もう11月

11月になりました。
壁に掛けてある、きれいな写真を使ったカレンダー。下部に2月分が表示されています。それが、あと1枚になりました。時間がたつのは、早いですね。
東京は、さすがの猛暑も終わり、秋らしい日と初冬のような日が続くようになりました。秋が短くなったことと、寒暖の差は、困ったものです。
玄関のプランターのアサガオは、まだ小さな花を咲かせています。もう少し、抜くのを待ちましょう。

年賀状の準備も、しなければなりません。
とはいえ、毎日の仕事は変わらず、原稿の締め切りも同じようにやってきます。今月は、講演のお呼びも多くて・・・。

尊厳を保てる処遇に

10月12日の朝日新聞オピニオン欄、小熊英二・慶応大学教授の「良き統治のために」から。

・・・よい統治とは何か。それは当該社会の構成員が幸福を追求する条件を整えることだ。
では幸福とは何か。古代ギリシャ哲学では、人間の幸福は「善くあること」だと考えられていた。各自に役割があり、人として認められ、健康に日々の仕事をしている状態だ。現代日本語なら「みんなに居場所がある」「誰もが一人前と認められる」「各人の尊厳が保たれている」にあたるだろう。
こうした幸福は英語では「ウェルビーイング」と訳される。「善く(well)ある(being)」という意味だ。それは「楽しい」「おいしい」などの瞬間的な喜びを指す「ハッピネス」と区別される。
よき統治(グッドガバナンス)とは構成員がこうした意味での幸福を追求する条件を整えることである。企業組織なら「よき統治」は、構成員がそれぞれ適切な役割を果たせるように組織を運営することだ。国の場合はさまざまな政策、たとえば雇用や教育機会の確保、個々人が尊厳を維持するに足る生活保障、経済活動や言論の自由、差別や独占を禁ずるルール設定などが具体的方法になる。
では現代日本で「よき統治」を実現するために解決すべき課題は何か。私見を述べてみたい。

・・・欧米では失業問題の解決を、誰もが役割のある社会を実現する重要課題とみなすことが多い。望んでも職がない社会は、誰もが役割のある社会とは言えないからだ。
だが日本では、失業がそうした問題として論じられることは少ない。なぜなら日本では、低賃金の非正規雇用なら職はあるからだ。だが日本は欧米諸国より正規と非正規の差が激しいので、それでは生活ができず「一人前」と認められない。これは単に所得の問題だけではなく、人間の尊厳が保てないという問題でもある。
これは女性の地位にも関わる。日本女性の労働参加率は、実はアメリカやフランスより高い。だが働く女性の半数以上は非正規である。しかも正規で働く女性は20代後半をピークに直線的に減少し、代わりに非正規が年齢とともに増える。つまり出産などで退職すると非正規の職しかない傾向がある。一定年齢以上で正規雇用の女性が少ないので、管理職に占める女性の比率も低い・・・

・・・正規雇用は減っていないが、これは昔も今も全就業者(自営業部門含む)の半数強にすぎない。残り約45%は自営業と非正規で、そのなかで自営業が減少し非正規が増えた。また正規でも中小企業なら必ずしも賃金は高くない。
そしていまの非正規労働者や中小企業労働者は、自営開業するために腕を磨く仕事をしているとは言いがたい人も多い。開業しても自営業そのものが危機的である。その状態で低賃金なら、人間として「善くある」という実感を持つのは困難だ。それが就業者の半数近い社会は「よき統治」が実現しているとはいえない。
こうした状態は、生まれる子供の半数近くが、将来は尊厳を維持できそうもない社会であることを意味する。少子化も当然だろう・・・
・・・また日本型の正規雇用は半ば必然的に雇用調整の可能な非正規労働者を必要とする。そのため正規雇用の増加は重要な措置ではあっても、全体をカバーするのは難しい。もちろん、人種や民族の誇りという形で尊厳を回復しようとするのは、一時の気休めにしかならず論外の選択である。
そうなると当面は非正規雇用の待遇改善が重要な選択肢である。その方法については専門家の意見も分かれており、私には回答は出せない。ここでは議論の喚起のため、私見を述べるにとどめたい。
まず最低賃金の引き上げは必須だと思う。これには中小企業主の反対もあるが、私の意見では、生きていけない賃金で人を雇うのは尊厳と人権の侵害である。個別には家計補助のために低賃金で働きたい人は現在もいるが、そうした世帯条件を前提にした賃金を公的な基準とするべきではない・・・

石巻市の災害遺構

先日、東松島市で講演をした際に時間があったので、石巻市の災害遺構を見てきました。
石巻南浜津波復興祈念公園は、国が3県に作った祈念公園の一つです。周辺を含め、国と県と市が分担して、整備し管理しています。「みやぎ東日本大震災津波伝承館」「石巻南浜津波復興祈念公園
私は構想過程から見ていて、中心施設もできたときに見ています。今回も、見てきました。見学者も多いようです。

石巻市震災遺構門脇小学校」に入るのは、今回が初めてです。津波に襲われ、火災が発生した生々しい状態が残されています。また、学校に避難した人たちが、機転を利かせて裏山に避難した状況もわかります。

当時を知らない人には、良い勉強の場となっています。
街は見事に復興し、歩いているだけでは、あの被害がわかりません。石巻市の中心から近くにあります。石巻に行かれたら、ぜひ立ち寄ってください。

文化財買い上げ予算額が3割に削減

10月8日の日経新聞に「日本の美術品どう守る? 「財産」流出で国も買い上げ」が載っていました。

・・・芸術の秋、各地のミュージアムで貴重な文化財を目にする機会もあるだろう。現在、国宝に指定された美術工芸品は912件、重要文化財(重文)は1万910件。「国民の財産」を守るため所有者にはさまざまな義務が課せられる一方、海外流出や所在不明の危険にもさらされている。
「受け継ぐ人がいない」「経営が悪化した」。国宝・重文等の買い上げ事業を担当する文化庁文化財第一課に近年こうした相談が舞い込む。文化財を所有する個人や法人が高齢化や財政難で管理・保有できなくなっているためだ・・・

詳しくは記事を読んでいただくとして。記事と図に、文化庁の国宝や重要文化財買い上げ予算額が載っています。
2000年に34億円だったものが、2024年には10億円になっています。1割削減とかでなく、7割減です。こんなものも、予算を大幅に削減していたのですね。日本(政府)は、財布も心も貧乏になっています。

「病院の経営を考える会」に出演

今日11月1日は、品川で開かれた「病院の経営を考える会」に出演しました。「災害からの復興と創造」の題で、講演と討論です。神野正博先生(社会医療法人財団董仙会理事長)、植田信策先生(石巻赤十字病院副院長)とご一緒しました。

この会は名前の通り、病院関係者を対象に経営を考えるものです。今回の主題が、能登半島地震での医療の役割と復興でした。私の話が通じるのかと思いましたが、主催者から「広い視野から話してください」とのことなので、引き受けました。

100人を超える医療関係者が、聞いてくださいました。人口減少、そして災害、そこでの病院の役割と復旧は、皆さん切実な話題だったようです。地域の人口が減り、患者が減る見通しで、病院経営をどうするかです。鋭い質問も出ました。