「ヨーロッパ統合、成功の次に来た危機」の続きです。
近代西欧文明は、自然と社会を人間が制御できると考え、実際にそれを進化させてきました。これは、佐藤俊樹先生の『社会は情報化の夢を見る―“新世紀版”ノイマンの夢・近代の欲望』(2010年、河出文庫)で教わったことです。
近代産業社会は、人間が科学技術の力を借りて、自然を支配できると考えるようになりました(科学革命、自然の論理的認識)。あわせて、社会技術によって社会を制御できると、信じました。そして社会制御に関して、2つの大きな制度を持ちました。産業資本主義という経済制度と、民主主義という政治制度です(p205)。それぞれ、神の思し召しではなく、人間が経済を発展させ、人間が政治を操ります。「人間は、自然と社会を理解でき、制御できる」「人間は、自然と社会を理解でき、制御できる。2」
長年、人類にとって大きな敵は、戦争、病気、貧困でした。20世紀後半に、先進諸国では、国際的には平和、国内では治安を達成しました。多くの伝染病にも打ち勝ちました。豊かさを手に入れ、飢餓と貧困からも脱却しました。3つの敵に打ち勝ったのです。これらは、科学技術、自由主義市場経済、民主主義によって、もたらされたものです。
科学技術、自由主義市場経済、民主主義。これら3つの考えの基にあるのは、神様や偶然が自然と社会を支配するのではなく、人間が自然と社会を理解でき、制御できるという思想です。人間主義(ヒューマニズム)が基礎にあります。もう一つ、個人がそれぞれ自由に考え行動してよいという自由主義が基礎にあります。
そして、この3つはものの見方であるとともに、自動的に発展を続ける仕組みを内在しています。参加者の行動が、それらの発展をもたらす仕組みになっているのです。
科学者は、自然のあらゆる現象を説明しようと、研究と重ねます。市場経済は、個人がより豊かになろうと、新たな富を生みだします。民主主義は、政治家と有権者が社会をよくしよう、特に自由と平等を達成しようと、法律や予算をつくります。
それぞれ、個人が努力することが、社会全体の発展につながります。個人を駆り立てるのは、名誉、金銭や権力への欲求です。
これまでは、この仕組みがうまく働き、豊かで、安心で、自由平等の社会を作り上げました。ところが、ここに来て、この仕組みの問題点が明らかになってきました。
この項続く。