4月5日の日経新聞経済面コラム「大機小機」、「安倍回顧録にみる「政と官のゆがみ」」から。
・・・安倍晋三元首相が財務省との意見対立や嫌悪感をつづった「安倍晋三 回顧録」(中央公論新社)が話題になっている。対立の直接の原因は、リフレ派の考え方に立つ元首相が、法律で施行時期が決められていた消費増税を2度も延期したことである。MMT(現代貨幣理論)という異端の経済思想を信奉し財政健全化に興味を持たなかったことも対立を加速させた。一国の首相と官僚組織との間で、財政・経済政策でこれほど大きく意見が異なる事態は、おそらく戦後初めてではないか・・・
・・・さて、一国の首相が異端の経済学を信奉し政策を行おうとした場合、専門家集団である官僚組織はどう対応すべきだろうか。小泉純一郎内閣時代は、首相の諮問機関である経済財政諮問会議でかんかんがくがくの議論が行われた。しかし安倍元首相は増税延期を公約に掲げ選挙を行い、その勝利をもって自らの判断を正当化した。これはポピュリズムそのものである。
一方で政府の役割である構造改革などに手を付けず、10年続けたリフレ派の社会実験も効果を上げなかった。この間の政治と官僚組織の政策決定のあり方は大いに検証される必要がある・・・