年別アーカイブ:2021年

合意形成型の議論と選択肢提示型の議論

2021年2月13日   岡本全勝

2月5日の日経新聞経済教室、野口雅弘・成蹊大学教授の「政治とコミュニケーション 合意形成偏重に落とし穴」から。「政治は合意形成と選択肢提示双方が必要。議論なき「安定」優先は政治を貧困化する」

・・・価値観や感性が異なる複数の人間が集まって、集団としての決定をしようとするとき、私たちは一つの結論に到達できるように、丁寧にかつ妥協的に話を進めようとする。合意形成型のトーク(語り)が求められるのは、こうしたときである。
中学校のクラスや大学のサークルから、職場のプロジェクトチームまで、こうした志向のコミュニケーションは私たちの日常生活の多くの場面で使われている。それぞれの見解の隔たりを埋め、互いに歩み寄る努力が、このトークでは建設的な貢献として評価される。いわゆる「コミュ力(コミュニケーション能力)」という言葉もしばしばこうした意味で用いられる。
ただし、政治的コミュニケーションはこれに尽きるわけではない。大きな方向性をめぐる、対抗的な選択肢提示型のトークも必要なのだ。原発推進か脱原発か。夫婦別姓に賛成か反対か。あるいは議会や企業の取締役会の一定割合を女性にする「クオータ制」を導入すべきかどうか。どちらかを選ぶことで、私たちの社会のありようは大きく変わる。しかし、「あれかこれか」の問題なので、かなり激しくぶつかり合うこともあるかもしれない。
きちんと論争すべきこうした大きな課題について、与党と野党がお互いの立場を明らかにし、理由を述べて討論し、次の選挙のときの選択肢を示すことは、民主政治に不可欠なトークである・・・

・・・制御しきれない論争の噴出はゴタゴタ感を生む。しかし、論争を封印することによる安定性の確保は、疑問や批判を受けてコミュニケーションを深める可能性を損なってしまうことになるだろう。民主党政権末期には前者が問題にされたのに対して、コロナ禍の今は、むしろ後者が不満を生んでいるようにみえる。
政治において合意形成型のトークが重要なのは言うまでもないが、このトークだけが支配的になると、どうしても構成員に同調圧力がかかりやすくなる・・・

復興事業の教訓、集落の集約

2021年2月12日   岡本全勝

日経新聞、大震災復興事業の検証。町の復興」の続きです。

今後の大災害の際に町の復旧に際して検討すべき課題は、ある街並み(集落)をどの規模で復旧するのかということのほかに、いくつもある集落をそのまま復旧するかということがあります。前回紹介した玉浦西地区は、集約した成功例です。
移転には、困難な判断が伴います。それぞれに思い入れのある土地で、田畑やお墓もあります。また、働く場をどうするかも課題です。その点で「もう少し工夫できたのではないか」という場所があります。三陸沿岸の漁業集落です。

入り組んだリアス式海岸の入り江ごとに、漁港と集落があり、その先に漁場があります。今回は、その集落ごとに、それぞれ近くの高台に移転しました。漁港と漁場がある以上そこを離れられないと、私も考えました。
ところが、それぞれの集落は小さく、学校や商店、病院がありません。車で町の中心まで行くのです。そのような集落が維持できるかどうかは、後継者がいるかどうかによりますが、10年後20年後に続いているか心配です。
発想を転換すれば、漁港と漁場はそのままにして、住宅は町の中心に移転する方法があったと思います。漁師さんには、町の中心の自宅から漁港に通ってもらうのです。道路が整備されたので、1時間もかからずに漁港に行けるでしょう。

漁業でなく勤め人の集落なら、さらに移転は容易だと思います。子育て中の家族にも、買い物をするにも、病院に行くにも、その方が便利です。田畑が元の集落近くにある方にも、車による「通勤」ができると思います。この項続く

日経新聞、大震災復興事業の検証。町の復興

2021年2月11日   岡本全勝

日経新聞の大震災復興事業の検証、2月10日の第3回は町の復旧でした。「東北被災地、かさ上げ造成の3割空き地 旧時代の復興が壁

「町の復興計画が大きすぎて、空き地があるではないか」という批判については、「復興事業の教訓、過大な街づくり批判」に、随時計画の見直しをしたけれど、それでも空き地が出ている理由を説明しました。
その背景にあるのは、人口減少下での復旧のあり方です。「復興事業の教訓、過大な防潮堤批判」に、「町が縮小するときに、各種施設を元の大きさで復旧するのが良いか、が問われると思います。それは、防潮堤に限らず、道路、学校、農地などにも当てはまると思います」と書きました。

広がっていた町(集落)を集めて再建した事例として、次の2つが参考になります。
宮城県女川町は、町の中心部をかさ上げして、商店や学校などを集約しました。
宮城県岩沼市玉浦西地区は、沿岸部にあった6つの集落を内陸の一か所に集めて移転しました(資料の5枚目を見てください)。既にある集落の隣につくったので、学校や商店もありました。この項続く

ところで、災害公営住宅3万戸、宅地造成1.8万戸がしばしば取り上げられますが、このほかに15万戸が支援金を受けて自力で再建しています。

人文知応援フォーラム

2021年2月11日   岡本全勝

人文知応援フォーラムが、2月28日に、第1回人文知応援大会「コロナという災厄に立ち向かう人文知」を開催します。オンラインで見ることができます。ご関心ある方は、お申し込みください。

佐々木毅先生の基調講演「ポピュリズムとコロナ禍の社会の中で」のほか、五百籏頭眞先生の「コロナ危機と国際政治~リベラルデモクラシーは普遍的価値たり得るか~」、福岡伸一先生の「科学技術にとって人文知とはなにか」などが予定されています。

日経新聞、大震災復興事業の検証。産業復興

2021年2月10日   岡本全勝

日経新聞の大震災復興事業の検証、2月9日の第2回は産業復興でした。「水産加工の沈下やまず 津波被災地「空白」埋める挑戦

今回の災害復旧復興政策での大きな項目の一つが、産業なりわいの再建支援です。以前の災害では、事業の再建は事業者の自己責任でした。今回、町での暮らしを再開するために、そして地域のにぎわいを取り戻すために、産業再開に国費を投入しました。商店がないと暮らすことができず、勤め先がないと失業します。仮設店舗や工場の無償貸し出し、グループ補助金、二重ローン対策、人とノウハウの支援などです。

これらの支援策も、当初から全体像を持って行ったものではありません。そのときそのときに必要なものを考え、政策として作り上げたのです。従来の「哲学」を変更するには、それなりの理屈が必要です。グループ補助金も、当初は地域の主たる産業を再建するという趣旨(縛り)でした。その後、その条件を徐々に緩めました。
施設設備を復旧しても売り上げが戻らない事業もあり、大企業から人とノウハウの支援をもらいました。これらの支援策を積み上げ、産業なりわい支援を復興の大きな柱の一つとしたのです。参考「復興がつくった新しい行政

これは画期的なことで、関係者からも高く評価されました。ただし、いくつかの課題も見えてきました。
まず水産業では、サンマや鮭といった魚が捕れなくなり、困っています。
グループ補助金では、復旧を目指したので、環境の変化や事業の進化を織り込むことができませんでした。変化の激しい現在の事業環境では、先を読むことも必要なのでしょう。しかしそれは難しいことです。
公共インフラの復旧は、行政が主体になって行うことができますが、産業となりわいは、主体は事業主です。支援はできても、判断は事業主にかかっています。この項続く