アリステア・ホーン著『ナポレオン時代 英雄は何を遺したか』(2017年、中公新書)が面白く、読みやすいです。ナポレオンの伝記ではなく、政治家ナポレオンが何をしたか、当時はどのような時代だったかを整理した本です。
下級貴族に生まれた男が皇帝になり、ヨーロッパを征服する。近代第一の英雄でしょう。しかし、軍人としての才能だけでなく、その後の各国の模範となる民法典など、近代国家の基礎をつくりました。
そもそも、大革命後の混乱、恐怖政治を終結させただけでも、大した力量です。国王を処刑した国民が、10年余りで皇帝をつくるという歴史の迷走もありますが。もっとも、彼を皇帝に押し上げた対外戦争での勝利は、それがないと民衆の支持がないことになり、彼は無謀な戦争を続行します。
ここは、ヒットラーと同じです。歴史上の英雄も、高邁な目標を持って判断と行動するのではなく、その場その場で「よい」と思った判断を積み重ねて、結果を残すのでしょう。後から考えると、「なんで、そんなことするの」と思うようなこともあります。
そして、英雄が一人で判断して歴史をつくるものではありません。たくさんの登場人物の絡み合いの結果でもあります。
本書では、政治や軍事より、建築、様式、文学、社交など、ナポレオン時代のフランス社会・パリが描かれます。お勧めです。
著者はイギリスの作家です。日本人が日本人向けに書く新書も読みやすいですが、翻訳も小著なら、新書が向いているのでしょう。
ジェフリー・エリス著『ナポレオン帝国』(2008年、岩波書店)も、ナポレオン時代を分析した書ですが、そちらの方は、行政組織、経済などより専門的です。