7月1日の日経新聞経済教室「国産半導体復活の条件」、藤村修三・東京工業大学名誉教授の「顧客は確保できているのか」から。前段部分を紹介します。本論は、20年前の国主導の半導体開発計画の失敗についてです。その部分は、記事をお読みください。
・・・設計論の文献によると、設計と生産が分かれたのは110から130年前とされる。それまでは、作っては評価し手直しし再び評価するという、生産と評価・修正を繰り返して完成させる方法が一般的だった。生産対象が複雑になるに従い、性能の追求と期間内での実現という相反する課題を解決することと、確実で効率のよい生産プロセスを確立することに対する必要性が生じ、設計と生産は分離することになった。
工学者ジョセフ・ブルムリッチは1970年の論文で、ハードウエア製品を対象に設計を3つのステップに分けた。第1段階はアイデアをコンセプトにする段階だ。製品の実現に有効と思われるアイデアを基に、実現可能性を検討する。第2段階では製品の構成要素とそれらが果たすべき機能を確定し、実現方法を確定する。製品の機能構造を決定する段階である。そして第3段階を、確定した機能を実現するために具体的な図面を作製する段階とした。その上で、設計者が最も喜びを感じる、言い換えれば、腕前を発揮できるのが第2段階であるとした。
これはハードにとどまらず、すべてのシステム設計に当てはまる。システムとはそれぞれが独自の役割を持つ複数の構成要素から成り、それらの要素の相互作用により、システム全体として何らかの作用を実現する人工物のことである。質量を伴うモノとは限らない。コンピューターのプログラムは質量を伴わないがシステムである。
また、全体も構成要素も静的なものとは限らず、動的であってもそれらの要素が連携して、全体として何らかの作用を実現する場合はシステムである。複数の異なる役割を持つ部署から成る企業もシステムであり、企業が行うビジネスも各部署が行う活動が連携して社会への作用を実現するので、システムである。同様に、日本政府が行うプロジェクトも動的なシステムと考えることができる・・・