キッシンジャー著『国際秩序』

キッシンジャー著『国際秩序』(2016年、日本経済新聞出版社)を、お勧めします。
第2次大戦後の国際秩序が揺らいでいます。それは、主権国家による調整であり、戦争を回避し、貿易の自由化を進めるというものでした。米ソ対立を抱えつつ、いくつもの地域紛争を引き起こしましたが、これまでの時代に比べ比較的安定した時代を持つことができました。主要国家間では、大きな戦争はなかったのです。
キッシンジャー博士は、現在の世界秩序の基礎を、1648年のウエストファリア体制に求めます。ここで、国際関係が、主権国家を単位に行われることが確立したのです。ナポレオン、ヒットラー、ソ連共産主義などがこの秩序に挑戦しましたが、結局、この体制に戻っています。
正義や信仰を問うことなく、主権国家間の均衡を保つ=秩序を維持する。それがウエストファリア体制のミソです。戦争や条約、国際機関などの取り決めも、主権国家が単位になっています。従わない国は、アメリカを中心とした国々が「制裁」を加えたのです。そして、WTOなどの国際取り決めやEUは、主権国家の権限をさらに国際機関に委ねる方向に進んでいました。

国際社会は、力で解決する「戦国時代の日本のような状態」から、「武力統一された統治」へと進んでいると思われていました。しかし、宗教や民族の対立抗争が激しくなり、テロも激化しています。アメリカを中心とした国家による「警察行為」「抑制」が、利かなくなっています。そもそも、国内を統治できていない(刀狩りが終わっていない)国家・地域もたくさんあります。よく見ると、「安定した国際秩序」ではなく、「覆い隠されていた不安定な国際関係」だったのです。現在の世界秩序が不変のものではないこと、世界政府へ単線的に進まないことが見えただけなく、それどころか不安定になり、どのような秩序・世界関係が生まれるのか不明なのです。
本書は、世界を鳥瞰し、不安定要因を分析しています。ロシア、イスラム、イラン、中東、中国、そしてアメリカの引きこもり、核・テロ・サイバー。さすが、キッシンジャー博士の著です。1923年生まれ、90歳を超えてこれだけの本を書かれるのですね。
私は高校生でしたが、米中国交回復をお膳立てされたことに、感銘を受けました。どうしたらそのような発想ができ、大統領の信頼を得ながら秘密交渉ができるのか。著書の『外交』も名著です。世界の歴史が神様が作るものでもなく、自然と流れでできるものでもなく、人間が作るものだと考えさせられます。

残念なのは、翻訳におやっ?と思う「日本語として通じないか所」があることです。原書に当たれば、すぐに分かることなのですが。ほかの本を読むのが忙しく・・・。