9月15日の朝日新聞オピニオン欄、山口真一・准教授の「歪む「ネット世論」 一部の声が強調されるリスク、メディアは認識を」が参考になります。
・・・インターネットの普及は、社会における情報のアクセス方法やコミュニケーションの方法を劇的に変化させた。人々はSNSなどのプラットフォームで意見や情報を自由に共有し、瞬時に大勢の人々に情報を届けることができるようになり、人類総メディア時代が到来した。
それに伴い、「ネット世論」という言葉をよく耳にするようになった。インターネット上では多様な人が様々な意見を言っており、政治的運動もしばしば起こっている。マスメディアもそのようなインターネットを人々の意見の場として取り上げ、報道することが少なくない。
しかし、実はインターネット上の意見分布が大きく歪(ゆが)んでいることが、筆者の実証研究で明らかになっている。それを世論としてマスメディアが報じたり、政府・政治家・企業・個人もそう捉えたりすることで、大きな問題が引き起こされていることを筆者は危惧している。
なぜインターネット上の意見分布は歪むのか。それは、インターネット上の意見には能動的な情報発信しかないためである。つまり、言いたいことのある人だけが言い続ける言論空間だ。その結果、極端な意見や強い信念を持った人々が大量に発信することが容易になっている。これは、通常行われるような世論調査が、聞かれたから答えるという受動的な発信であるのと逆である・・・
・・・昨今、マスメディアは情報の取得源としてインターネットを頼りにしている。しかし残念なことに、その際にこのバイアスを見落とすことが多い。特に、SNS上でのトレンドやバズといった情報は、多くの人々の意見を反映しているように見えるが、実際には一部のノイジーマイノリティーの意見が目立っていることも少なくない。その結果、サイレントマジョリティー、すなわち静かに意見を持っているがそれを公然と表現しない大多数の声が、マスメディアに拾われない。
この現象がもたらす社会的な影響は大きい。ノイジーマイノリティーの声が過度に強調されることで、社会の中での意見や価値観の多様性が失われる恐れがある。また、一部の声ばかりがマスメディアを通じて大きく取り上げられてお墨付きを得ることで、不要な対立や誤解を生む可能性もある。さらに、一部の声が多数派として伝わり、公共の議論や意思決定の参考とされてしまう・・・