支店の「本部長の接待マニュアル」

日経新聞私の履歴書、6月は矢野龍・住友林業最高顧問です。21日の「住宅本部長 抜き打ちで展示場を視察」から。

・・・僕が専務時代の1998年、住宅の業界誌に販売が低迷を続ける住友林業の体たらくを手ひどく批判されたことがあった。僕は担当外だったがこれを読んで怒りに体が震えるようであった。業界の「負け犬」呼ばわりなのだ。
僕は業界誌を3月の取締役会に持っていって「こんなことを書かれて悔しくないんですか。低迷の理由として1番目に、リーダーシップ不足と書いてある。まずは我々役員が猛反省し、早急に立て直しの対策をたて、実行に移すべきです」と訴えた。
すると5月1日付で住宅本部長の辞令が出た。なら君がやれとなったのだ。

辞令当日は早速、横浜の住宅展示場に行き、現場を激励した。しばらくして仙台に行ったときのことだ。新幹線から降りると現地の幹部以下がずらりと並んでホームで待っていた。それで言うには、今夜は宴席の用意があり、翌朝は朝礼の後、市内観光と展示場の視察をして、お土産に牛タンをもたせるという。
なんでそんなことをするのかと聞くと、全国の支店に本部長の接待マニュアルがあるそうだった。お客様の営業に費やすべきエネルギーを、社内のご機嫌とりに使って何になるのか。地酒、カラオケ、形だけの朝礼や視察、お土産など、即刻やめてもらった。

それ以降は予告していくのをやめ、抜き打ちでいきなり展示場に行くことにした。僕は本部長を務めた5月からの11カ月間、全国300カ所あまりの展示場をくまなく回った。僕はこの間、結果的に1日も休まなかった。神は現場に宿るというのが僕の考えだ。現場の話をじっくり聞き、ここを直してほしいという要望には即座に対応して、会社の仕組みに反映させた・・・