2月18日の朝日新聞オピニオン欄、吉川徹・大阪大学教授の「学歴分断を超えて」から。
――日本社会は「学歴分断社会」だと主張されていますね。
「日本では、最終学歴が大卒(短大卒、高専卒含む)か、非大卒(中学校卒、高校卒、専門学校卒)かによって、社会に出てから大きな社会経済的格差が生まれることが、大規模な階層調査のデータから明らかになっています」
「戦後、高学歴化は進みましたが、1980年代に大学などへの進学者がほぼ半数になってから伸び悩み、ここ数年は60%前後です。成人における大卒者は現在ちょうど50%。この比率はこの先20年は大きく変わりません」
――その学歴格差を「分断」とまで言い切るのはなぜですか。
「分断とは、二つの集団の構成員が入れ替わらず固定化しており、集団同士が隔てられ、相互交流が少ない状態をさします。いま日本の現役世代は約6200万人ですが、70%以上が親と同学歴です。大卒の子は大卒、非大卒の子は非大卒という形で世代を超えて学歴格差が継承されている。夫婦間の学歴もほぼ70%が同じです」
「大卒と非大卒は人生の経路が交わらず、交流も少ない。ある学生が、成人式で小中学校の同級生に再会して学歴分断を実感したと語っていました。『長い間会わなかったから存在さえ忘れていた。大学に進まない彼らとは生活スタイルも話題も重ならない』と」
――大学無償化など高等教育への公的支援を増やすのですね。
「経済的事情で大学進学を諦める若者は支援すべきです。ただ、『誰もが大学で学ぶべきだ』と一つの道だけに誘導する政策はいかがなものでしょう。豊かに生活できる地位を得るには大学に行くしかない、という考えを押しつけるのは『大卒学歴至上主義』にほかなりません」
――でも、大卒の方が社会的経済的に恵まれるのでは。
「大卒の学歴は必要ないと自分の人生を思い描き、十分に考えて高卒、あるいは専門学校卒で社会に出て行く若者は少なからずいます。なのに、大学に進学しない若い世代の存在を、すべて貧困問題のように見るのはおかしい。官僚も政治家も有識者もマスコミも、大卒の世界中心で生きてきたので、そのような非大卒層の心情が見えていません」
「政府は大学院進学率の向上に躍起ですが、様々な誘導策にもかかわらず、この20年間、大学院進学者はずっと同年人口の10%程度です。自分の将来には大学院という学歴は必要ないと考える大学生が多いからです。同じように確信をもって大卒学歴を求めない高校生もいる。その生き方も尊重されるべきだと思います」
――学歴分断線をはさんで若い大卒と非大卒は、お互いをどう見ているのでしょうか。
「現在の60代以上では、非大卒家庭出身で大卒になった『大卒第一世代』が70%ほどを占めています。彼らは、農業や工場労働の出自から、ホワイトカラーへと地位上昇を自ら体験した世代です。分断線を超えて上昇したから、両方の世界が見えており、社会全体の構成がわかっています」
「一方、20~30代では、大卒家庭で生まれ、当然のように大卒になった人たちが半分以上になり、同年代の半分を、非大卒が占めていることを実感できていない。だから、非大卒層が社会を維持するための重要な仕事を担うことへの敬意も薄く、『上から目線』で彼らを偏差値ゲームの脱落者と見ているか、そもそも視野に入っていないのかもしれません」