11月30日の日経新聞夕刊「私のリーダー論」は、川上康・琉球銀行頭取の「役員も大部屋で、決定を迅速に」でした。
――琉球銀行には役員室がないそうですね。
「10年ほど前から頭取以下5人の役員が大部屋で一緒に仕事をしています。前任の頭取が始めましたが、実は20年ほど前、企画課長だった私が提案しました」
「役員ひとりひとりの部屋を回って説明するのは時間の無駄です。個室という密室にこもっていると考える方向性が少しずつずれてしまうと感じていました。目標に向けた価値観や情報の共有が重要なのに、部屋という壁があるとそれができない。提案は長く塩漬けになっていて、導入直後は反発もあったようですが、始めてみるとこれはいいということになりました」
――その効果は。
「意思決定の迅速化です。新型コロナウイルス禍になる前の18年秋の融資方針の転換がいい例でした。当時の県内は大変な好況でした。沖縄に観光客が押し寄せ、住宅建築着工数も伸びていました」「一方でオーバーツーリズムが大きな問題になりつつありました。建築費が上昇しアパート運営も利益が出にくくなっていたし、ホテルは供給過剰が懸念されていました。そして18年7月の観光客数が約6年ぶりに前年同月を下回ったと県が発表しました」
「ちょっと集まってくれ、と目の前に座る役員に声をかけました。景気の変わり目だと思うが、皆さんはどう思うかと尋ねると、彼らもそんな気がしていたという。ならば融資の審査基準を上げようと、その場で意思統一。役員は審査や営業など担当部門に散って融資基準を練り直しました。20年度からの中期経営計画は、不景気を前提に計画を作ることができました」
――そうした環境を作るうえで何が大切ですか。
「強固なチームワークを築き担当役員に仕事を任せることです。一番まずいのが権力の集中。自分の思い通りにできるかもしれませんが個人のリソースは限られます。何でも自分で決めようとすると判断速度が落ち、マーケットにおいてけぼりにされてしまいます。さらに部長や課長は、担当役員を軽視するようになるでしょう」
「担当役員が時間をかけて検討する方がいい結果になる。多少の齟齬は生まれますが、そこは互いが話し合えばいい。その意味でも大部屋は役立ちます」