年別アーカイブ:2022年

連載「公共を創る」104回

2022年1月13日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第104回「その理念的な推移」が、発行されました。新年第1号です。

連載第97回(2021年10月28日号)から、社会と政府の関係を再検討しています。
「日本社会が成熟化したのに、私たちの意識と社会の仕組みが追い付いていないことによって、社会の活力と安心が失われている。活力と安心を取り戻すためには、私たちの意識や社会の仕組みを変え、政府の役割を見直す必要がある」というのが、本稿の主張です。その議論の前提として、これまでの歴史の理念的な推移を、簡単におさらいしておきます。

極めて単純化すると、近現代史は、自立した市民像を理想とし、社会や市場に介入しないことが良しとされた自由主義の時代(19世紀)と、自由主義経済を修正し市場の失敗に政府が関与する、併せて弱者に対し社会保障を充実してきた福祉国家の時代(20世紀)から成っていると言えます。
そして、社会の担い手たちはそれぞれに、その時代の社会の問題に対し対策を積み重ね、理論をつくり、さらに対策を進めてきたのです。

市場経済への介入、社会への介入、個人・家庭への介入の三つに分けて説明します。今回は、市場経済への介入です。財政学の教科書に出てくる3機能のほかに、「市場経済が機能する基盤整備」「市場経済の欠陥是正」「国民生活の向上」などもあります。

民主主義対専制主義

2022年1月13日   岡本全勝

1月6日の日経新聞オピニオン欄、ハビエル・ソラナ・スペインESADE世界経済・地政学センター長の「民主主義国、対立超え協調を」から。

・・・民主主義はまだ生きているが、明らかに弱体化する兆しをみせている。米人権団体フリーダムハウスによる各国の自由度を測る指数は2020年、15年連続で低下した。
バイデン米大統領は21年12月、オンライン形式による「民主主義サミット」を開いた。権威主義の台頭に対抗するため、約110カ国・地域を招き、世界的な民主主義の強化を目指した。国々が集まり、地球規模の具体的な問題に取り組むのは悪いことではないだろう。だが、国際関係の構図を、単なる民主主義国家と専制主義国家の衝突と定義すべきではない。
重要なのは、こうした集まりを問題解決につなげることだ・・

・・・民主主義と専制主義の分断は、地球規模の問題を管理する基盤となる国際機関に及ぶ可能性もある。世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥って久しい。先進国と途上国の対立などが深刻になっているからだ。既に存在する対立に、民主主義国と非民主主義国の分断という要素が加われば、解決はさらに難しくなる。ほかの国際機関では世界保健機関(WHO)も、新型コロナウイルスの危機に立ち向かうには資金不足だった。

民主主義国は、非民主主義国とのイデオロギーの違いを強調するのではなく、自らと世界に対する責任を認識すべきだろう。最初の課題は、国内の経済格差の縮小だ。第2次大戦後、民主主義国は主に福祉国家を建設し、経済成長と社会的結束を保証することで存在意義を示した。だが社会的な一体感は最近の数十年で大きく後退し、特に08年の世界金融危機や20年からの新型コロナ危機などで弱くなったようにみえる。
社会・経済の格差は、民主主義への脅威だ。他人と隔たりのある生活をすることで、集団的な政治参加は難しくなってしまう。多くの国で民主主義が後退しているのは、経済の低迷を政治システムが反転させられるという信頼感を失った、市民の不満が一因になっている。

民主主義国の第2の課題は、「グローバル・サウス」と呼ばれる発展途上国の一層の開発に求められる社会・経済的な整備を、明確に主導することだ。途上国での民主主義的な価値観への支持を維持することにもつながる。例えば途上国の新型コロナのワクチン接種を迅速化することは、民主主義の力を示すのに有効だ・・・

・・・民主主義を強化する必要があるのは明らかだが、最も急を要する国際的な課題を解決するための他国との協力が妨げられるべきではない。価値観の異なる国々との協力が、民主主義に求められていることだ・・・

長谷川真理子「私が進化生物学者になった理由」

2022年1月12日   岡本全勝

長谷川真理子著「私が進化生物学者になった理由」(2021年、岩波現代文庫)をお勧めします。長谷川真理子さんは、元早稲田大学教授、総合研究大学院大学学長。その半生記です。生物好きの少女が、生き物を対象とする研究者になります。しかし、そう簡単な道のりではありません。

今では考えられない「男社会」の中を、生き抜いていきます。女性には、学者や研究者の門が閉ざされていたのです。長谷川さんも、研究をあきらめ、教育者として生きていきます。
さらに、「既存学界」の壁にもぶち当たります。通説を批判すると、長老たちから笑われ、無視されるのです。それも理屈ではなく、「長老たちのお師匠さん」を批判することは許さないという理屈です。
日本の学界、それも自然科学の分野で、こんなことがあったのだと驚きます。その意味でも、貴重な記録です。

富裕層の数

2022年1月12日   岡本全勝

1月3日の日経新聞「どこ吹くコロナ、新富裕層台頭」に、国内富裕層の保有資産規模と世帯数が、図になって載っていました。野村総合研究所の調べ、2019年の数値だそうです。
それによると、富裕層の区分、世帯数、純金融資産保有額は、次の通りです。
超富裕層、5億円以上。8.7万世帯、97兆円
富裕層、1億円以上5億円未満。124万世帯、236兆円
準富裕層、5千万円以上1億円未満。341.8万世帯、255兆円
アッパーマス層、3千万円以上5千万円未満。712.1万世帯、310兆円
マス層、3千万円未満。4215.7万世帯、656兆円

世界では、100万ドル(1億1千万円)以上の金融資産を持つ富裕層は2080万人。
国別では、アメリカに次いで日本が多いのだそうです。ドイツ、中国、フランスなどに比べはるかに多いようです。

真鍋淑郎さん、他人を気にしすぎる日本

2022年1月11日   岡本全勝

2021年のノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さんの記者会見(10月5日)から(朝日新聞ウエッブサイト

記者 日本からアメリカに国籍を変えた主な理由は?

真鍋 面白い質問です。日本では人々はいつも他人を邪魔しないようお互いに気遣っています。
彼らはとても調和的な関係を作っています。日本人が仲がいいのはそれが主な理由です。ほかの人のことを考え、邪魔になることをしないようにします。日本で「はい」「いいえ」と答える形の質問があるとき、「はい」は必ずしも「はい」を意味しません。「いいえ」の可能性もあります。(会場から笑い)
なぜそう言うかというと、彼らは他人の気持ちを傷つけたくないからです。だから他人を邪魔するようなことをしたくないのです。

アメリカでは自分のしたいようにできます。他人がどう感じるかも気にする必要がありません。実を言うと、他人を傷つけたくありませんが、同時に他人を観察したくもありません。何を考えているか解明したいとも思いません。私のような研究者にとっては、アメリカでの生活は素晴らしいです。
アメリカでは自分の研究のために好きなことをすることができます。私の上司は、私がやりたいことを何でもさせてくれる大らかな人で、実際のところ、彼はすべてのコンピュータの予算を確保してくれました。
私は人生で一度も研究計画書を書いたことがありませんでした。自分の使いたいコンピュータをすべて手に入れ、やりたいことを何でもできました。それが日本に帰りたくない一つの理由です。なぜなら、私は他の人と調和的に生活することができないからです。(会場から笑い)