「前衛の思想、後衛の思想」の続きです。道路を造ってもバスが廃止されると、利用者からすると困る、ということを指摘しました。
他方で、企業は、新しい自動車の技術の開発にしのぎを削っています。世の中を便利にするには、よいことです。企業は利益を求め、新しいことに挑戦します。社会全体がどうなるかは、個別の企業の責任ではありません。それを全体で見て、調整するのが政治の役割です。例えば車に関して言えば、環境保護のため排ガス規制を厳しくしたり、安全のためにシートベルト着用を義務づけたり。企業にとって費用がかかっても、必要なのです。
社会をよくするために、便利にするために新しいことに挑戦する、新しく造る。それは前衛の思想です。他方で、取り残される人を支える、社会の問題に取り組むことは、後衛の思想です。市場経済は前者は得意ですが、後者は不得意です。政治と行政は、後者を担わなければなりません。
行政に関して言えば、明治以来西欧に追いつくために、インフラや公共サービスを整備することに重点を置いてきました。遅れた社会を、行政が先頭に立って発展させるのです。これも前衛の思想でした。他方で、その変化についていけない人を支援することも、行政の役割です。それは、後衛の思想です。
私は、「坂の上の雲」と対比して「坂の下の影」と表現しています。2018年5月23日の毎日新聞「論点 国家公務員の不祥事」私の発言「現場の声 政策に生かせ」
連載「公共を創る」でも教育を例に、理想と最先端を教える授業に対し、それについて行けない人(落ちこぼれた人)が出る場合の教育が必要だと主張しています。
駒村康平編著『社会のしんがり』(2020年、新泉社)は、地域での困難や問題を抱えた人を支える人たちを取り上げたものです。