年別アーカイブ:2020年

行動制限を法律で行う国とお願いでする国

2020年4月28日   岡本全勝

4月27日の読売新聞文化欄、武田徹・専修大学教授の「総力戦 自粛で結集する日本式」から。
・・・総力戦とは軍人だけでなく、一般市民が兵器生産工場での労働に徴用されるなど、全国民を戦争に動員する体制のこと。第一次世界大戦時に欧州諸国で採用された。1938年に国家総動員法が成立した日本も日中戦争、第二次世界大戦を総力戦体制で戦った。
こうした総力戦体制はその後どうなったか。たとえば第二次大戦後の西ドイツでは非常時に私権の制限も含めた迅速な対応を連邦政府に認める基本法改正を1968年に実施したが、この改正では行政府の暴走を防ぐ歯止めや市民の抵抗権も同時に盛り込まれた。このように欧州の自由主義国は非常時の強権発動を民主主義の枠組みの中に位置づける努力をしてきた。
今回、その成果が新型コロナウイルス感染症対策で発揮される。欧米諸国は緊急事態宣言を発し、都市封鎖などを実施した。ドイツではメルケル首相が演説で国民の理解を求め、強い私権制約を含む対応がスムーズに受け入れられた。

その点、日本は違った。戦後、国家総動員法は廃止されたが、日本人は一丸となって戦災復興や高度経済成長を実現した。法に基づく強制から同調圧力を伴う自発的行動の誘発へと動員方法は変わったが、総力戦体制に通じる結集力を日常的に維持したところが戦後日本の強みとなってきた。
しかし新型コロナ感染症への対応では逆にその弱さが露呈する。日本では緊急事態宣言を出した後も強制よりも自発的行動に期待する、まさに日本式総力戦体制で感染症と戦おうとした。だが、気が緩むと自粛ムードが一気に萎しぼむなど感染防止がうまく進まない・・・

4月25日の朝日新聞オピニオン欄「自粛要請の落とし穴」山崎望・駒澤大教授の発言から。
・・・日本では、緊急事態宣言を出したものの、自粛要請にとどまっている。私権の制限という点では限定的ですが、問題がないとは言えません。
「3密の場所には行かないで」といった要請は、一見、穏当に見えます。しかし、責任の主体が政府ではなく、個人に帰せられている。「個人が勝手に自粛し、責任を負う」図式で、政府は責任を取らない。これは、新自由主義的な自己責任論の典型です・・・

・・・その結果、自分や他人の責任を問い合う、監視社会のようになりつつあります。みんなで社会のルールを決めるという民主主義の原理ではなく、「自分勝手なことをするな」という道徳的な感情が前に出てきてしまっている・・・
原文をお読みください。

インターネットを使い、子育ての悩みに答える

2020年4月27日   岡本全勝

4月22日の日経新聞「挑戦者たち」は、アジアン・ペアレント・グループCEOのロシュニ・マタニ・チョンさんの「子育ての悩み アプリが寄り添う」でした。シンガポールに住み、東南アジア最大の子育て支援サイト「アジアン・ペアレント」を立ち上げ、運営しています。
近代化と西洋化で、子育ての方法や意識が変化し、親に教わった子育ての仕方が通用しなくなっています。不安な新米パパとママを、支援する仕組みです。

・・・私たちのアプリは子育て中の親にとって百科事典のようなもの。サイトを訪れれば全ての課題が解決できるので、同じ悩みを持ち続ける必要がなくなる・・・
・・・起業のきっかけは米国での経験だ。大学卒業後、白人の家庭でベビーシッターのアルバイトをした。驚いたのが、しつけの方法だ。子供が悪いことをすると親は「もっと良いやり方はないかな」と諭していた。「そんなことやめなさい」と怒られた自らとは全く違った。

「西洋では子供にも内省させる。罰を与えるアジアのしつけとは違う」。華人系が7割を超えるシンガポールで、インド系として少数派意識を持ちながら育ったマタニは「自分がアジア人であることを実感した」。
マタニの驚きはアジアの親たちの戸惑いに通じる。自分が育てられた時代より豊かになり、欧米から入った自由や自主性を尊ぶ気風も高まった。隣近所の親類から聞く伝統的で画一的な子育ては現実とかみ合わない。では、どうしたらよいのか。マタニのアプリはそんな親たちが疑問や悩みをぶつけ、情報を得ながら自らの子育てを考える新しい舞台を提供している。

妊娠中の服装や環境といった身近な疑問に答えるほか、欧米の子育ての研究を各国語に翻訳して解説する。利用者同士で助言し合うこともできる。利用者は無料で、サイト上の広告や利用者を対象とした調査データの外販で稼ぐ事業モデルだ・・・

隈研吾さん、建築家の仕事に見る社会の変化2

2020年4月27日   岡本全勝

隈研吾さん、建築家の仕事に見る社会の変化」の続きです。
・・・建築設計の世界は、技術を身につけて独立することへのハードルが低い。組織を柔軟に大きくも小さくもしやすい。
ただ日本では、転職をしやすいはずの業種や職種でも、柔軟な組織運営ができなくなっているんじゃないでしょうか。たとえばゼネコン(総合建設会社)の設計担当者も、簡単に独立開業できるはずなのに、そうしない。日本の大企業の終身雇用文化を共有している、というか、させられちゃってるんでしょうね。

大企業とのお付き合いで感じるのは、判断が硬直的で決定が遅いことです。誰かがリーダーシップを持ってばんばん言い、決断していく雰囲気をあまり感じません。時代の変化が激しい中、それでついていけるのでしょうか。

地方の小さな役所の仕事をして感じたことがあります。東京の人より終身雇用から自由で、一緒に仕事をして面白い人が多いんです。地方の役所には自宅で農業などをしていて、役所を辞めても家の生業で暮らしていける人が少なくない。実際、定年前に辞める人も多い。いつでも辞められると思うと、自由に考えて決められるんじゃないでしょうか・・・

在宅勤務が変える仕事の仕方3、達人たち

2020年4月26日   岡本全勝

在宅勤務を行っている人たちに、様子を聞きました。
しばしばこのホームページに登場するNPOの職員たちは、当初は予定されていた仕事の取り消しが続き、ぼやいていることもありましたが。さすが、自分たちで新しい世界を切り拓く人たちです。この逆境でも、仕事は繁盛しているようです。

・あらゆる会議がオンラインになりましたが、空間移動の制約がないためか、以前より量が増え、質も良くなった気がします。
・もっと前からこの方式でやってれば良かったと思います。
・オンラインでの会議も、こうなる以前から普通に実施していましたが、そればかりになると、かなり疲れます。
・移動の時間がない分だけ、次々と予定が入ってきます。
・オンラインでの研修依頼も増えてきました。
・大学の授業もオンラインで始めました。少人数なので不都合はありません。

さらに、人助けに乗り出す人も。頼もしい人たちです。
・自宅に待機しながら、コロナウイルス関連の対策に追われています。
医療機関向けの食材提供、全国の低所得子育て世帯向けの食材提供。事業が減ったNPO職員を、他のNPOに出向させる仕組みづくりなど

育休から職場復帰した若手職員は。
・生後6月の子どもは、自宅近くの保育園に入園しましたが、緊急事態宣言の発令を受け、登園自粛の強い要請のため預けることができなくなりました。当面はテレワークを中心に勤務し、この状況を乗り切りたいと思っています。
保育園に預けることができないのは困りますが、子どもと過ごす時間が増えたことを前向きに捉えつつ、仕事と両立させます。

隈研吾さん、建築家の仕事に見る社会の変化

2020年4月26日   岡本全勝

4月22日の読売新聞、著名人の経済トークは、隈研吾・建築家の「場当たり的組織に柔軟性」でした。社会の変化を的確に表しておられます。

・・・僕の上の世代ぐらいまで建築家の世界には「出世すごろく」がありました。
若い頃は個性的な住宅を設計する。次は小さな美術館。だんだん大きな公共建築物を手がけるようになり名を成していく。このすごろくに沿って出世のコマを進めていけばよかった。
それは高い経済成長が続き、公共事業が山ほどある時代を前提としていたんです。僕らの世代は低成長期に入り、出世すごろくはなくなりました。
「すごい形」の建築を手がけることは望めません。狭い敷地に小さな商業ビルを作る仕事から始めました。条件が限られる中で、自分が何を楽しめるのかを考えた答えが、材料と細部にこだわること。そして過程を楽しむ、日々の打ち合わせを楽しむことです・・・バブル経済崩壊後の1990年代に入ると、東京の仕事が全くと言っていいほどなくなり、地方で仕事をすることにしました。

現場で実際に手を動かしている職人さんとじっくり話をして、工夫を出し合いました。東京の仕事だと、我々建築家の打ち合わせの相手は建設会社の現場所長さんです。職人さんと話をする機会はありません。
職人さんのやり方は、原理ではなく、状況に応じたその場その場での対応から入っていきます。大学で教える建築は原理を重視しますが、原理を重んじるやり方の限界も感じていましたから、職人さんが下から積み上げていくやり方を学ぼうと思いました。
「場当たり的」「だましだまし」「その場しのぎ」。そんな表現を、否定的ではない意味で使うようになりました・・・

・・・今は時代の大きな変わり目だと思います。住宅市場も、昔は新築のマイホームを建てることが人生設計の前提にあり、そこに住宅ローンと終身雇用がセットになっていた。それが今は、賃貸やルームシェアへの関心が高まっています。
職業観の変化も感じます。かつては東大の建築学科を出たら中央官庁やゼネコンに就職するのが王道でした。最近はそうした「大企業の匂い」が強いところは学生にあまり人気がありません。学生は終身雇用の空気を重苦しく感じているんじゃないでしょうか・・・
・・・建築家も皆と同じ目線で話して、自分で手を動かす人でないとやっていけない。かつてのように「こちらの原理を尊敬しろ」と言うのでは仕事は来ないでしょう。
建築に限らず専門家不信が広がっているのは、20世紀の学問が持つ原理主義みたいなものに、あらゆる領域で限界が見えてきたことがあります。原理と現場、それぞれの良さと限界を知ることが重要です・・・
この項続く