役職定年の課題

7月15日の朝日新聞「50代の壁「役職定年」廃止じわり 中高年のモチベーション低下・人材不足が問題に」から。
・・・50代以降、一定の年齢で管理職から自動的に外す「役職定年制」。肩書は外れ、給与が激減するため、中高年にとって働くモチベーションが下がる要因の一つとされました。ところが近年、役職定年を廃止する動きが相次いでいます。どんな背景があるのでしょうか・・・

・・・約1万6千人の従業員を抱える大和ハウスが役職定年を廃止したのは2022年4月。人事部長の河崎紀成(としなり)さん(49)によると、60歳以上の社員50人前後を元の管理職に戻したり、継続させたりした。給与カットもなくし、同じ役職なら60歳までと同じ水準で支払うようにした。
その結果、人件費は十数億円規模で膨張したという。それでも踏み切った理由は、技術者などの人手不足と、役職定年によるシニア社員の「モチベーションの低下」、それによって職場の雰囲気が悪くなり、戦力になる人材が流出したことなどだ。
「人材の流出が減り、現場のモチベーションは上がった」と河崎部長。ただ、技術職を中心に人がまだまだ足りないといい、65歳以上の技術職を中心に再雇用も積極的にすすめるという。
役職定年を廃止すれば、人事が硬直化し、ポストが若手に回らなくなると不満はないのか。
同社の部長級の平均年齢は55歳前後。役職定年の廃止は無条件にポストを約束するものではなく、人事は適宜おこなう方針だとする。「評価はシビアで、成果が出せなければ、役職定年前でも部長は交代となる」と話す社員もいる。

空調大手ダイキン工業(本社・大阪)も今年4月から役職定年を廃止した。
定年を60歳から65歳に引き上げ、これまで56歳としていた管理職の役職定年を廃止。59歳以下に適用していた資格等級、評価、賃金制度を、定年の65歳まで継続して運用する制度に変えた。
「これまで56歳以降になると、給与が減り、部長などの役職名も『参与』などに変わっていた」とダイキンの人事本部ダイバーシティー推進グループ長の今西亜裕美さん(49)は説明する。
同社社員は56歳以上の割合は20%強(23年度末時点)。「ベテランの力で仕事を支えていたので、年齢で区切るのはやめようとなった」という。60歳以降も能力や成果に応じて昇格や昇級も可能になった。

年齢による労務管理自体を見直す動きも。電機大手NEC(本社・東京)は21年4月、56歳に設定していた役職定年を廃止。約千人を管理職に復帰させた。さらにこの4月には、これまで管理職以上が対象だった「ジョブ型人材マネジメント」の対象を全社員に広げた。
ジョブ型人材マネジメントとは、年齢や経験年数ではなく、職務に対して専門知識をもつ人材などを管理職に配置し、担当職務によって報酬を決めるというシステムだ。

日本企業が役職定年制を採用するようになったのは1980年代後半ごろだ。年功序列型の人事で世代交代が滞り、役職に伴う人件費の増大などが問題視されていた。強制的に世代交代を進め、新陳代謝を図るための解決策として導入された。
パーソル総合研究所は22年、役職定年制の導入の有無などについて大手企業(32社)にヒアリング調査を行った。それによると、「制度あり」は31%、「(1~2年前に)新設」が13%、「制度を廃止」が16%、「廃止予定」が13%、「制度なし」が28%だった・・・

・・・大手企業32社の人事責任者らに、役職定年などのヒアリング調査をしたパーソル総合研究所の上席主任研究員、藤井薫さん(64)に現状を聞きました。
――企業が「廃止」「廃止予定」とした主な理由は?
役職定年となり、仕事に対するモチベーションが下がり、「働かない妖精さん」などと揶揄される50代を減らすことも理由の一つです。最近は管理職になりたがらない若手も多く、現場を仕切る「課長不足」に悩む企業が少なくありません。「バブル採用組」がもうすぐ大量定年となるので、管理職を中心に人材不足が深刻になるでしょう。

――役職定年が廃止されると人事が硬直化するリスクが生じるのでは?
組織の新陳代謝の障害になる恐れはあります。しかし、これからはゼネラリスト型の管理職より、スペシャリスト型の方が需要が高くなるのではないでしょうか。人事の硬直や専門性の陳腐化を防ぐため、役職定年のように年齢で区切るのでなく、若手も含めて2~3年の役職任期制度を設けるという手もあります・・・