9月3日の読売新聞「竹森俊平の世界潮流」「欧米の対中競争「戦線」拡大…ワクチン・太陽光 パワーを左右」から。
・・・ところでシンガポール政府が公式に認めたワクチンは米ファイザー製、米モデルナ製だけだが、公式ではないものの、中国製ワクチンも接種が認められている。
シンガポールと中国の経済関係は強い。中国政府は有効なワクチンとして中国製だけを認めている。より高い治験成績を持つファイザー製、モデルナ製とも有効性を認めていないのだ。それで中国に出張の機会が多いシンガポール人は、仕方なく中国製ワクチンを接種する。
現在、主要先進国は中国製ワクチンの有効性を認めていないため、「ワクチン接種」が主要先進国への入国に必要になった場合、中国は孤立しかねない。
他方、世界保健機関(WHO)は中国製ワクチンを承認している。発展途上国でのワクチン接種は遅れている。欧米のワクチンは先進国での接種に回り、途上国へ供給する余裕がない中で、中国製は重症化率、死亡率を下げる効果があるとして、WHOは途上国への供給を念頭に承認したのだ。これを受けて中国は、アジア、ラテンアメリカの途上国に広範にワクチンを供給している。
中国は主要先進国への訪問の道を閉ざされ孤立するのか。194か国が加盟する国際組織のお墨付きを得た中国製ワクチンを、主要先進国はいずれ承認せざるを得ないのか。恐らくこれを決めるのは疫学的安全性だけではない。経済力も絡んでくる。ことはすでに「パワーポリティックス」に発展している。
中国市場を重視するドイツなどの企業人は、出張のために中国製ワクチンを接種するだろう。ギリシャ、スイスなど一部の欧州の観光国は、中国人観光客を期待し、すでに中国製ワクチンを入国条件に承認している。日本はどうするのか。いずれ中国製ワクチン接種の施設が国内にできるのだろうか・・・