「知ってる、知ってる」

原研哉著『低空飛行ーこの国のかたちへ』(2022年、岩波書店)の14ページに、次のような文章があります。
「情報過多と言われる今日、人びとは何に対しても「知ってる、知ってる」と言う。英語で言うと「I know! I know!」。ウイルスについても、ヨガについても、ガラパゴス諸島についても・・・。なぜか「知ってる、知ってる」と二回言う。しかし何をどれだけ知っているのか。情報の断片に触れただけで知っているつもりになっているように見える。」

指摘の通りです。なぜか「知ってる」を二回繰り返すのですよね。それは「知ってる」とゆっくり一度言うのと、意味が違うのでしょう。そして若い人にとって、知人との会話で「知らない」というのは、勇気が要ることかもしれません。

そして、次のような文章が続きます。
「だから今日、効果的なコミュニケーションは、情報を与えることではなく、「いかに知らないかを分からせる」ことである。既知の領域から未知の領域へと対象を引き出すこと。これができれば人びとの興味は自ずと呼び起こされてくるのである。」

インターネットとパソコン、スマートフォンの普及によって、膨大な情報を瞬時に得ることができるようになりました。しかし他方で、それらの機器と情報の虜になっていることも多いです。送られてくる情報を追いかけることで精一杯になり、またそれで満足することで、自ら考えることがなくなります。それは情報と時間の消費(浪費)であり、学習や思考ではありません。