水町勇一郎著『労働法入門』(2011年、岩波新書)が、すばらしいです。出版されたときは、「法律の入門書、しかも労働法を新書で書いて、面白いのかなあ」と思って、読みませんでした。2月12日の日経新聞読書欄で、川本裕子・早稲田大学教授が紹介しておられたので、読みました。読んでみると、新書という読みやすさと、新書とは思えない内容の濃さです。
1 具体事例から入るので、わかりやすいです。海外旅行の予定を立てていたのに、上司から仕事のために時期を変えて欲しいと指示された場合。定年間近になって、後輩に職を譲るために自宅で休養を命じられた場合。
2 国や時代によって労働に対する考え方が違い、労働法はその社会の考えを反映していること。また、法律を変えることで、働き方を変えることができること。
3 西洋の市民革命で、領主や同業組合に縛られていた人々を解放し、自由で独立した存在としました。しかし、自由に働くことができる反面、それまであった共同体の保護を失うことになりました。そして、労働者は過酷な条件の下で、働かざるを得なくなりました。そこで、契約の自由と言う原則を変え、労働契約は法律で一定の規制をかけることにしました。そして、集団としての労働者を守ることも、導入しました。
4 ところが、20世紀の後半から、従来の労働法が前提としていた状況が変わってきました。工場で集団で働くといった標準的な労働者が減って、より自由な裁量で働くホワイトカラーや専門技術者が増え、またパートタイム労働者や派遣労働者も増えました。すると、従来の労働法では、社会の変化について行けなくなったのです。そのために、各国は1980年代以降、労働法のあり方に修正を加える改革を進めています。
私は、1970年代に大学で労働法を学びましたが、その後の社会の変化とそれに対応するための労働法の改革の動きが、とても勉強になりました。労働組合が機能不全になっているのも、この社会の変化によるのでしょう。
5 日本の労働関係の特殊性も解説されています。終身雇用、よほどのことがない限り解雇しないことを前提とした雇用システムです。メンバーシップ型労働社会であり、職に就く就職でなく、会社に入る就社です。それによって、法律や判例が諸外国と異なるのです。
6 労働法には、労働基準法のような規制の法律とともに、雇用政策の法律があること。働けなくなったときに生活を保障する失業手当です。このような消極的労働市場政策だけでなく、より積極的な労働市場政策もあります。雇用調整助成金や職業訓練助成です。
7 社会の変化に応じて、労働政策を変えていく、そして労働法制を変えていく。それが、国家や会社、社会に求められています。
法律というと、無味乾燥な世界と思われるでしょうが、こんなに面白いのです。そして、社会や国家の役割が大きいことがわかります。勉強になりました。