫学、感染症学に公衆衛生学、さらには医療社会学等々。みなその道のプロで一家言ある。対策の方向性をめぐって意見が真っ向から対立することがしばしばあった・・・
・・・2月27日、政府は全国の小中高校に対し一斉臨時休校を要請した。私たち専門家にとって寝耳に水で事前の相談もなく、報道によって知らされたほどだ。あまりにも唐突だった。
確かに09年の新型インフルエンザの流行では小中学生が感染の中心で、臨時休校には一定の効果があった。
しかし新型コロナの状況はまったく違う。むしろ一斉休校は社会に対するマイナスの影響が大きすぎると考えていた。
政府が示した基本的対処方針案には「文部科学省は専門家の判断を踏まえ(中略)学校の一斉休業をする」との文言があった。
突如決まった一斉休校に私たちは反論した。結局、「案」のとれた基本的対処方針からは「専門家の判断を踏まえ」の10文字は削除された。
その後も政府から「専門家」が都合よく利用されそうになることが度々あった・・・