9月11日の日経新聞経済教室、八代尚宏・昭和女子大学特命教授の「70歳雇用時代の正社員改革(上) 定年制・年功賃金、矛盾広げる」
・・・今後の人生100年時代に対応するためには、年齢に大きく依存した日本の働き方の改革が不可避だ。20歳前後での新卒一括採用、年齢や勤続年数による昇進や賃金、および60歳代での定年退職など、年齢で区切られた現行のライフサイクルの矛盾が拡大している・・・
・・・非正社員の賃金格差の主因は、中高年で特に大きな正社員の年功賃金にある。大企業と中小企業の社員の格差についても同様だ。大企業では、未熟練の若年労働者を新卒一括採用し、企業内で長期にわたり熟練を形成する方式が採られてきた。そのために年功賃金や退職金など、労働者が中途で辞めると不利になる賃金慣行が必要となった。
この大企業の働き方には若年失業の抑制、熟練労働者の形成、円滑な労使関係などのメリットがあった。しかし新卒で大企業の正社員に採用された者とそうでない者の格差は生涯持続する。改正法はその格差の期間を政府の権力でさらに5年間延長させるものだ。
1990年代以降の長期経済停滞の下で、正社員に対する生涯を通じた訓練投資はもはや過大となった。情報化技術や人工知能(AI)の発展の下では、特定の企業内で蓄積された熟練が急速に陳腐化するリスクも小さくなく、むしろ雇用の流動性がより必要だ。現に大企業の男性の年功賃金は00年時と比べて40歳代前後で顕著に低下しており、市場の調整圧力が働いていることが分かる(図参照)・・・
同日の読売新聞、鶴光太郎・慶応大大学院商学研究科教授の「「日本型雇用」変えるとき…」
・・・人口減少や女性の活躍、ワーク・ライフ・バランス推進など企業を取り巻く環境が大きく変化しています。日本型の雇用システムは適応するための変革が求められています。
日本の雇用システムの特徴は〈1〉終身雇用〈2〉年功型の賃金体系〈3〉遅い昇進――にあるとされます。会社に従業員を定着させ、時間をかけて育てるための仕組みだと言えます。欧米からの新技術導入など産業の大規模化に伴い、労働者を確保するため1920年代以降、大企業を中心に定着したのです。
中でも年功型賃金は他国との違いが際立ちます。日本では40歳代を過ぎても給料が上がり続けるが、欧米では30歳代後半でストップする。年齢とともに生産性が上がり続けるわけではないからです。
社員が様々な部署を経験しながら長く働くため、社内のコミュニケーションは密になる。微調整を重ねて高品質な商品を作り上げる「すり合わせ」の技術で日本の製造業が強みを持つことを後押ししました。
しかし、バブル経済が崩壊して低成長時代に入ると、ひずみが生じました。労使は中高年の雇用維持を優先したため、しわ寄せされる形で就職氷河期世代や大量の非正規社員が生まれたのです。
こうした日本型雇用のより根源的な問題として、近年指摘されているのが「無限定正社員」という特徴です。仕事の内容や勤務地、労働時間が限定されていない就労形態を指します。
辞令ひとつでどこへでも転勤しなければならず、残業を伴う仕事を命令されても断りにくい。働き過ぎを助長しかねず、ワーク・ライフ・バランスや女性の活躍を阻害してきました。
欧米では職務の内容などがあらかじめ決まっている「ジョブ型」が主流で、日本のような働き方は非常に少ない。産業構造が変わる中、これまで形成されてきた仕組みが最適との認識を捨て、「無限定」のシステムから転換する必要があります・・・